第33話『襲撃映像には、肝心な一秒がなかった』
投影された映像は、短かった。
人間の探索者が剣を抜く。目の前の怪物が腕を振り上げる。次の瞬間、人間の刃が怪物の肩を斬り、怪物が床に倒れた。映像はそこで終わっていた。
「人間が先に斬った」
怪物側の席から声が上がる。
「違う。怪物が腕を振り上げたから、探索者は身を守った」
古賀が反論しかけたが、俺は手を上げた。
「元データを見せてください」
「これが提出された記録だ」
「提出版ではなく、撮影機器から出したままのファイルです。切り出す前の尺と、音声も必要です」
古賀は眉をひそめた。映像の右下にはギルドの認証記号が付いている。だが、それは提出されたファイルの出所を示すだけで、編集されていない証明にはならない。
俺は投影を止め、最後の二秒を拡大した。剣が動く前に、怪物の肩が一瞬だけ沈んでいる。攻撃の予備動作にも見えるし、何かを避けたようにも見える。画面の端では、床の粉塵が左から右へ流れていた。
音声波形を表示すると、刃が当たる直前に短い空白がある。雑音を除いた跡にも見えるが、その直後だけ残響まで不自然に切れていた。元の録音がなければ、何が欠けたのかも分からない。
俺は何千時間も、編集前の映像と編集後の映像を見比べてきた。切り方ひとつで、同じ人間が臆病にも残忍にも見える。今のファイルは、短すぎる。
「この映像だけでは、どちらが先に手を出したか断定できません。刃が届く前の動きが切れている。音も、剣が当たる直前だけ不自然に途切れています」
「認証済みの証拠を疑うのか」
議長の声が広間を震わせた。
「疑っているのは証拠そのものではありません。証拠として足りているかどうかです。これで立ち入りを永久停止するなら、記録の不足まで判決の一部になります」
怪物側の席がざわめく。人間側は黙り込んだ。
赤文字が一列、画面に浮かぶ。
《その映像は、襲撃を映していない》
続いて、短い一文が現れた。
《合図を映している》
「誰が、何の合図を出した?」
返事はない。
そのとき、投影石の映像が一瞬だけ乱れ、天井の継ぎ目に赤い光が走った。




