臨時回送・烏山行
お待たせしました。久々に書き上げた関東平野の運転手です。
今回は烏山までの回送列車に乗務します。
入替作業が終わると本宮は列車を3番線に移動させた。ここで本宮は烏山線の信号の開通を待つ事になっている。ちなみに中線で留置されている205系にいる笠幡が手を振ってくれた。その時に信号が開通したので手を振って汽笛を鳴らしてあげた。そしてマスコンを入れる。
「烏山出発、進行!時刻よし、戸閉点灯よし!」
そう指差歓呼して列車を動かし始めた。
ちなみに、EV-E301系は烏山線走行時はバッテリーを使って走りのでパンを下げる。本宮も列車を3番線に停車させたときにあらかじめパンは落としておいたので烏山線に入線準備は整っていた。列車は東北本線を左手に見て烏山線に入る。ここからは単線非電化のローカル線になり八溝山地のふもとにある烏山へ向かって列車は進んでいく。
時刻は16時30分になり列車の車内に差し込む赤い陽もいつの間にか客の乗っていない回送列車を照らしていた。この時間帯は帰宅する学生やサラリーマンで車内が混雑する時間帯だが客が乗っていないこの列車にそんな日常は消えていた。本宮もまたこの異様な雰囲気に胸を弾ませながら、しかし落ち着いた面持ちで運転していた。
単線非電化で1つの軌道が伸びている本宮の視界に烏山線の最初の駅が見えてきた。下野花岡駅だ。この駅は普段全列車が停車するのだが(そもそも普通列車しかないから全列車が止まるんだけど・・・)この列車は途中の大金で列車交換する以外烏山まで停まらないのでなかなか烏山線で途中駅を通過すること自体、本宮にとっては新鮮なことである。
「下野大沢・・・通過、37分45秒・・・」
不安げな声の指差歓呼で大金以外の駅が通過駅の色を示す赤色になっているスタフに指差しした。
下野花岡、通過。
・・・定刻だった。
その後、仁井田、鴻野山と通過していく。時刻は17時00分を回り本宮も顔に疲れが出てきていた。
そして列車交換となる大金駅に列車は到着する。
「大金、停車、07分30秒」
本宮の歓呼が誰もいない・・・しかし斜陽の差し込む2両の列車の車内に響いていた。
そして列車は大金駅下りホームの1番線に停車した。ここで烏山から来る上り列車と交換する。列車が来るまで時間があるのでノッチを『非常』に入れたうえでホームに降りた。
「ふぅ・・・ん~~~~~~っと」
そんな声を上げながら本宮は伸びをしていた。風の吹くホームで黒髪の縛っていないロングヘアーをたなびかせながら・・・。
そんな、ちょっとした休息であったが、だいぶ疲れが吹っ飛んでいった気がしたと、ふと思いながら運転室にまた入っていった。、
そして対抗列車がやってくる。今日はとんでもなくダイヤが乱れているので普段は列車がやって来ないこの時間に宝積寺行の列車がやってきた。運転台においてあるダイヤグラムを見る限り烏山16時38分発の338M列車かな?、と思いながら手を振ってきたその列車の運転士に手を振り返す。
そして本宮のホームの出発信号機が開通した。
「出発、進行!、大金、定発」
そして列車はさらに自然の中を進んでいく、この辺は田んぼが広がっているが今は稲刈りも終わり翌年までの休息時期になっていた。そんな茶色い田んぼが広がる中を列車は進んでいく。そして滝駅を通過すると烏山線最大のハイライト、龍門の滝の上を超えていく、車窓から見下ろす滝は夕焼けに照らされ落水が赤くなり昼間見る滝よりもより一層心を奪われる。ふと車窓左側に目を向けた本宮もこの滝の迫力と美しさに見とれそうにはなるが前を向いて安全運転に努めなくてはならない運転士としての使命をもってマスコンを強く握っていた。
そしてついに終着駅の行き止まりが見えてくる。烏山駅だ。
「烏山、停車、17時19分」
と本宮は指差呼称する。
大きな声で、はじけるような笑顔で・・・
それは夕日に照らされた名瀑で洗われた塵労の一切ない心を象徴しているようであった。
そして宝積寺から烏山線に入った回送列車は無事に烏山に停車した。ここで本宮も機器整備をして運転台から出た。降りたホームでは白髭をはやして赤いラインが入った制帽を被った駅長が出迎えてくれた。
「お疲れ様、さあさ、お疲れだろうし休憩室に行って休んでおきな」
駅長はそう優しく声かけてくれた。本宮も
「ありがとうございます。ところで、この列車って折返しは何になって折り返せばいいんですか?」
そう礼を言って尋ねた。
「え~っと、一応18時34分発の342Mとして宇都宮まで折り返すように指令が来てるかな。あ、これがその列車のスタフだから。よろしく」
「あっ、ありがとうございます。それでは時間まで休憩室で休んでいますね」
「ああ、ゆっくりして行きなね~」
そう行って駅長は事務室へ戻っていった。それをも届けた後、本宮も休憩室に入っていこうとしたとき、ふとあるものが目に留まった。それは夕焼けに照らされまるですでに終わってしまった紅葉が再びよみがえったかのように見えた八溝山地であった。それを見て本宮は
「うわぁ・・・すごい・・・」
とつぶやいて他に何も言葉が出なかった。
・・・本宮が休憩室に入って行って数分経っただろうか、陽は消え八溝の山は黒に染まり夜の始まりを告げていつ。月明かりが優しく駅を照らしていた。
さて、次はいつごろに上がるのかな~(遠い目)




