第16話「プライベートライブ」
翌朝、目を覚ました俺は、学校へ行くべきか、それとも迷宮へ行くべきか考えていた。
そのとき、リビングのテーブルに置かれたカレンダーが目に入った。
「行ってきます。愛露莎より」
どうやら、迷宮には行けそうにない。
何しろ、俺一人で行動するのは危険かもしれない。セーブ機能があるとはいえ、念のため、まずはセーブしておこう!
俺は最初のセーブデータだけは消さずに残し、二番目のセーブデータを何度も上書きして使っている。三番目のセーブデータはまだ使っていない。
身支度を済ませると、金猫の小さな神像を持って家を出た。
いつものように単単割包へ向かい、朝食を食べることにした。今日の朝食はハムエッグチーズトーストとリンゴジュースだ。
「お兄ちゃん、どうして上着のポケットに金猫の小さな神像を入れてるの?」
「こいつが幸運を運んできてくれるからだよ!」
「そうなの?なくしちゃう心配はないの?」
まあ、仮になくしたとしても、勝手に戻ってくるような気がする。
「そんなに運が悪いことにはならないだろ?」
そのとき、また選択肢が表示された!
【選択肢1】皢瑜の紙袋に入っている超ロングホットドッグをこっそり食べる。
【選択肢2】皢瑜を映画に誘う。
燃えるタイムゲージが表示された。
数秒待っていると、【選択肢3】皢瑜にホットドッグを分けてもらう、が現れた。
そこで俺は選択肢3を選んだ。
「皢瑜、そのホットドッグをちょっと味見させてもらってもいい?」
「ダメ!これは私の朝ごはんなんだから。食べたいならカウンターで注文してよ!」
システム通知!
陸皢瑜の好感度が下がった。
「そうか!じゃあいいや!」
その後、俺は学校へ向かった。
今日は郭彩衣も登校していた。
昨日と違うのは、彼女が眼鏡をかけていることだ。髪は相変わらずピンク色だが、雰囲気がまるで違っていた。優等生のような印象だ。
そういえば、こいつは入学試験の成績が一番だったんだっけ。
午前中の授業はいつもどおり進んでいった。
基本的に彩衣と話す機会はほとんどなかったが、昨日、俺がクラス委員長に告白したことが影響しているのか、クラスではまだその話題が続いていた。
俺自身はあまり気にしていなかったのだが、阿賢は俺と委員長をくっつける手助けをすると言い出した。
休み時間になると、その話題で盛り上がり始めた。
「日明、今から諦めるのはまだ早いぞ。何度も告白し続ければ、きっとチャンスはあるはずだ」
阿賢がそう言った。
「女子からしたら、迷惑に思われるんじゃないか?もう諦めたほうがいいと思うぞ!別の女子を探そうぜ!」
松樹がそう言った。
「俺にも昨日どうしてあんなことをしたのか、よくわからないんだ。冗談だったってことで、もう水に流してくれないか?今のところ、付き合いたいと思う相手はいないんだよ」
「じゃあ、どうして委員長に告白したんだよ?面白半分だったのか?」
松樹が怒ったように言った。
「い、いや、面白半分じゃない!俺が悪かった!許してくれ!」
「だったら、委員長に謝るべきだろ!」
「まあまあ、松、そんなに怒るなよ。いったい何に怒ってるんだ?」
「別に!俺は怒ってなんかない!」
ほんの些細なことだったが、俺は気づいてしまった。
なるほど、松樹は委員長のことが好きだったのか!
「お前、もしかして委員長のことが好きなのか?」
「ち、違う!そんなわけないだろ!変なこと言うなよ!」
松樹の顔は真っ赤になっていた!
これはもう確定だな!
阿賢はそのまま松樹をからかい続けていたが、俺は席を立ってトイレへ向かった。
トイレから出て教室へ戻ろうとしたところ、誰かに呼び止められた。
「日明くん、ちょっと待って!話があるの!」
振り返ると、そこにいたのはクラス委員長の邱芳華だった。
「何か用か?委員長」
「日明くん、昨日はびっくりしたけど、まずは友達から始めてもいいと思うの!」
そのとき、また頭の中に選択肢が表示された!
【選択肢1】委員長をからかう。
【選択肢2】委員長の申し出を断る。
燃えるタイムゲージ!
数秒待つと、【選択肢3】委員長に謝る!が現れた。
俺は選択肢3を選んだ。
「ごめん。昨日の俺はどうかしていたんだ。変なことを口走ってしまったけど、あまり気にしないでくれ」
「日明くん、私に振られたから、あんなことをしたの?まずは友達から始めてもいいんだよ?」
「本当にごめん。何かを勘違いして、あんな間違った行動を取ってしまったんだ。本当に申し訳ない」
「そうじゃなくて!日明くん、実は私、あなたのことが……」
そう言うと、委員長は走り去ってしまった。
いったい何を言おうとしていたんだろう?
そのとき、女子トイレのほうから着信音が聞こえてきた。
相手は慌ててしまったのか、スマホを落としてしまい、俺の目の前の床に転がってきた。
保護ケースがついているから、たぶん壊れてはいないだろう。
「しまった!」
女子の声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある!
郭彩衣だ。
彩衣はぎこちない動きで出てくると、スマホを拾い上げた。
「あっ!盗み聞きするつもりはなかったんだ!」
「わかってるよ。スマホは壊れてない?電話に出なくていいの?」
「ああ!仕事の連絡だよ!」
「じゃあ、俺は教室に戻るよ!」
「ちょっと待ってよ!日日明くん!」
「どうした?」
「私、思うんだけど……もしかしたら、委員長はあなたのことが好きなんじゃないかな?だから、まずは友達から始めようって言ったんじゃない?」
恋愛ゲームを何度も攻略してきた俺には、この場面で言うべき台詞が突然わかった!
「彩衣!知らないのか?俺が好きなのは君なんだよ!」
攻略はすでに始まっている!
システム通知!
彩衣に告白した。勇気ボーナスとして100Gポイントを獲得した。
「な、な、何を言ってるのよ!私たちはただの普通の友達でしょ!それに、どうしてトイレの前で告白するのよ!」
「君こそ勘違いしているよ。俺が好きなのは、アイドル歌手としての君なんだ。君の歌が好きなんだよ!」
そう、俺は本当に彩衣の歌が好きなのだ!
彼女がアイドル歌手になった頃から、ずっと注目していた。
「じゃあ、私のデビュー曲は何か言ってみて?」
「『夏季的小浪漫』だよ!」
「知ってるんだ?本当に私のファンなの?」
よし!ここまでは、俺があらかじめ考えていたシナリオどおりだ!
「もちろん!Tアカウントの『日日小宇宙』って知ってる?」
「知ってるよ。いつも私の投稿にいいねを押して、コメントしてくれる人でしょ!」
「それ、俺なんだよ!」
そう、俺は本当に彩衣のファンだ。
この関係を利用して、彼女に近づくつもりだった。
ただのファンで終わってしまっては、恋愛関係に発展することはできない。
だから、俺はもっと一歩踏み込んで、彼女と秘密の関係を築く必要がある!
「日日明くん!すごく嬉しいよ!ずっと応援してくれていたから、私は歌い続けることができたんだと思う!サインが欲しい?」
「できることなら、俺専用のプライベートライブをお願いしたいな!」
「何それ?そんなお願いをするの?本当に私の……歌が好きなの?」
「うん、大好きだよ!」
俺は嘘をついていない。
彼女がデビューしたときから、ずっと歌を聴いてきたのだから。
そのとき、授業開始のチャイムが鳴った。
「チャイムが鳴っちゃったね。またあとで話そう!私のファンとおしゃべりできて嬉しかったよ!」
「うん」
その後、俺たちは教室に戻って授業を受け、やがて休み時間になった。
昼休みになると、俺は弁当箱に給食をよそって食べた。
今日の給食は、ニンジン入り卵炒め、ナスの醤油煮、サツマイモの葉の炒め物、スペアリブ、白ご飯、大根の千切りスープだった。
昼食を食べ終えた俺は、届いていたメッセージを確認した。
彩衣からメッセージが届いていたが、俺のLINEではなく、Tアカウントの「日日小宇宙」宛てだった。
「放課後、第三音楽室に来られる?よくあそこで歌の練習をしているの。聴きたかったら来てもいいよ」
「ああ、わかった。行くよ」
俺はそう返信した。
すると、今度は雅蝶からLINEが届いた。
リンクが一つ添付されている。
「これは管理者アプリのリンクよ。遊魂の情報を把握するのに便利なの。あなたが協力者になれるよう、こちらで申請しておいたわ。私の招待リンクからアプリにログインしてね。具体的な使い方はアプリ内の説明を確認してちょうだい」
リンクを開くと、アプリのインストール画面が表示された。
俺はそのままインストールを選択した。
数分後、インストールが完了したので、アプリにログインした。
すると、俺の個人情報はすでに入力されており、白雅蝶の協力者として登録されていた。
アプリの説明を確認したところ、遊魂が憑依している相手を見つけるには、スマホのカメラを相手に向けてスキャンすればいいらしい。
そこで、俺は近くに座っていた彩衣にスマホを向けてスキャンしてみた。
どうやら、少し時間がかかるようだ。
「日日明くん、盗撮してるの?」
ちょうどそのとき、彩衣が振り返った。
そして、俺のスマホのカメラと目が合ってしまい、行動がバレてしまった。
「ち、違うんだ!」
俺は慌ててスマホをしまった。
「盗撮は禁止だよ!」
「ははは!彩衣はアイドルだからな!眼鏡くんは君のファンなんだろ?盗撮したくなる気持ちもわからなくはないけどな!」
そう言ったのは、彩衣の親友である林美香だった。
金髪に染めた、すらりとしたスタイルの美人ギャルだ。
ところで、眼鏡くんって俺のことか?
彼女の目には、俺はただの眼鏡にしか見えていないのか?
「美香、今の私はプライベート用の格好なんだから、あまり可愛くないでしょう?もし日日明くんが私の写真をネットにアップしたら、恥ずかしいよ!」
いや、俺はアップするつもりなんてないぞ!
眼鏡姿の彩衣は、俺だけの秘蔵コレクションなのだから!
「アイドルが写真を撮られるのを怖がってどうするのよ!今日だって十分可愛いじゃない!」
「もう、褒めないでよ!恥ずかしいじゃない!」
「ははは!」
彩衣は再び美香との会話に戻った。
どうやら、俺との会話はこれで終わりらしい。
俺は立ち上がって教室を出ると、廊下でスマホのスキャン結果を確認した。
画面には、遊魂の憑依を確認したという表示が出ていた。
さらに、事件を通報するかどうかを尋ねる選択肢まで表示されている。
もちろん、俺は通報しないことにした。
もし彩衣まで、あの男のような目に遭わされたらどうするんだ?
その後、午後の放課後になり、俺は第三音楽室へ向かった。
彩衣は教室の中で、スマホとスピーカーを接続する準備をしていた。
「日日明くん、来てくれたんだね!今、準備しているところなの。ごめんね、着替えは用意していないんだけど、制服のまま歌ってもいいかな?」
制服姿で歌ってくれるなんて、特別感がありすぎるだろ!
これは俺だけの特典じゃないか!
そのとき、また選択肢が表示された!
【選択肢1】彼女の服装を褒める。
【選択肢2】準備不足の彼女を見たくないと言う。
当然、選択肢2を選ぶわけがない。
俺は選択肢1を選んだ。
「君は何を着ていても可愛いと思うよ!」
「ありがとう。それじゃあ、歌い始めるね!『夏季的小浪漫』を聴いてください!」
曲が流れ始めると、俺だけのプライベートライブが始まった。
彩衣の歌声は本当に素晴らしかった。
だが、あまり興奮しすぎてはいけない。
彼女の練習の邪魔になってしまったら困るからな。




