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「さて、僕に答えられることならなんでも答えるよ」
ロビンは目的を果たしたので、オリバーに向かってにこやかに言う。
そのロビンの腕には、幸せそうに笑っているラフテリアがくっついていた。
「ふむ。コレに並列の陣の説明を求めてみたのだが、全く人の言葉ではなかったのだ。その辺りをご教授願いたい」
「いいよ」
約束である。大魔女の弟子であるロビンの知識を与えるということをだ。
そして『コレ』と言われたシュロスと言えば、イゾラに捕まっていた。
「なぁ、さっき剣とかなんとか言っていたよなぁ。以前使っていた剣がなくなっちまって、いい剣がねぇーんだ。さっきみたいに作ってくれよ」
「鬼の剣かぁ。そうだ!あれがいい!」
イゾラに剣を作って欲しいと絡まれているが、シュロスからすれば己のゲーム脳を駆使するところだと、創る気満々だ。
「シュロスさん。普通の剣です。おかしな機能はつけずに、物を切るだけの剣です」
そのやる気のあるシュロスに、水を差すシェリー。
「ヴィーネも首飾りが欲しい!かわいいのが欲しい!絶対に欲しい!くれないと、全部凍らせる」
作って欲しい剣のことを語っているイゾラの横では、ヴィーネに恐喝されている炎王がいた。
「やめろ!ここは人んちだぞ!ここから選べ!」
ヴィーネに何かの冊子を渡す炎王。
そして、この場にはこの城の主であるモルテ王はいない。
なぜなら、シェリーに渡された数珠を持って部屋を出ていったからだ。
きっと、つがいであるアイラに会いに行って、効果を試しているのだろう。
いや、そもそもモルテ王の存在自体が死の象徴なのだが、それは誰も口にしないのであった。
「エン!これがいい!これ!」
「はいはい」
ヴィーネが指し示した冊子の部分を見て、何かを操作する炎王。
そして、空間から箱を取り出して、そのままヴィーネに渡した。
「つけて。これつけて」
「はいはい」
だが、その箱をヴィーネから突き返される。
孫を相手にしているジジイのように、ヴィーネの言葉に従う炎王。
これが本当に一国の王だった者なのかと思うところだが、それが彼らの関係なのだろう。
「ふふん!リリーナに自慢してこよう」
「やめろ!ヴィーネ」
「きゃはははははは」
炎王が引き止める言葉を無視して、笑いながらヴィーネは何処かに消え去ってしまった。
精霊なので、建物の中だろうと何も関係なく空間に消えていったのだ。
その消えた空間を見て、大きくため息を吐く炎王。これは国に戻ったときが大変だというため息なのだろう。
「佐々木さん。俺だけ戻っていいか?」
いや、今なら間に合うかもしれないと、一筋の望みを見出す炎王。
「え?まぁ、いいのではないのですか?レイグレシア猊下をボコボコにしようぜ作戦を詰めれていませんが」
「話が悪化している!これはここにいないと、本当にそうなりそうだ」
シェリーがエルフ族をあまり良く思っていないのを知っている炎王は、つがいのリリーナのご機嫌取りとシェリーの悪巧みを天秤にかけて、取り返しのつかない方を選択したようだ。
いや、リリーナのご機嫌取りのほうが個人的に最優先事項なのだろうが、シェリーがやろうとしていることは、常識をひっくり返そうとしているので、炎王自身の負荷がかなり高いのだ。
下手すれば、炎王が悪者になりかねない。
「炎王。ケーキが食べたいです。お茶は私が用意するので」
シェリーは突然立ち上がって、腰のカバンからティーセットを取り出し始めた。
そう、場所を移動してから、お茶が出されていないのだ。
モルテ王が戻って来ない限り話が進められないので、これは時間がかかりそうだと判断したようだ。
いや、どこからともなく、アイラの悲鳴が聞こえるので、まだ時間がかかるとシェリーは感じたのだろう。
やはり、問題はモルテ王のまとう力だけではなかったということだ。
「はぁ、何がいいんだ?」
「1カット1000円のケーキで」
シェリーはポットの魔道具でお湯を沸かしながら答える。1カット1000円のケーキなど、ホテル並の金額だ。
「高すぎだ!こちらの世界の換算でいくらになると思うんだ」
「別にいいではないですか。これで交渉して南ルートを開拓すれば、危険な海を移動手段にしなくてもいいですよね?」
「もしかして、フィーディス商会のことを言っているのか?」
炎王はため息を吐きながら、ケーキがはいっていそうな紙の箱を空間から取り出した。
文句を言いながらでも、誰かの希望に応えるのは炎王の性なのだろうか。
「以前から言っているではないですか。モルテ国と交渉すればいいと」
「ああ、そうだな」
そういって、炎王はケーキの箱を開けた。
「うわぁ〜!なにこれ!キラキラした宝石みたい!甘い匂いがする!」
そして、初めてケーキを見たラフテリアが、炎王の横でケーキに釘付けになっていた。
「甘い食べ物だ。どれがいい?」
「全部じゃだめ?」
炎王はラフテリアが近くにいても普通に答えていた。いや、ヴィーネと共にいる炎王だから、普通に対応できているのだろう。
力は薄まったものの、ラフテリアの見た目はどう見ても魔人なのだ。
「リア。こういうのは一人一つなんだよ」
そのラフテリアに対して、子どものように諭すロビン。
「えー!全部食べたい」
「まだ、用意できるから食べていいぞ」
「やったー!ロビン!全部食べていいって!」
そう言ってロビンに飛びつくラフテリア。そのラフテリアを受け止めるロビンの目の端には光るものがあった。
「こういう優しい世界になってくれたらいいね」
ロビンはそうシェリーに言った。何気ない日常の光景。これが当たり前になればいいと。
そのロビンの片目から一筋の涙がこぼれ落ちたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の日曜日の投稿をお休みします。すみません。
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