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第8話:広大な図書館、あるいは『信じてる』という文字

双子に左右の手を引かれ、僕が連れて行かれた先は、あの洞窟からさほど離れない場所に位置する、切り立った大岩の前だった。

道なき道を抜け、冷たい風が吹き抜けるその場所に、その巨大な岩はただ圧倒的な沈黙を守って突っ立っていた。

 

「さわって」と双子Aが言った。

「おして」と双子Bが言った。

 

言われるままに、僕はその冷ややかな岩の表面に手のひらを置いてみた。

その瞬間、またしても僕の世界が奇妙に歪んだ。視界の端がぐにゃりと融解し、次の瞬間には、僕の身体は信じられないことに、その固い大岩の向こう側へと通り抜けてしまっていた。

 

そこは、天井のまるで見えない広大な図書館だった。

 

どこまでも続く高い書架が迷宮のように並び、そこには無数の古い書物がぎっしりと詰め込まれていた。空間にはしんと静まり返ったインクと紙の匂いが満ちていたが、人間の気配は皆無だった。

代わりに、何体ものやせぎすの木製の人形たちが、カタカタと乾いた小さな音を立てながら、書架から本を抜き出しては別の場所へと何度も移動させるという、終わりのない作業を黙々と繰り返していた。

 

ここなら、何か手がかりがあるかもしれない。

僕は人形たちの邪魔をしないように歩きながら、書架に並ぶ本の背表紙を目で追った。タイトルの大半は僕の知らない言語で書かれていたが、ある一角で、不意に一冊の本が目に留まった。

 

それは、かつて彼女が深く愛していた小説だった。

 

僕はおしよせられるようにその本を棚から引き抜き、手の中でページをめくった。彼女が何度も僕の前で口にしていた、お気に入りの一節を探すために。

かすかに黄ばんだ紙の上に、その文章は見つかった。

 

『完璧な静寂というものは存在しない。しかし、ある種の沈黙には、世界をそっくり作り変えてしまうだけの確かな重みがある。私たちはその重みを分かち合うために、不完全な言葉を交わし続けるのだ』

 

その一節の下に、細いボールペンで一本のアンダーラインが引かれていた。

 

そして余白の部分に、まるで僕がいつかこの場所に辿り着き、このページを開くことをあらかじめ知っていたかのように、小さな文字が書き残されていた。

 

『信じてる』

 

それは間違いなく、ちょっと癖のある、独特な右肩上がりの彼女の筆跡だった。

 

昨日の地下集落で見つけたノートの『待ってる』という文字、形成されたこの本に遺された『信じてる』という言葉。一体これはどういうことなのだろう。僕の頭の中で、バラバラだった点と点が奇妙な熱を持ち始め、僕はまた深い思考の底へと潜りそうになった。

 

その時だった。ガタン、と激しい金属音が図書館の静寂を切り裂いた。

 

振り返ると、あの小柄なポンプ男が、またしても肩を激しく上下させながらこちらへと駆け込んできた。

 

「奴が来るぞ!」男はしわがれた声を絞り出すように叫んだ。「ここももう終わりだ。早く逃げろ!」

 

男は言うや否や、僕の返事も待たずにまたしても僕の手首を強く掴んだ。そして、書架の影にある図書館の壁の一角を強引に押し開けると、そこに隠されていた狭い扉の中へと、僕の身体を容赦なく押し込んだ。

 

まただ。眩暈のような世界の歪みが僕の意識を襲った。

僕は目を閉じ、その不快な浮遊感が通り過ぎるのをじっと耐えた。

 

やがて足元に確かな大地の感触が戻り、僕が目を開けると、視界の少し先に、見覚えのある羊の後ろ姿がぽつんと佇んでいた。耳を澄ますと、微かな波の音が聞こえる。どうやら僕は、あの無人島の岸辺へと戻ってきたらしかった。

 

「おかえり」と羊は振り返ることもなく言った。「対岸へ戻るかい?」

 

僕はただ無言で頷き、小舟へと乗り込んだ。羊の漕ぐオールが静かに水を捉え、僕らは凍雲町の現実へとゆっくり引き返していった。

 

羊に送ってもらい、すっかり暗くなった道を歩いてホテルに帰り着いたとき、僕の身体は泥のように疲弊していた。ロビーの大きな柱時計は、昨日と変わらない正確なリズムで時を刻んでいた。

フロントの前を通り過ぎようとすると、あの端正なフロントマンが僕の姿を認め、静かに声をかけてきた。

 

「おかえりなさいませ。今なら、まだご夕食のお時間に間に合いますよ」

 

ホテルの現実的な温もりが、僕の冷え切った皮膚を少しだけ現実の世界へと繋ぎ止めてくれるような気がした。


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