第34話『怪物が動く前に、天井が光った』
投影石の点滅を、ほかの誰も気に留めなかった。議長は映像の再生を命じ、各陣営は同じ主張を繰り返す。人間側は怪物の腕を、怪物側は人間の剣を、それぞれ画面いっぱいに映すよう要求した。
俺はカメラを動かさなかった。全景を保ったまま、天井の光と円卓の影が同じ画面に入るよう、三脚の首をほんの少しだけ傾ける。
次の再生で、天井の継ぎ目にまた赤い光が走った。直後、投影石の映像が一瞬乱れ、獣人の議員が椅子を蹴って立ち上がる。ほぼ同時に、隣の石鬼が腕を振り上げた。古賀が身を引き、護衛が剣の柄に手をかける。
「待ってください!」
俺の声が、広間に響いた。
「今、誰かが動く前に、天井が光りました」
「それが何だ」
「その光が出るたび、投影石の映像が一瞬だけ乱れる。さっきも、今もです。映像が乱れる前に、光が先に出ている。誰かを操っているとは言えませんが、動き出す瞬間を外へ知らせる合図かもしれない」
赤文字が重なる。
《撮るな。右端を撮るな》
俺は従わなかった。画角の右端には、誰も使っていない補助台と、装飾用の黒い石柱がある。柱の表面に、赤い光が一瞬だけ反射した。
「右端に何かある」
門番が石柱へ近づこうとした途端、投影石から甲高い音が鳴った。獣人が吠え、石鬼が円卓を叩く。次の瞬間、護衛の一人が剣を抜いた。
抜かれた刃が灯りを反射し、獣人が一歩踏み出す。石鬼の手が円卓を砕きかけた。俺はカメラの前へ出ず、画角を広く保ったまま叫ぶ。
「今の動きを、あとから見てください! 誰が最初に立ったか、誰が剣を抜いたか、全部残っています。ここで本当に斬ったら、記録は合図じゃなく殺し合いになります!」
会場が、戦場に変わりかけた。
俺は録画を続けたまま、古賀へ叫ぶ。
「投影を切ってください! 今の映像は、会議を説明するために使われているんじゃない。会議を動かすために使われています!」
古賀が制御盤へ駆けた。投影石が消え、広間の音が戻る。
一拍遅れて、俺のカメラに赤文字が浮かんだ。
《今のは合図だ。次は、誰かが本当に斬る》




