第17話「迷宮冒険」
何曲か続けて歌い終えると、彩衣は練習の終了を告げた。
その後、俺たちはお互いに別れの挨拶を交わし、帰路についた。
家に帰る途中も、俺の頭の中には彼女の歌声がずっと響いていた。
彼女はまだデビューしたばかりのアイドル歌手だが、その歌唱力はかなり洗練されていて、美しい歌声の持ち主だった。
彼女はこれからきっと、もっと有名になるだろう。
しかし、すべてが終わった後には、彼女は俺のことなど忘れてしまうのかもしれない。
それでも俺は、これからも彼女の歌を応援し続けるつもりだ。
帰り道、単単割包に立ち寄り、夕食をテイクアウトした。
今日の夕食は魯肉飯に目玉焼きを乗せたものと、貢丸スープ、それに茹で野菜だ。
「日明、愛露莎さんと一緒に暮らしていて大丈夫なの?」
料理ができるのを待っていると、おばさんがやってきて尋ねた。
「大丈夫ですよ!それに、彼女は住む家が見つかったら出ていくって言ってましたから」
「愛露莎さん、台湾で部屋を借りるの?てっきり台湾に観光に来ているだけだと思っていたわ」
あっ!俺はいったい何を言っているんだ!
そもそも、最初に考えていた設定はどうなっていたっけ?
「あっ!ははは、彼女は台湾がとても気に入ったので、ここで暮らすことにしたんですよ」
「愛露莎さんはどんな仕事をしているの?もし仕事を探しているなら、うちの店でも人を募集しているわよ!」
「元々は医者だったと思います。でも、台湾では医師免許を持っていないので、今は転職してパティシエになろうと考えているみたいです」
「そうなの!それならちょうどいいわ。うちの関連企業のペンギン喫茶店で従業員を募集しているのよ。最近、金猫湖の近くに新しい店舗をオープンする予定なの。あれだけ中国語が上手なら、きっと問題ないわ。お店の電話番号を渡しておくから、帰ったら彼女に伝えてね。私からも先にお店に話を通しておくわ!」
「わかりましたよ、秀麗姉さん」
その後、俺は料理を受け取って家に帰った。
家に着くと、愛露莎はすでに帰宅していた。
「おかえりなさい、日日明」
「愛露莎、今日はまた何をしていたんだ?」
「いろんなところで食べたり飲んだりしていたわ!もう太っちゃいそうよ!この世界の食べ物は美味しすぎるんだもの!」
「そうか。愛露莎、前にパティシエになりたいって言っていたけど、具体的には何か考えているのか?」
「とりあえず、いろんなお店のものを食べ比べてみて、一番気に入ったお店で弟子入りして勉強しようと思っているわ」
「それなら、ペンギン喫茶店には行ったことがあるか?うちの一族の関連企業なんだ。希望するなら、最近新しくオープンする金猫湖店で働けるように手配してあげられるよ」
「いいの!?私、あそこの生クリームロールケーキと烏龍濃厚ミルクティーが大好きなのよ!」
「ああ、電話番号を教えるよ。明日、その番号に電話して、紹介者は俺のおばさんの古秀麗だと言えばいい」
「本当にありがとう、日日明!」
「お礼なんていいよ!感謝するなら、俺のおばさんにしてくれ」
「すぐに電話してお礼を言ってくるわ!」
「そうだ!もう一つ話があるんだ。俺、迷宮に行ってレベル上げをしたいんだけど、手伝ってくれないか?何しろ、俺には戦闘能力がほとんどないから、一人で迷宮に行くのは問題がありそうなんだ」
「うん、いいわよ!ただ、レベルアップしても魔力の増加量が少なかったら、結局魔法は使えないかもしれないわよ?」
「ああ、それはわかっている。ありがとう」
その後、俺は夕食を食べた。
そして今、愛露莎と一緒にナルナド地下迷宮の一層にある隠し部屋へ来ていた。
俺は勇者の基本装備一式に着替えた。
秘密の部屋を出ると、以前愛露莎がいた世界樹の広場にたどり着いた。
ここで不思議なのは、屋内であるにもかかわらず、太陽の光が差し込み、風まで吹いていることだ。
現実世界ではすでに夜になっているはずなのに、こちらは驚くほど明るかった。
地面にはまだ世界樹の果実がたくさん落ちていた。
世界樹はすでに枯れてしまっているが、果実はまだ腐っていないようだ。
「愛露莎、この世界の時間は俺たちの世界とは違うのか?」
「ここは少し特殊なの。私の気分によって変化する場所だったんだけど、今は私を失ったことで、その変化も止まっているはずよ。あなたが言っている時間のことについては、私にもよくわからないわ。自分で調べてみる必要がありそうね」
俺はスマホを取り出して時間を確認した。
そしてストップウォッチを起動し、心の中で一分を数えながら、実際に一分間計測してみた。
その結果、この世界の時間は元の世界とおおよそ同じように流れていることがわかった。
「この世界の時間の流れは、俺たちの世界と同じみたいだな!」
「そうなの?でも、向こうの世界はもう夜なんでしょう?ここは今、何時なのかしら?外に出て確かめてみましょう。ついてきて」
この広場にはいくつもの部屋へと通じる通路があったが、俺は愛露莎の後をついて、大きな扉の前までやってきた。
扉を押し開けると、俺たちは秘密の広場から外へ出た。
そこは迷宮の第一層だった。
俺たちが出てきた後、扉があった場所は再び壁へと戻ってしまった。
俺の頭の中に表示されるマップには、現在地と未探索のエリアがはっきりと表示されていた。
「こっちへ行きましょう!」
そういえば、どうして愛露莎は迷宮の中に隠れていたんだろう?
ここに誰かが彼女を探しに来ることはあるのだろうか?
「愛露莎、あの扉からまた戻れるのか?」
「もちろんよ!隠してあるだけで、鍵をかけているわけじゃないもの。ただ、私を見つけたのは、あなたが初めてなのよ。入口のところには、ちゃんとヒントを書いた石碑まで置いておいたのに!」
俺は愛露莎の後について、迷宮の中を歩いていった。
すると、目の前にモンスターが現れた。
システムの表示によると、低級スライムらしい。
青くて丸い、水羊羹のような姿をしていて、なかなか可愛らしい。
「戦闘開始よ!いけるわよね、日日明!」
「もちろんだ!」
俺はすぐに腰に差していた勇者の聖剣を抜き、スライムに向かって攻撃を仕掛けようとした。
すると、スライムは俺に向かって水の砲弾を放ってきた。
その攻撃は正確に俺の鎧に命中したが、攻撃の衝撃はほとんどなかった。
「核を狙って突き刺さないと倒せないわよ!」
「わかった!」
俺が核に向かって剣を突き刺そうとした瞬間、スライムは素早く跳び退いた。
そして、そのまま跳び上がって体当たりを仕掛けてきた。
だが、鎧がしっかりと攻撃を受け止めてくれた。
しばらく激しい攻防が続いたが、ようやく俺の剣がスライムの核を捉えた。
核が砕けると、スライムはただの水たまりになった。
システム通知によって経験値を獲得したことが表示されたが、まだレベルアップはしなかった。
「今の戦い方だと、モンスターが増えたときに苦戦することになるわよ。でも、一層のモンスターなら大したことはないわ!素材は忘れずに回収しておいてね。ギルドでお金と交換できるから」
その後、俺たちはナイトバットにも遭遇した。
空を飛ぶモンスターはなかなか厄介で、倒すまでにかなり苦労した。
それでも、なんとか真っ二つに斬り裂くことができた!
次に現れたのはスケルトンだった。
だが、そいつは武器を持っていなかった。
俺は剣で骨を砕いていった。
相手の攻撃は、この鎧にとって大したダメージにはならなかった。
その後、俺たちはようやく出口にたどり着いた。
外に出ると、そこは地上にある迷宮の入口だった。
外はすでに夜になっていた。
俺は夜空を見上げて、初めて二つの月が浮かんでいることに気づいた。
ここは本当に異世界なのだ。
「どうやら、ここの時間は俺たちの世界と同じみたいだな」
「うん、夜になっているわね」
「あっ!私の石碑が壊されているじゃない!いったい誰がこんなひどいことをしたのよ!」
愛露莎は入口付近に散らばっている、砕けた石碑の破片を見ながら言った。
「そういえば、俺、さっきレベルアップしたんだ。魔力がかなり増えたぞ!たぶん100以上増えたんじゃないかな?元々はたったの1だったのに!」
「もしかしたら、世界樹の果実を食べたことで、何か特別な追加効果を得たのかもしれないわね。普通、レベルアップしただけでそこまで魔力が増えることはないもの」
「それなら、俺も魔法を覚えられるのか?」
「まずは職業を選ぶ必要があるわ。先に冒険者ギルドへ行って登録しましょう」
「本当にこの世界はゲームみたいだな!」
二つの月の光に照らされながら、俺たちは街へと続く道を歩いていった。
しばらく進むと、街の城門に到着した。
門のそばには門番が立っていた。
「こんな時間に、二人で何をしに来た?」
門番が近づいてきて尋ねた。
「私たちは冒険者です。迷宮に長居しすぎてしまったのですが、街に入れてもらえませんか?」
愛露莎が答えた。
「冒険者ギルドの身分証を見せろ!」
「迷宮の中で紛失してしまったんです。こちらの金貨で入城税を支払えますか?余った分は、皆さんのお酒代にしてください」
「よし、今回だけは特別に見逃してやろう。ただし、次からはちゃんと冒険者ギルドの身分証を見せるんだぞ!おい、そこの者、門を開けろ!」
「はい!」
愛露莎は門番にかなりの金額を渡したようだった。
それと、もう一つ説明しておくと、今の愛露莎の外見は、あまり美しくない年老いた女性の姿になっていた。
街に入ってから、俺は愛露莎に尋ねた。
「その外見を変える魔法は何なんだ?危うく君だと気づかないところだったよ。別人かと思ったぞ!」
「これは面倒事を避けるための魔法よ。だって、私は美人でしょう?もし相手から酒の相手をしろなんて要求されたら、どうするの?」
「そういえば、冒険者ギルドの場所は知っているのか?」
「ここ数百年であまり変わっていなければ、たぶんあそこにあるはずよ?」
「もし、そこになかったらどうするんだ?」
「そのときは誰かに聞けばいいじゃない!」
俺は愛露莎の後について歩いていった。
すると、噴水のある広場を通りかかった。
噴水の中にある像は、勇者一行の姿をしているようだった。
その中の一体、エルフの像が愛露莎によく似ていたからだ。
その後、俺たちは無事に冒険者ギルドへたどり着いた。
愛露莎が扉を押し開けて中に入り、俺もその後に続いた。
中には酒とタバコ、そして食べ物の匂いが充満していた。
荒々しい男たちが、こんな夜遅くまで酒を飲み、じゃんけんをしたり腕相撲をしたりして騒いでいた。
愛露莎は相変わらず年老いて醜い女性の姿のまま、カウンターへ向かって受付係に話しかけた。
「冒険者登録をしたいのですが!」
「かしこまりました。ギルドカードの発行手数料として銀貨1枚をお支払いください。後ろにいる男性もご一緒ですか?」
「はい。私たちは二人でパーティーを組んでいます。こちらには銀貨がないのですが、金貨で支払うことはできますか?」
「はい、可能です。こちらには両替カウンターがございますので、そちらでお金に両替してからお越しください」
その後、愛露莎は金貨を両替し、手数料を支払ってから、冒険者登録のカウンターへ戻ってきた。
「銀貨2枚をお預かりしました。それでは、こちらの水晶玉に手を置いてください。あなたに適した職業を読み取ります」
「わかりました!」
愛露莎は今まで職業登録をしたことがなかったのだろうか?
俺は少し疑問に思った。
「あなたは知力と精神力が非常に高く、魔力量も相当なものですね!大魔法導師になることができますよ!」
「それなら、それにしましょう!」
愛露莎は水晶玉から投影された魔法の画面に触れ、職業を選択した。
「次はあなたの番よ、日日明」
「ああ!」
いよいよ、俺が魔法を使えるかどうかを決める職業選択の番だ!
できれば魔法使いになりたい!
あるいは魔法剣士でもいい!
俺は水晶玉に手を置いた。
すると、そこに表示されたのは……
「勇者!あなたは勇者なのですか!?何百年もの間、この職業が現れたことはありませんでした!国に報告しなければ!」
「はあ?俺が勇者?なんだか面倒くさそうだな!やり直すことはできないのか?」
「ぷっ!あはは!日日明、あなたって本当に予想外の人ね!」
愛露莎は笑い出した。
その場にいた人々も、俺を見ようと集まってきた。
どうやら、俺の異世界生活は勇者として始まることになったらしい。
それじゃあ、魔王を倒しに行かなければならないのか?
そういえば、この世界にはまだ魔王がいるんだろうか?
できれば、仲良くやっていきたいものだ。




