↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/27

第7話「エルフは菜食主義? それとも肉食?」

07_エルフは菜食主義? それとも肉食?


 クローゼットを抜けて自分の部屋に戻った途端、突然お腹が痛くなった。


 さっき食べたものに当たったのだろうか?


「ここはどこだ?」


 俺はすぐに鎧とブーツを脱ぎ、剣と盾、それに世界樹の果実も放り出した。


 彼女は目の前にあるベッドをちらりと見た。


「何をするつもりだ? 私はそう簡単に屈したりしないぞ!」


 どうやら何か勘違いしたらしく、彼女は戦闘態勢を取った。


「違うって! お腹が痛いからトイレに行くんだよ。君はここで待ってろよ! 勝手にあちこち歩き回るなよ!」


 そう言い終えると、俺はすぐさまトイレに駆け込み、猛烈な勢いで下痢をした。


 そういえば、昨日だってあれだけ出したのに、どうして今日もこんなに出るんだ?


 便座に座りながら、俺はその疑問について考えていた。


「まさか……世界樹の果実のせいじゃないだろうな?」


 それから、どれくらい時間が経ったのか分からない。


 俺はもう倒れそうになるくらい、ひたすらトイレにこもっていた。


 二日連続でこんなに下痢をしたら、さすがに死ぬぞ!


 ようやく尻を拭いてトイレから出ると、愛露莎がキッチンで冷蔵庫を開け、その構造を調べているところだった。


「あっ、日日明! この箱、冷たい風が出てくるぞ! 冷凍魔石を使って作られた魔法の箱なのか?」


「いや、これは冷蔵庫っていう家電製品だ。冷気を使って食べ物の鮮度を保つための装置なんだよ」


「家電製品? その言葉の意味がよく分からないな」


「家電製品っていうのは、電気を使って動かす技術的な道具のことだよ」


「電気か?」


 俺は彼女を見た。


 身にまとっている白い薄布のドレスはかなり短く、すらりとした脚が露わになっている。


 そういえば、今は秋だ。高雄は確かにあまり寒くないが、それでもそんな薄着では心配になる。


「なあ、エルーシャ。姉の服を貸してやろうか?」


「家にはほかにも人がいるのか? それに、どうして私の隠し部屋が、お前の部屋のクローゼットにつながっていたんだ?」


 彼女は冷蔵庫の扉を閉め、俺に尋ねた。


「家族はみんな台北にいるんだ。高雄の家には俺一人しか住んでいないから、しばらくここに住んでも問題ないよ」


「日日明、私は美女なんだぞ! 男女が一緒に暮らしてもいいと思っているのか?」


 確かに彼女は美人だ。だが、自分からそんな自信満々に言う人がいるだろうか?


「俺は君にそういう気はないんだけど。何を言ってるんだ?」


「日日明、私は美女なんだぞ!」


 彼女は同じ言葉をもう一度繰り返した。どうやら、俺に自分の美しさを認めさせたいらしい。


 俺は少し困ったような顔で額に手を当て、彼女の自信に満ちた可愛らしい笑顔を見つめた。


「はいはい、君が美人なのは分かったよ。姉の部屋に行って、着られそうな服を探してくる。でも、サイズが合うかどうかは分からないぞ?」


「サイズなら問題ない。魔法で服を体にぴったり合うようにできるからな」


「魔法か……。そういえば、こっちの世界でも魔法が使えるんだな。この世界にも魔力があるのか?」


「変なことを聞くな。魔力というのは、自然界に存在する魔素のことだぞ! そんなものがなかったら、生き物はどうやって生きていくんだ?」


「君の言う魔素って、空気や水と同じようなものなのか?」


「そういうことだ! 魔素は生き物が生きていくために必要な物質なんだぞ!」


 俺が姉の部屋に入ると、彼女も後ろからついてきた。


 俺はクローゼットを適当に開け、シャツとロングスカートを一着ずつ取り出して彼女に渡した。


「じゃあ、着替えが終わるまで外で待ってるよ」


「うむ」


 俺は姉の部屋から出て、彼女を中に残したままドアを閉めた。


 数分後、ドアが開いた。


 彼女はもう着替え終わっていた。どうやら、本人が言ったとおり、服のサイズはぴったりだったらしい。


「着替えたぞ」


 そういえば、このときになって初めて気づいた。


 俺は彼女にブラジャーもパンツも渡していなかったのだ。


 そもそも、姉の下着がどこにしまってあるのか知らない。それに、下着はほかの人が使ったものを着るのも抵抗があるだろう。


 ……つまり、今の彼女は下着を着けていないのか?


 俺は少し困ったような顔をした。


「どうした?」


「エルーシャ、今、下着は着けてるのか?」


「日日明、何を変なことを聞いているんだ?」


「いや、何でもない。今の質問は忘れてくれ」


「冗談だよ。ちゃんと着けているぞ!」


「ということは、姉の下着を着たのか?」


「ふふん! 馬鹿め! そんなわけがあるか! 他人が着た服なんて着たくないからな! 実は、この法衣はさまざまな衣服の姿に変化できるんだ。だから、お前がくれた服も着ていないぞ!」


「はあ? いろんな服に変化できる法衣だって?」


「そうだ! この法衣は、私が研究した魔法によって作り出した、精巧な逸品なのだ!」


「じゃあ、下着は着けてるのか?」


「見たいのか?」


 彼女は胸元の留め具に手をかけた。


 俺は一瞬、あまりのことに驚いて、何と答えればいいのか分からなくなった。


「冗談だ。見せてやるものか!」


 そういえば、彼女の髪もいつの間にかきれいに整えられ、白いリボンで低い位置にポニーテールを作っていた。


「別に見たいなんて言ってないだろ! このアマ!」


「そうなのか?」


「着替えが済んだなら、行こう」


「分かった、日日明」


 こうして俺たちはリビングへ向かった。


 俺は金猫神の小さな神像に近づき、その頭を指で弾いた。


 すると、神像は二・五頭身のGS社のねんどろいどのような姿をした暁月に変化した。頭には猫耳が生えている。


「何するんだよ! 痛いじゃないか! にゃ!」


「あら、金属の像が魔物に変身したのか?」


「誰が魔物だ! そこの女! ……って、おい、日日明! もうヒロインを攻略したのか? にゃ!」


「おい、小暁月! 俺の部屋のクローゼットが異世界につながる扉になったのは、どういうわけなんだ?」


「はあ……説明するのも面倒だな。それに、小暁月って呼び方、なんだか馬鹿にされている気がする。もう石像に戻ってやる。にゃ!」


「石像に戻ったら、売り飛ばしてやるよ」


「不運の味を試してみたいのか? にゃ!」


「残念だったな。今日はもう、出すものなんてほとんど残ってないぞ!」


「本当だ! お前の体にあった不運を全部出し切ったのか! 昨日、私がかけた魔法よりも強力じゃないか! ……おい、そこの女! お前、この世界の人間じゃないようだな! にゃ!」


「分かるのか? この小さな魔物、なかなかすごいな!」


「小さな魔物って呼ぶな! 私は神様だぞ! にゃ!」


「小暁月、世界樹の果実って知ってるか? 万能薬だって聞いたんだけど」


「世界樹の果実? 万能薬? そんなもの、聞いたこともないぞ! にゃ!」


 それから俺は、小暁月に今朝の冒険について説明した。


 話し終えると、小暁月はこう言った。


「私が実現したお前の願いは、お前の人生をゲームのような仕組みで動く状態にしただけだぞ。異世界への扉が現れたのは、もともとお前が経験するはずだったシナリオなんじゃないか? 私のせいじゃないぞ! にゃ!」


「もともと俺が経験するはずだったシナリオだって? いや、それって責任逃れしてるだけじゃないか!」


「ちっ! にゃ!」


「この件はひとまず置いておこう。それより小暁月、俺が絵馬を取り違えた女の子の名前と居場所を教えてくれないか?」


「個人情報は教えられないぞ! にゃ!」


「頼む! 俺は万能薬を持ってるんだ。これがあれば、あの子のお母さんを救えるかもしれない!」


「教えられるのは、あの子がお前と同じ学校の生徒だということだけだ。もしお前たちが出会う運命にあるのなら、きっとまた会うことになるぞ! にゃ!」


「人の命がかかってるんだぞ! それに、この万能薬がいつまで持つのかも分からないんだ!」


「人が死ぬのは自然なことだぞ! 生と死を変えようとするなんて、神様にしかできないことなんだからな! にゃ!」


 俺と小暁月が言い争っていると、突然、誰かのお腹がぐうっと鳴った。


「あっ、ごめん。どうやら、お腹が空きすぎていたみたいだ」


「エルーシャ……じゃあ、昼飯を食べに行こうか」


 俺は小さな神像をつかみ、上着のポケットに入れた。


「もっと丁寧に扱えよ! この野郎! にゃ!」


 それから部屋に戻り、鍵と財布、スマートフォンを持った。


 玄関へ向かい、スリッパを脱いで靴下を履き、外出用の靴に履き替える。


 そのとき、エルーシャの魔法に気づいた。


 彼女の着ている服が伸びて形を変え、靴箱の上に置かれていた姉のバレエシューズへと変化したのだ。


 バレエシューズというのは、台湾でデザインされた、リボンの飾りが付いたフラットシューズのことだ。


「本当に魔法なんだな!」


「おお! この娘が使っているのは異世界の魔法なのか?」


 ……娘?


 エルーシャは五百歳を超えているエルフなんだけどな!


 そういえば、猫神様はいったい何歳なんだ?


 俺とエルーシャは一緒に家を出て、ドアに鍵をかけた。


 そしてエレベーターの前まで行き、下向きのボタンを押した。


 ところが、エルーシャは非常階段の入口へ向かい、下へ続く階段を見つめていた。


「さっきベランダからも見たけど、本当に高い建物だな! この建物全部が日日明のものなのか?」


「そんなわけないだろ! ここはマンションだよ。たくさんの家族が一緒に暮らしている建物だと思えばいい」


 俺たちは顔を見合わせた。


「降りていかないのか?」


 俺は彼女の言葉の意味を考えた。


 ……階段で下りるつもりなのか?


「階段じゃないよ。ここにはエレベーターがあるんだ。こっちにおいで」


「エレベーター? それは何だ?」


 ちょうどそのとき、エレベーターが俺たちの住んでいる階に到着した。


 扉が開くと、俺は中に入り、彼女に手招きした。


 エルーシャも後に続いて乗り込んできた。


 俺は鍵についている非接触式のカードをエレベーターの操作パネルの認証部分にかざし、一階のボタンを押した。


 すると扉が閉まり、エレベーターは階を一つずつ下り始めた。


 突然、床が下降し始めたことで、エルーシャは驚いた顔をした。


「床が下がっているぞ!」


「これがエレベーターだ。人を乗せて、自動的に上下の階へ移動させる装置なんだよ」


 一階に到着すると、扉が開いた。


 俺たちは外へ出た。


 そういえば、小さな神像がやけに静かだな……。


 そこでようやく気づいた。


 いつの間にか、彼女は石像に戻っていたのだ。


 俺が先を歩き、エルーシャが後ろをついてくる。


 管理室の前を通りかかると、管理人が弁当を食べているのが見えた。


 俺はスマートフォンを取り出して時刻を確認した。


 もう午後十二時半だった。


 そのまま歩き続け、金猫湖にたどり着くと、湖沿いの道を進んで「単単割包店」へ向かった。


 途中、エルーシャは人間が使っている自動車やバイクに驚いていたが、特に何も言わなかった。


 今日はちゃんと列に並んだ。


 というのも、カウンターには叔母の姿がなく、代わりにアルバイトの女性が立っていたからだ。


 周囲の人たちの視線が、こちらに集まっていた。


 まあ、無理もない。


 エルーシャの髪と瞳は、かなり目立つのだ。


 金色がかった緑の髪に、黄緑色の瞳。そして、あの美貌。


 数分後、ようやく俺の順番が回ってきた。


 俺は九番セットの辛口チキン割包と麺線羹、サルサパリラ。それから四番セットのピータン入り豚肉粥と塩酥鶏、ミルクティーを注文した。


 代金を支払い、レシートの電子保存用にスマートフォンをかざす。


 それから席を探し、料理ができるのを待つことにした。


 幸い、空席が残っていたので、そこに座った。


 そういえば、エルーシャは中国語が分かるのだろうか?


 料理ができるまで少し時間がかかりそうだったので、俺は彼女と話をすることにした。


 周囲の男たちの視線が痛い……。


 何しろ、エルーシャは本当に美人なのだから。


「この言葉は中国語というのか!」


「どうして君は聞き取れるし、話せるんだ?」


「どうやら、世界樹が私に与えたスキルのようだな。『言語掌握』という能力らしい」


 そこで初めて気づいた。


 いつの間にか、俺たちは中国語で会話していたのだ。


 そのとき、スマートフォンが鳴った。


 皢瑜からのLINEだった。


 画面には、こう書かれていた。


『お兄ちゃん、もう起きた?』


 俺はすぐに返信した。


『起きたよ! 今、お前の家でブランチを待ってるところだ』


 すぐに既読がつき、続けて返信が届いた。


『お兄ちゃん、あとで一緒にゲームしない? オンライン対戦のゲームがしたい!』


「それは何か不思議な道具なのか? さっきから、たくさんの人が使っているのを見かけるんだが」


 俺はエルーシャにどう説明したものかと考えた。


「これはスマートフォンっていうんだ。いろんな機能が使える、科学の魔法みたいな道具だよ」


 そうこうしているうちに、ようやく注文した番号が呼ばれた。


 俺はスマートフォンをポケットにしまった。


「番号が呼ばれたから、料理を取ってくるよ」


「そういえば、聞き忘れていたことがある。エルフって、菜食主義なのか? それとも肉も食べるのか?」


「今さら聞くことか? ちょっと遅すぎないか?」


「つまり、君は菜食主義者だったりするのか?」


「肉も食べるぞ! お前、エルフについてどんな変なイメージを持っているんだ?」


「食べられるなら問題ないよ」


 料理を取りに行き、戻ってきた俺は、自分の席が誰かに取られていることに気づいた。


 俺の席に座っていた小柄な少女に声をかける。


「皢瑜、そこ俺の席なんだけど!」


「お兄ちゃん、見て! 本物の外国人だよ!」


「うん」


「二人は知り合いなの?」


 皢瑜は俺とエルーシャを交互に見た。


 ……さて、エルーシャとの関係をどう説明したものかな?


 俺が料理をテーブルに置くと、皢瑜は奥へずれて、俺がもともと座っていた席を空けてくれた。


 俺はそこに腰を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。