第7話:崩れたソフトクリーム、あるいは移動する入り口
翌朝、僕はあまり眠れなかった。
ベッドの中で夜明けを待ちながら、頭の中にあるいくつかの事柄を机の上に並べるようにして整理してみた。しかし、そのほとんどは現実感がなく、触れようとすると指の隙間からこぼれ落ちてしまうような、つかみどころのないものばかりだった。唯一、確かな質量を持った現実としてそこに存在しているのは、あの無人島で見た「象の像」だけだ。
今日、もう一度あの場所を調べてみよう。
僕はそう決めてベッドを降りた。ホテルの食堂でごく簡単な朝食をとり、フロントでもう一泊の延長手続きを済ませてから、外へと出た。
昨夜のドライブインとは反対の方向へと進むと、昨日歩き回ったあの寂れた牧場に辿り着いた。そこには、かつての観光牧場の名残として、唯一生き残っている施設があった。プレハブ小屋のソフトクリームスタンドだ。
僕はつい懐かしい気持ちになり、その小さな窓口を覗き込んでみた。朝一番の牧場での仕事を終えたばかりなのだろう、作業着を着た従業員がのんびりと店内の掃除をしていた。
僕はソフトクリームを1本注文し、お釣りを待つ間に「ペンギンたちはどこへ行ってしまったんですか」と尋ねてみた。
「あぁ、ペンギンならだいぶ前によその動物園とかに引き取ってもらったのよ」
従業員はそう答えながら、ソフトクリームの機械を操作した。しかし、朝一番で仕込んだばかりのそれはまだ冷えが甘く、十分に固まりきっていなかったのか。そのため、抽出された最初の1本目は見るも無残に形が崩れてしまっていた。
彼女はもう一度レバーを引き、今度はまともな形のソフトクリームを新しく作り直した。
「はい、これ。こっちの最初のは形が崩れちゃったから、おまけね」
彼女はそう言うと、形の崩れた1本目と、まともな形の2本目を、僕の両手に無理やり押し付けてきた。断るのもどうかと思い、僕はありがたくそれを両手に受け取った。
僕は崩れかけている方のソフトクリームを急いで舐めながら、牧場の柵を回り込むようにして、灰色の湖の岸辺へと出た。そこには、まるで僕がやってくるのをあらかじめ知っていたかのように、あの羊が佇んでいた。
「島に渡るかい? もし渡るなら、船賃はそこにあるソフトクリーム1本だ」と羊は言った。
昨日、僕を無人島に置き去りにしたことを抗議しようかとも思ったが、しかし、2本の足で直立し、僕から受け取った綺麗な方のソフトクリームを美味しそうに舐めている羊と、真面目に口げんかをしている自分の姿を想像して、僕はそれをやめた。あまりにもシュールすぎる。
彼女のことだってろくに分かっていない僕に、小舟を操る羊の常識など理解できるはずがないのだから。
羊はあっという間にソフトクリームを食べ終えると、顎で小舟を示すようにして僕に乗船を促した。
島に着くと、昨日とは少し様子が違っていた。羊は船から降りて、慣れた手つきで舫い綱を近くの流木に結びつけると、そのままその太い木にどっかりと腰を下ろしたのだ。
「今日はここで待っているよ」と羊は言った。
僕は一人で、昨日の洞窟へと向かった。
しかし、そこには何もなく、奥まで進んで目を凝らしてみたが、昨日確かにそこにあった地下へ降りる階段は跡形もなく消えていた。そこにあるのはつるっとした一枚の頑丈な岩壁だけで、指先で触れてみても、かつてそこにステップが存在していた痕跡はどこにも見当たらなかった。
仕方なく、僕は「海の守り神」であるはずの象の像に関心を移した。しかし、どれだけ観察しても、台座の周りを調べてみても、これといった手がかりは見つからない。
僕が諦めきれずに洞窟の周りをうろうろとしていると、不意に、あの聞き覚えのあるかわいらしい声が響いた。
「そっちじゃないよ」と向かって左側の双子Aが言った。
「こっちこっち」と右側の双子Bが言った。
振り返ると、やはりあのペンギンの着ぐるみを着た双子がそこに立っていた。
「君たち、昨日は大丈夫だったのかい?」
僕は驚いて尋ねた。あの集落のパニックから双子が無事だったのか、気になっていたのだ。しかし、双子は僕の質問には答えてくれなかった。
「昨日、確かにここに地下へ続く階段があったよね?」
僕が岩壁を指差すと、二人は顔を見合わせ、まるで古い童歌でも歌うような調子で答えた。
「入り口はいつも違う」と双子A。
「出口はいつも違う」と双子B。
そして二人はもう一度、声を揃えるようにして言った。
「そっちじゃないよ」
「こっちこっち」
そう言うと、双子は僕の左右の手にそれぞれ自分の小さな手を重ね、ぐいと僕の手を引いた。




