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「少し手狭になってきたな」
そう言って、モルテ王がパチンと指を鳴らした。
すると一瞬にして室内の様相が変わった。
いや、部屋の中にいる人だけを転移させたのだ。
長椅子に座っていた者は沈み込むソファーに移動し、空中に浮かんでアイスを食べていたヴィーネも、転移で現れたばかりのオリバーとシュロスもそのまま移動したのだ。
「これは中々……」
このことに大きく感心を示すオリバー。
そして見知った顔にテンションが上がるシュロス。
「あ!死の王!久しぶり!炎王もいるじゃないか!」
「あれからは変わっていないようで何よりだ」
「ずいぶん、姿が変わったな」
二人の王の意見はそれぞれだった。シュロスが鎧を身体としていたことを知っているモルテ王からみれば、人のように見えることに感心している。
「かけ給え」
立っている二人に席を勧めるモルテ王。
二人掛けの長椅子に座っていたシェリーは……いや、正確にはカイルに抱えられているが、いつの間にか四人がけのソファーに変わっていた。
そこに座るように促したのだ。
そして新たに二人が増えたことで、シェリーが一通りここにいる人……者たちを紹介した。
「鬼王というのは聞いたことがないのだが、どういうことなのかね?シェリー」
その中で唯一聞いたことがないとオリバーがイゾラを見ながら尋ねた。
そのイゾラは、あの白い奴と戦いたいと言って炎王に諌められていた。
「炎王が炎国を治める前に王だった鬼王。先日、炎国の火山が噴火して封印が解けた」
「え?千年王国の前ってことだよな!すっげー!千年封印されて復活とかかっちょいい!」
「そういうことだけは、頭の回転が早いですよね」
シェリーは、何故か千年王国という言葉を気に入っているシュロスにため息を吐きながらいう。
炎王イコール千年間国を治めた者ということだけは理解しているということにだ。
「しかし、シェリーが言っていたように、モルテ王の使う魔術も興味深い」
「そうだね。四千年前の魔術が残っているのはこの国ぐらいだからね」
先ほど身を持って、普通ではありえない転移を体験したオリバーは興味津々のようだ。
相変わらず、ヨレヨレの白衣に目の下がクマが濃く浮き出た姿で、王という存在の前に出る姿ではまったくない姿のオリバーがだ。
ロビンは己が使う魔術形態が残る唯一の国だという。
「確かに考えてみれば、そうだな。それで、コレをここに呼んだ理由はなんだ?」
オリバーは隣に座っているシュロスを視線で指していた。魔術の教えを請うているはずなのに、コレ扱いなのが気になるところだ。
「はぁ、白き神が関わっているので面倒くさい」
シェリーはとてもヤル気がなかった。
元々この件に関しては否定的だったのだ。
それに加え、白き神の言葉が加わったので、ラフテリアがやる気満々なのがとても面倒なのだ。
「あのね!神様がね。わたしのちからを弱く?漏れているのを弱く?えーっと、魔人のちからのことは『かみごろし』に頼めばいいといわれたの」
そのラフテリアが説明するも要領を得ない。隣にいるロビンは苦笑いを浮かべていた。
「俺に?魔人ってなんだ?凄くカッコいい感じがする!」
ラフテリアの言葉にシュロスのテンションが更に上る。
「全部、シュロスさんのせいです」
「何故に俺のせいになるんだ!佐々木さん!」
「人の心を具現化しましたよね?」
「自動機械兵のことか?」
シュロスが創り出した可哀想な機械のような兵たちのことだ。今は大魔女エリザベートの策略によりラフテリア大陸の防衛に使われているだけにしか残っていない。
「そうです。おかげで人の心の残滓が力を持つようになりました。……そうですね怨念のようなものです」
「いきなりホラーになった!」
「黙れ!最後まで聞け!その怨念の力を人が取り込むと……」
ホラーの話などしていないと、シェリーはイラッとしている。
「鬼◯者になる!」
その言葉を聞いたシェリーはカイルの腕を振り切り、背後から座っているシュロスの頭を鷲掴みにした。
「痛い。佐々木さん」
「黙れと言ったはず。あと、痛覚があることに驚きです」
「あ、最近作ってみた。雪が冷たくないって楽しくないとわかったんだ!」
元々鎧でしかないので痛覚など無いだろうと嫌味を言ったつもりのシェリーだったが、シュロスは最近作ったと自慢げに口にする。
そう言えば陽子が、かまくらをシュロスがつくっていると言っていた。
「ああ、鬼武◯か。その鬼武◯が持つオーラを感知できなるするってできるか?」
ゲーム脳のシュロスにはゲームの話で例えるのが一番だ。そこに炎王がシュロスにとってわかりやすいだろうという例えを出したのだった。




