第35話『評議の最中に、勝手な配信が始まった』
投影が消えたあとも、広間の緊張はほどけなかった。剣を抜いた護衛が、怪物側の席を警戒している。石鬼は円卓に手を置いたまま、誰にも近づくなと命じた。
そのとき、古賀の端末から警告音が鳴った。
「外部配信が始まっている……!」
映像は、ついさっきの広間を映していた。獣人が吠え、石鬼が机を叩く。だが、投影石が消えた直後の映像だけが切り取られ、まるで怪物たちが人間を襲おうとしている場面に見える。画面の上には、煽るような見出しが付いていた。
『七層の怪物、交渉決裂。人間を排除か』
「誰が撮っている?」古賀が声を荒らげた。
会場の中に配信機器はない。持ち込みも禁止した。なのに映像は出ている。しかも、投影石が消える直前の俺の撮影位置と、ほぼ同じ高さから撮られていた。
俺はカメラの画面を確認した。壁面の黒石に、細い光が走っている。配信映像の切り替わりと同じタイミングだ。
「会場の外に、中継機があるはずです」
「根拠は?」
「壁の反射です。配信の画面が切り替わるたび、右側の黒石に光が走る。中から飛ばしているなら、反射の位置が変わる。位置が変わらないのは、信号が外から入っているからです」
門番が出口へ走ろうとした。だが、議長が杖を鳴らす。
「誰も動くな。今ここで一人でも怪物が人間へ手を出せば、配信の見出しが事実になる」
配信画面の数字は、数十から数百へ跳ねていた。画面の向こうでは、事情を知らない人間が短い映像だけを見て判断を下している。コメントは速く流れ、訂正の声はすぐに押し流された。
「止めるには、送信元を見つけるしかない」古賀が端末を握りしめる。
「だから、画角を変えずに探します。今、誰かを追いかけて動けば、会場の記録が途切れる」
それは正しい。外の視聴者が何を見ているか分からない。ここで殴り合えば、切り取られた映像に現実が追いついてしまう。
俺はレンズを右側の壁へ向けた。黒石に映る光は、細い線となって天井の隙間へ伸びている。
「配信元は、会場の中じゃない。あの通気口の向こうです」
議長が俺を見た。
「見つけられるか」
「撮影を続けられるなら」




