第18話「勇者の眼」
勇者騒動のあと、俺たちはギルドカードの登録を済ませ、ギルド証を受け取った。基本的に、必要な情報のほとんどはエルザが記入してくれた。
「日日明様、ギルド長とお会いになっていただくことは可能でしょうか?」
受付の職員に尋ねられた。俺がどう答えようか考えていると、エルザが代わりに答えた。
「ちょっと都合が悪いわね! 私たちにもやることがあるし。それより、こちらが集めた素材なんだけど、先に買い取ってもらえるかしら?」
エルザは先ほど倒した魔物の素材をテーブルの上に置いた。そういえば、彼女が使っているあの袋は魔法の袋らしく、かなりの量の物を収納できるようだ。
「かしこまりました。ただ、勇者という職業ですので、国にも報告する必要があります。もしかすると、国王陛下から召喚されることになるかもしれません。差し支えなければ、皆様のお住まいを教えていただけますか?」
「今はまだ住む場所が決まっていないの。また今度ということでお願いするわ!」
「それでは、当ギルドは皆様のまたのお越しを心よりお待ちしております! こちらが素材の査定額になります。合計でXXです」
その後、俺たちがギルドを出ようとしたところ、一人の大男が立ちはだかった。
「ハンス、問題を起こすんじゃないぞ!」
「おい、小僧! お前が勇者だって聞いたぜ! 俺は重戦士のハンス・ベルクだ。ちょっと腕相撲で勝負しないか?」
あの太くたくましい腕を見る限り、どう考えても俺が勝てるとは思えない!
「やめておきますよ! 俺はまだレベル2の初心者ですから」
「ハハハ! 勇者なのにレベル2だって? 怖気づいたのか? それで勇者を名乗れるのかよ!」
好きなだけ言わせておけばいい。これ以上、元の世界に帰るのが遅くなったら、寝る時間まで遅くなってしまう。
「それなら、私がお相手しましょうか? お兄さん!」
エルザがそう言った。
「何を言ってるんだ? 婆さん! そんな竹串みたいに細い腕で俺に勝てるわけないだろ! それに、賭ける金はあるのか? 俺はここのチャンピオンなんだぜ!」
「ハンス、新人をいじめるなよ!」
「この袋に入っているのが、私たちの今の全財産よ。あなたが今日稼いだ金を全部賭けてみない? 勝負するのは私よ」
「ほう? 婆さん、本気で言ってるのか? 負けても言い逃れするんじゃねえぞ!」
「もちろんよ。あなたこそ、負けても約束を破らないでね? そんなことをしたら殺すわよ!」
これは面倒なことに巻き込まれたんじゃないか? エルザがどういう性格なのか、俺はまだよく知らない。
その後、双方が賭け金をテーブルの上に置いた。
「究極の力の祝福!」
エルザは小声で自分に魔法をかけた。
そして二人は手を握り、審判の合図とともに勝負が始まった。
ほんの一瞬だった。
ハンスの腕はあっという間にテーブルへと押し倒され、骨がずれるような音まで響いた!
「いてええ! 俺の腕がああ!」
「それじゃあ、お金は私がいただくわね! ごめんなさい、私には治癒魔法が使えないの。教会で治療師に治してもらえるように、少しお金を残しておいてあげるわ!」
その後、エルザはギルドを出ていき、俺も彼女の後を追って外に出た。
道を歩きながら、俺はエルザに尋ねた。
「どうしてあの人と勝負したんだ?」
「私はね、売られた喧嘩は買う主義なのよ!」
「喧嘩を売られたのは俺だろ! 別に君が相手をする必要はなかったじゃないか」
「日日明、もしあなたが重戦士のような上位の職業に負けていたら、最弱の勇者というレッテルを貼られていたかもしれないわよ?」
「俺はあいつと勝負するつもりなんてなかったけど」
「だったら臆病な勇者だと思われていたでしょうね。勇者になるのも楽じゃないのよ!」
「別になりたくてなったわけじゃない!」
「システムがあなたを選んだということは、きっと何か理由があるはずよ。ただ、具体的にどんな理由なのかは私にもわからないわ。何百年も眠っていたんだもの!」
その後、俺たちは城門までやって来た。
「こんな時間に城門まで来て、何をするつもりだ?」
門番が近づいてきて尋ねた。
「迷宮に行くために街の外へ出るのよ。これが私のギルド証! 日日明、あなたも証を出して!」
「おっ、わかった!」
門番は俺たち二人のギルド証を確認すると、驚いたように声を上げた。
「大魔法導師! それに……勇者! 勇者ですって!? あなた、本当に勇者様なのですか?」
「うん、どうやらそうみたいだ。俺たちは外に出てもいいのか?」
「ええ、問題ありません。どうぞお通りください、勇者様!」
その後、俺たちは街を出てナルナド地下迷宮へ向かった。少し戦闘をしたあと、秘密の広場まで戻り、あの部屋にある秘密の転移門を通った。そして、俺の部屋のクローゼットから元の世界へと帰ってきた。
スマホで時間を確認すると、すでに夜中の十二時近くになっていた。
「ああ! わざわざ往復するのも面倒ね! 私はお風呂に入ってくるわ!」
エルザはそう言った。今ではすでに、元の美しい姿に戻っている。
「付き合ってくれてありがとう、エルザ」
「ええ、明日は魔法の使い方を教えてあげるわ!」
そのとき、選択肢が表示された。
【選択肢1】エルザをお風呂に誘う!
【選択肢2】一人でお風呂に入る。
燃えるタイムゲージが表示された。数秒待つと、【選択肢3】清潔魔法の使い方を教えてください!
エルザは明日教えてくれると言っていたし、選択肢3は適切な選択とは言えない。だから俺は選択肢2を選んだ。
そういえば、異世界へ出発する前、小曉月はズボンのポケットに入れていたのだが、彼女は道中ずっと何も言わなかった。
俺はポケットから彼女を取り出し、机の上に置いた。
それから着替えと歯ブラシを持って風呂場へ向かい、入浴を済ませてから部屋に戻り、体を乾かした。
そこで初めて気づいたのだが、小曉月が乖乖のクリームココナッツ味を食べていた。
「おいおい! どうして勝手にお菓子を開けて食べてるんだよ!」
「毎日、乖乖をお供えしなきゃダメなのニャ!」
「そうだ、小曉月。俺が異世界で勇者の職業を手に入れたのは、どういうことだと思う?」
「そんなこと、私にわかるわけないニャ! それより、異世界で魔物を倒してもGポイントは稼げないニャ! 早くGポイントを稼ぐ努力をするニャ! そうしないと、ペナルティが待ってるニャ!」
「異世界ではGポイントを稼げないのか?」
「だって、これはあなたがこっちの世界に借りているポイントなのニャ。別の世界のポイントで支払えるわけないニャ! ポイントを稼ぎたいなら、もっと一生懸命に生きることニャ!」
「具体的には、どうすれば一生懸命生きていることになるんだ?」
「いろんな活動に積極的に参加して、この世界にとって役に立つことをするのニャ!」
「そう言われても、まだよくわからないよ! 今までは突然現れる選択肢に従ってポイントを貯めてきたけど、自分で何かを探して行動しろと言われても、何をすればいいのかわからないんだよ!」
「自分でよく考えるニャ! 価値のある人生って何なのか? 成功した人たちは普段何をしているのか? そういうことを考えるニャ!」
「何をすればいいのかわかっていたら、そもそもGポイントを百五十六万も借金してないよ!」
「それもそうだニャ! ハハハ!」
そういえば、俺はようやく明日、英語の小テストがあることを思い出した。そこで真面目に勉強した結果、五十Gポイントを獲得した。
翌日、学校で英語の小テストを無事に終えた。なかなかいい点数が取れたので、さらに報酬として五十Gポイントをもらった。
あまり重要ではないが、一つ紹介しておこう。俺たちの英語の先生は外国人らしい。金髪碧眼の美人教師だ。授業が終わると、また頭の中に選択肢が現れた!
【選択肢1】シンシア先生に授業でわからなかったことを質問する。百Gポイント獲得。
【選択肢2】先生に「好きです!」と告白する! 千Gポイント獲得!
燃えるタイムゲージが表示された。数秒待つと、【選択肢3】もう漏れそうだ! トイレに行く!
すると選択肢が崩壊した。
本当にもう漏れそうだったので、俺はすぐに選択肢3を選んでトイレに駆け込んだ!
午後、放課後になると、俺は再び第三音楽室へ向かった。しかし、彩衣は教室にいなかった。今日は練習のために残っていないようだ。仕方なく、俺は家に帰ることにした。
帰り道、単単割包店に寄って夕食を受け取った。そのとき、おばさんからエルザが店に採用され、今は本店で研修を受けていると聞いた。
そこで俺は、ふと疑問に思った。
そういえば、彼女の身分証明はどうやって用意したんだ? そもそも、彼女は不法入国者みたいなものじゃないか?
家に帰ると、エルザはすでに家にいた。
「日日明、お帰りなさい! ケーキを食べる? 店長が売れ残ったケーキを私にくれたのよ」
「エルザ、今さらだけど、君の身分証明はどうやって用意したんだ?」
「ああ、そのことね! 役所に行って、魅了の魔法を使って職員に私の言うとおりに書類を記入してもらったの。それで申請は完了よ!」
あっ! そうだった! こいつは魔法が使えるんだったな。まったく、何でもありじゃないか!
「魅了の魔法か? 相手に害はないのか?」
「ちょっとだけ相手が私の思いどおりに行動するようになるだけよ! 終わったあとは、何事もなかったかのように戻るわ。それじゃないと、ここでどうやって仕事を探すのよ? 私はいわゆる不法入国者なんだから!」
「それで、仕事はどう?」
「とても面白いわよ! まだケーキ作りは任せてもらえないけど、お茶の調製を担当させてもらっているの」
その後、俺は夕食を食べながら、エルザが今日の仕事で学んだことを聞いていた。
そして、俺たちは再び迷宮にある秘密の広場へとやって来た。
「それじゃあ、戦闘用の魔法を教えてあげるわね! あなたの職業は勇者だから、きっとどんな魔法でも覚えられるはずよ。まずは無属性の魔力弾からね! これは魔力をそのまま攻撃に使う、簡単な基礎魔法よ! お手本を見せてあげるわ! 魔力弾!」
エルザが目の前で手から魔力を放つのを見ただけなのに、俺のシステムにはすでに魔力弾のスキルを習得したと表示されていた。
「一回見ただけで覚えちゃったよ! エルザ!」
「それが勇者という職業の強みなのよ! どんなことでも瞬時に覚えて使えるようになるし、魔力や戦闘力の成長率もかなり高いの! それから、あなたは自分では気づいていないかもしれないけど、私が魔法を使うところを見ているとき、瞳に変化が起きていたわ。それは『勇者の眼』という追加効果なのよ! 魔力もかなり消費したはずよ」
そう言われて初めて、俺は自分の魔力がかなり減っていることに気づいた!
「本当だ! かなり消費してる!」
「それじゃあ、今度は自分で魔力弾を使ってみて!」
「魔力弾!」
俺はエルザの真似をして腕を構え、魔法の名前を叫んだ。すると、本当に手から魔力が放たれた!
「成功したぞ!」
「実は、スキル名を必ずしも声に出す必要はないのよ。心の中で発動をイメージするだけでも使えるわ。もう一度試してみて!」
「もう無理だ! 魔力が足りない! さっき勇者の眼を使ったときに、魔力を消費しすぎたんだ!」
「どうやら、もう少しレベルを上げる必要がありそうね。迷宮で戦闘しましょう!」
「うん! 行こう!」
その後、俺たちは迷宮で戦闘を続けた。俺はさらに何レベルか上がり、魔力も少し増えた。しかし、魔力弾の威力は、剣で直接斬りつけるよりも弱かった!




