第19話「日常」
それから数日が過ぎた。学校が終わると、俺はいつも第三音楽室に寄り道するようになった。彩衣の歌声を聴ける日もあった。
夜、家に帰ってからは迷宮でレベル上げを続け、ついにレベル5になった。魔力弾よりも強力な魔法、ファイアボールも覚えた。ただ、この魔法を普通の人間に使ったら、火傷を負わせてしまうだろうな。
さて、彩衣の攻略はどこまで進んでいるのだろうか?
今日は金曜日の放課後。俺は彩衣の練習の歌声を聴き終えたところだった。
「日日明くん、明日の食事なんだけど、午前十一時にバスターミナルで待ち合わせにしましょう」
「わかった。でも、どこに食べに行くの?」
「秘密。全部私に任せてね!」
「そうなんだ。じゃあ、楽しみにしてるよ」
「それじゃあ、私は仕事に行くね! また明日、バイバイ!」
「じゃあね」
そういえば、最近の彩衣は姿を消すことがなくなったよな? 俺がそばにいるからなのだろうか?
帰り道、俺は単単割包店に立ち寄った。注文しようとしたところ、目の前にいる店員が白雅蝶だということに気づいた。
「ご注文はお決まりですか? 最近のおすすめは揚げワンタンのセットですよ!」
「白さん、ここでアルバイトしてるんですか?」
「あら! 少年、今は仕事中だからおしゃべりはダメよ! 後ろのお客さんも待っているんだから、早く注文してね!」
「あっ! じゃあ、Aセットを一つテイクアウトで。飲み物は大きいサイズのミルクティー、氷なしでお願いします。マイカップを持ってきました。レシートは電子レシートでお願いします」
「かしこまりました。こちらでお支払いください。合計XXX元です」
俺は財布からお金を取り出して彼女に渡した。
「ちょうどお預かりします。番号でお呼びしますので、そちらでお待ちください!」
その後、俺は横に移動して料理ができるのを待った。雅蝶は次のお客さんの注文を取り始めた。
すると、そこへおばさんがやって来た。
「あなた、雅蝶さんと知り合いなの? 日明」
「うん、まあね」
「彼女も本当にかわいそうな子なのよ。お父さんが借金を残して逃げちゃって、その借金を今も返済しているんだって。お母さんも亡くなってしまって、今は高雄で身寄りもなく一人で暮らしているの。でも、真面目で向上心のある、とてもいい子なのよ」
「そ、そうなんですね?」
彼女は霊界から来た管理官だよな? 父親が借金を残して逃げたとか、母親が亡くなったとか、一体どういう設定なんだよ?
俺が事情を説明しようとしたとき、雅蝶の鋭い視線に気づいた。黙っていろ、ということだろう。
その後、俺は料理を受け取って家に帰った。
「日日明、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま! エルザ」
「今日も迷宮に行くの?」
「いや、今日はやめておくよ。最近ずっと通っているし、明日は予定もあるから」
「そうなの? 実は私、少し時間をかけてお菓子作りの練習をしたいと思っているの。それで料理の本と材料を買ってきたのよ。ところで、明日は何か予定があるの?」
「人と食事に行くんだ。まあ、デートみたいなものかな」
「女の子とのデート?」
「うん。最近、迷宮に付き合ってレベル上げを手伝ってくれたり、魔法を教えてくれたりしてありがとう。今度、時間があるときに、俺たちも一緒に食事に行こうよ」
「それって、私をデートに誘っているの? 日日明くんったら、女たらしなんだから!」
「友達同士の付き合いってやつだよ!」
「ハハハ! 冗談よ! それより、私が作ったお菓子を味見してくれる?」
「もちろん!」
その後、俺は夕食を済ませ、部屋に戻って勉強と宿題を始めた。すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「日日明、入るわよ!」
「うん、どうぞ」
「これは店長に勧められたスフレよ。まずはこれを練習するように言われたの。ごめんなさい、見た目や盛り付けはまだ上手くできないけど、味は悪くないと思うわ!」
「うん、食べてみるよ」
エルザは皿を俺の机の上に置き、フォークも添えてくれた。俺はフォークでスフレを切り、クリームとシロップをつけて口に運んだ。
確かにおいしい。初めて作ったにしては、かなり上出来だ!
「うん、とてもおいしいよ! このスフレは食感がふわふわで、甘すぎないし、風味もいいね!」
「評価してくれてありがとう。実は今日、お店で店長に教えてもらいながら練習したの。でも、まだ商品として売り出せるレベルじゃないのよ」
「これでもまだ売れないのか? ずいぶん厳しいんだな!」
「そうね! じゃあ、食べ終わったら、またお皿を取りに来るわね!」
その後、俺がデザートを食べ終えると、エルザが皿を取りに戻っていった。
そのとき、スマホに雅蝶からLINEが届いた。
『店長に変なことを話してないでしょうね?』
『父親が借金を残して逃げて、母親が亡くなったって、どういう設定なんですか?』
『嘘は言ってないわよ! あっちの世界では事実なんだから!』
『そうなんですか? 管理官の仕事があるのに、どうしてアルバイトまでしてるんですか?』
『管理官の給料は悪くないんだけど、あれは別の世界のお金なのよ。この世界での生活費はほとんど支給されないの。普段の出費だけでも足りないくらいよ!』
『タバコとお酒を少し控えたらどうですか?』
『わかってるわよ! でも、なかなかやめられないのよね。前は近所のスーパーで働いていたんだけど、パワハラに遭っちゃってね。それで店長をぶん殴ったら、クビになったのよ』
『秀麗さんが雇ってくれなかったら、今月の家賃すら払えなくなるところだったわ!』
なんだか生活感がありすぎるだろ? それでも悪魔なのかよ!
『そういえば、秀麗さんとはどういう関係なんですか?』
『彼女は私の叔母よ。単単割包店はうちの一族が経営している企業みたいなものね』
『じゃあ、タダでご飯が食べられるんですか?』
『たまにはね! 今日だってちゃんとお金を払ったでしょう?』
『ハハハ』
彼女は単単ペンギンが満面の笑みを浮かべているスタンプを送ってきた。
俺は単単ペンギンがいじけているスタンプを送り返した。
『私の話はここまでにしておきましょう。最近、遊魂に取り憑かれた人は見つかった?』
『見つかってませんよ! もし見つかったら、ちゃんと通報しますから!』
嘘だけどな。
『それじゃあ、今日はこの辺で。おやすみ、バイバイ』
彼女は単単ペンギンが別れの挨拶をしているスタンプを送ってきた。俺も同じスタンプを送り返した。
『バイバイ』
その後、俺は明日着ていく服を部屋で選び始めた。
翌朝、俺はいつものように単単割包店へ行き、無料の朝食を受け取った。そこで従妹の皢瑜に出会った。
「お兄ちゃん、今日はそんなにおしゃれして、どこに行くの?」
そのとき、選択肢が表示された!
【選択肢1】皢瑜に今日は彩衣と食事に行くと説明する。百Gポイント獲得。
【選択肢2】何も説明しない。マイナス千Gポイント。
燃えるタイムゲージは表示されていなかったので、仕方なく彼女に説明することにした。
「実は今日、郭彩衣と出かけて食事をするんだ」
「郭彩衣? 美夢時代の彩衣お姉ちゃんのこと?」
そういえば、皢瑜は彼女のファンだった。彩衣がまだアイドルグループに所属していた頃からのファンで、そのおかげで俺も彩衣のことを知り、彼女の歌が好きになったんだ。
「うん」
「私も行く! 絶対に行く!」
「おいおい! よく考えてみろよ。もともとは男一人と女一人で出かける予定なんだ。つまり、いわゆるデートだろ? そこにお前がついてきたら、お邪魔虫になるじゃないか」
「むう! そんなの知らない! 彩衣お姉ちゃんに会いたいんだもん! それに、どうしてお兄ちゃんが彩衣お姉ちゃんとデートできるのよ!」
「そりゃあ、このイケメンな顔のおかげだろ!」
「もう! お兄ちゃん、今日はやけに自信満々じゃない! なんかすごく嫌な感じ! 絶対にお兄ちゃんのデートを邪魔してやるんだから! 連れて行ってくれないなら、これからずっと口をきいてあげないからね!」
「俺のデートを邪魔するって言ってるのに、連れて行くわけないだろ? それに、俺はご馳走してもらう側なんだ。お前の分の食事代は誰が払うんだよ?」
「もちろん、お兄ちゃんが払うんだよ! それに、彩衣お姉ちゃんにご馳走してもらうなんて、お兄ちゃんは自分が何様だと思ってるの?」
「ネギでもニンニクでもない! 俺は日日明だ!」
「それで、何時にどこで待ち合わせなの?」
そのとき、選択肢が表示された!
【選択肢1】皢瑜を連れて行く。百Gポイント獲得。さらに皢瑜の好感度が上昇する。
【選択肢2】皢瑜を連れて行かない。マイナス千Gポイント。さらに皢瑜の好感度が大幅に下がる。
どうやら、俺は選択肢1を選ぶしかないようだ。
「わかった、わかった! もうお前には敵わないよ。一緒に連れて行ってやるから! 彩衣に連絡してみるよ」
「イエーイ! お兄ちゃん大好き!」
その後、俺はスマホを取り出して彩衣にメッセージを送った。
『妹が彩衣のファンで、どうしても会いたがっているんだ。妹の昼食代は俺が払うから、一緒に連れて行ってもいいかな?』
俺がまだ朝食を食べていると、彩衣から返信が届いた。
『私の小さなファンなの? もちろん大歓迎だよ! 妹さんの分も私が出してあげてもいいよ!』
彩衣は本当にいい人だな!
俺はスマホを置いた。
「彩衣が一緒に来てもいいってさ!」
「やったー! 彩衣お姉ちゃんに会える! すぐに着替えてくるね!」
「まだ時間はたっぷりあるぞ! 待ち合わせは午前十一時にバスターミナルだからな」
「おバカなお兄ちゃん! 女の子がおしゃれするのには時間がかかるんだよ!」
「今だって十分かわいいじゃないか! 俺のかわいい妹よ!」
その後、皢瑜は二階へ着替えに行き、俺はそのまま朝食を食べ続けた。
そして午前十時五十五分、俺と皢瑜はすでにバスターミナルに到着していた。
皢瑜の服装はとてもかわいかった。本当にかわいい! 妹らしいかわいらしさと雰囲気を全身から漂わせている。
まったく、この厄介なお邪魔虫め! こいつがいたら、俺の攻略計画が台無しになるんじゃないか?
そのとき、郭彩衣がやって来た。
彼女は秋物の私服を着ていた。パンツスタイルの、かっこいい中性的なファッションだ。しかし、服のシルエットからは彼女のスタイルの良さも伝わってきて、とてもきれいだった。
周囲の人たちも彼女を見て、あれは郭彩衣じゃないかと話し始めた。
「ごめんなさい、待たせちゃった?」
「いや、俺たちも今来たところだよ」
「こちらが日日明くんの妹さん? 初めまして、郭彩衣です。いつも応援してくれてありがとうね!」
「彩衣お姉ちゃん! 私、美夢時代の頃からずっとファンなんです! 私は陸皢瑜です! こっちは私の従兄なんです。私たちはいとこ同士なんですよ! サインをもらってもいいですか?」
「もちろんいいよ!」
「じゃあ、このアルバムにサインして、『皢瑜へ』って書いてください。それから、一緒に写真を撮ってもいいですか? 迷惑じゃないですか?」
「いいよ、いいよ! もちろん迷惑なんかじゃないよ!」
その後、皢瑜は彩衣に自分の名前の書き方を教えた。二人はすっかり意気投合し、LINEも交換したうえ、一緒に写真まで撮った。
周囲の人たちはファンミーティングでも始まったのかと思ったらしく、彩衣の周りに集まってきて、写真を撮ったりサインを求めたりし始めた。
「あっ! 私たちが乗るバスが来たよ! 早く乗ろう!」
彩衣はどうにか人混みを抜け出し、ようやくバスに乗り込んだ。
「あはは! やっぱりサングラスとマスクをつけたほうがよかったかな?」
そう言って、彼女はサングラスとマスクを取り出して身につけた。
そういえば、変装する必要があるなら、どうして最初から身につけていなかったんだろう?
もしかすると、皢瑜に一番きれいな自分を見せてあげたかったのかもしれないな!




