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怪物のコメントが見える底辺カメラマン、ダンジョン配信で成り上がる  作者: 七瀬ナギ
第三章 氷の向こうにいた人

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第28話『撮影を止めろ。今は映像より命だ』

氷壁へ近づいた途端、足元の感触が変わった。


靴底の下で、薄い氷が低く鳴る。俺がカメラの画面を確認する間に、黒瀬が支えにしていた岩棚から細かい破片が落ちた。


「戻って!」


声と同時に、天井の氷板が剥がれた。黒瀬は身を引いたが、片足が白い筋にかかっていた。床が割れ、膝まで沈む。


俺はカメラを下げ、彼の腕を掴んだ。ストラップが機材を引き戻す。レンズハウジングが岩にぶつかり、乾いた音が響いた。


「カメラが……」


「いいから手を出せ!」


黒瀬が手を伸ばし、俺は体重を後ろへ預けて引き上げた。二人が安全な棚へ転がり込んだ直後、さっきまで立っていた床が崩れ、白い霧の向こうへ落ちていった。


録画ランプはまだ点いていた。落下の瞬間も、黒瀬が足を取られたところも、すべて記録されている。だが、その映像には位置を特定できる氷壁の模様も、彼の失敗も、必要以上に鮮明に残る。


俺は録画を止めた。


黒瀬が息を整えながら言った。


「今のは、記録しておくべきだったんじゃないですか。危険の証拠になる」


「安全な場所で話せるなら、あとから状況は記録できます。今は、あなたが立てるか確認する方が先です」


俺は膝と足首を確認した。捻ったようだが、骨は折れていない。立てる。戻ることもできる。ただし、さっきの落下で回廊の一部が塞がれ、来た道は通れなくなっていた。


氷壁の向こうで、竜が咆哮した。


青い光が走り、崩れた天井の破片を冷気が包み込む。砕けかけた氷が一瞬で固まり、落下の勢いが止まった。竜は俺たちに向かっていない。崩れた壁を、これ以上壊さないよう押さえている。


「やっぱり、あいつは……」黒瀬がつぶやいた。


「まだ決めつけないでください。危険がないわけじゃない」


俺は保存用の録画を止めた。視聴者に見せるための配信は、出発前から行っていない。だが、記録を続ければ、氷壁の場所も構造も必要以上に残る。仮に人影が悠司本人なら、帰還した直後から本人の意志と無関係に世間へ晒されることになる。


カメラは待機状態にした。救助が先だ。


「必要になったら、記録を再開します。今は戻る道を探す」


黒瀬は頷いた。カメラではなく、初めて周囲そのものを見た。


氷壁の奥から、小さな音が三度聞こえた。


コン、コン、コン。


人間の手で叩いた音だった。


黒瀬の顔から血の気が引いた。


「悠司だ……」


今度は、聞き間違いではなかった。

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