第7話『その神画角、俺の最高級カメラならもっと綺麗に撮れる』
未開の回廊に入る前に、俺はギルドで機材の点検を受けた。カメラの修理は終わっているが、液晶のひびは残っている。暗所では使える。だが、映像の細部を拡大すると、ノイズが目立った。
「そのカメラで、あの映像を撮ったのか?」
背後から声がした。
振り返ると、黒いジャケットの男が立っていた。胸には大手配信事務所『アルファ・ライブ』のロゴ。神楽坂レオ。A級探索者であり、配信者としても知られた男だ。
「その神画角、俺の最高級カメラならもっと綺麗に撮れる。君の機材は古いし、手ブレ補正も貧弱だ。撮影者の腕があるのは認めるが、素材の質は機材で変わる」
自慢ではなかった。レオは実際に高性能のカメラと無音ドローンを使っている。映像の解像度だけなら、俺の機材より何段も上だろう。
「同じ場所で撮れば、同じものが撮れると思うか?」
「少なくとも、映像の鮮明さは上げられる。君の動画は、危険を売りにして画質の粗さをごまかしているようにも見える」
反論したくなったが、半分は正しい。ぼやけた映像を神画角と呼んで済ませる気はない。
「じゃあ、実際に撮ってみればいい。ただし、俺が入った経路は教えない。自分で見つけてくれ」
レオは口角を上げた。
「望むところだ」
彼は数日かけて地形データと鉱物の反射から回廊の候補を絞り、独力で入口を見つけてきた。機材の準備も万全だった。照明は使わない。ドローンは床に触れず、遠隔から無音で動かす。安全ロープも二重に張っている。
その慎重さを見て、俺は少し考えを改めた。レオは馬鹿ではない。彼は彼の方法で、撮影の危険を減らしている。
「では、同じ対象を撮ろう」
回廊の奥には、ロック・ガーゴイルがいた。岩の身体に苔が張りつき、長い腕を床に垂らしている。俺が近づくと、いつもなら赤文字が出る場所だ。だが、今日は何もない。
レオはドローンをゆっくり上げ、ガーゴイルの頭上から全身を捉えた。画面には、岩の模様まで鮮明に映る。彼の映像は確かに美しい。
「どうだ。情報量なら、俺の方が上だろう」
俺は答えなかった。
ガーゴイルの指が、床を三度叩いた。
コツ。コツ。コツ。
その後、頭がわずかに右へ傾く。レオのモニターに警告が出た。床の振動を検知したらしい。彼はドローンを止め、距離を取った。
「地面の共振か……。想定外だが、対処できる」
レオの判断は正しかった。彼はすぐにドローンを引き戻し、撮影位置を変えた。ところがガーゴイルは、今度は俺の足元へ顔を向けた。
こいつが反応したのは光ではない。動きでもない。床から伝わる、ごく小さな振動だ。
俺のカメラを握る指が止まった。
ここは、まだ撮影の始まりですらなかった。




