第37話『俺のカメラは、嘘を撮るためにあるんじゃない』
評議は一時中断された。外部配信を止め、小型機を封印しただけでは、疑いは消えない。人間側は「怪物の内部に協力者がいる」と主張し、怪物側は「ギルドが会場の映像を盗んだ」と言い返す。
議長は俺に尋ねた。
「お前の記録には、何が残っている」
「会場の様子。投影石の点滅。点滅の直後に起きた動き。外部配信が始まった時刻。そして、配信機が会場の外にあったことです」
「それで、どちらが犯人か分かるのか」
「分かりません。分からないことを、分かるように編集するつもりもありません」
俺は映像を再生した。全景の中で、投影石が光る。獣人が立ち上がる。石鬼が机を叩く。護衛の手が剣へ向かう。誰かが最初から仕組んだ動きなのか、光に反応しただけなのか。それだけでは断定できない。
「そこまで映っているなら、誰が最初に動いたか言えるだろう」
獣人の議員が迫った。怒りは当然だ。自分たちの一挙手一投足が、外では敵意として売られている。
「順番は言えます。でも、理由までは映像だけで決められません。光に反応したのか、別の合図を見たのか、本人が説明しない限り断定できない。ここで一人を犯人にしたら、次はその人間を映した俺の責任になります」
俺はあえて、誰の顔も拡大しなかった。
次に、床の反射を拡大した。投影石が光る直前、天井の隙間から細い赤い線が伸びている。小型機のレンズに映った反射と同じ方向だった。俺が見つけたのは犯人ではない。外部から光が入り、会場の動きと配信が連動していたという順序だ。
「この記録が証明するのは、会場の映像が外部から操作された可能性があることです。過去の襲撃映像が本物かどうかまでは、まだ証明できません」
古賀は悔しそうに唇を結んだ。
「それでは、人間側の疑いは晴れない」
「逆です。人間が先に襲ったと断定する根拠も、怪物が先に襲ったと断定する根拠も、今は足りない。だからこそ、どちらか一方を裁く決議を止める理由になります」
議長は長い沈黙のあと、杖を床に置いた。
「映像を提出しろ。無加工の記録と、説明用の編集版を分けてな」
「この評議は、永久停止の決議を保留にするだけです。外部配信を仕掛けた者も、過去の襲撃を記録した者も、まだ分かっていない」
「それでいい。分からぬことまで決めれば、次の評議は裁きではなく報復になる」
俺はうなずいた。
「公開する版は、両者の確認を取ってからです。今日の全記録を、そのまま世間に流すことはしません」
赤文字が一行だけ出た。
《その光は、会場の外から来た》
続けて、文字が増える。
《だが、外にいるのが人間とは限らない》




