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怪物のコメントが見える底辺カメラマン、ダンジョン配信で成り上がる  作者: 七瀬ナギ
第三章 氷の向こうにいた人

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第25話『氷晶竜は、俺たちではなく氷壁を守っていた』

氷の向こうから現れた竜は、白いというより、透明に近かった。


首から尾まで氷晶が連なり、動くたびに内部の光がずれる。翼は薄い板のようで、広げると回廊の壁に反射が幾重にも重なった。目は青く、こちらを見ているはずなのに、焦点が俺たちから外れている。


黒瀬が武器を構えた。


「来るぞ」


俺は録画を開始した。竜は頭を下げ、喉の奥を青く光らせた。ブレスが来る。だが、その射線は俺たちではなく、背後の氷壁へ向いていた。


轟音とともに冷気が走る。壁の表面が白く曇り、細い亀裂が一瞬だけ消えた。竜は息を吐き切ると、前脚を広げて氷壁の前に立った。


「……俺たちを追い払うためじゃない?」


黒瀬が半歩進む。竜の首がそちらへ動いた。今度は口を開いたが、ブレスを放たず、床を一度だけ爪で叩く。砕けた氷片が黒瀬の足元へ飛んだ。


「威嚇しているのか」


「いや。そこから先へ来るなと言っているように見えます」


竜は何度も俺たちと氷壁を見比べた。攻撃の姿勢を取っているのに、身体の向きは一貫して壁をかばっている。もし俺たちを倒すことだけが目的なら、横へ回ることも、回廊を塞ぐこともできるはずだ。


俺はカメラを少し下げ、竜の足元を画面に入れた。爪の跡は氷壁の手前で止まっている。壁を傷つけないよう、意図的に踏み込みを抑えているのか。


赤文字が一行だけ現れた。


《そいつは、壁の中のものを守っている》


「中のものって、何だ」


返事はない。


黒瀬が武器を下ろさないまま、声を張った。


「悠司! 聞こえるか!」


音は氷に吸われた。竜が鋭く頭を上げ、こちらへ吠えた。黒瀬は反射的に構えを固めたが、竜の牙は彼へ向かわなかった。


竜は氷壁へ顔を寄せ、鼻先をそっと表面に当てた。


その瞬間、氷の内側で、指先のようなものが動いた。


黒瀬が一歩踏み出す。


「生きてる……?」


俺はまだ断定できなかった。画面を拡大し、同じ箇所を数秒分巻き戻す。反射ではない。氷の表面に映った手ではなく、その向こう側から動いている。


「少なくとも、影は固定されていない。もう少し観察します。ここで壁を壊すのは危険です」


竜の青い目が、初めて俺のカメラをまっすぐ見た。


撮られることを嫌がっているのか。それとも、俺が何を見ているのか確かめているのか。


どちらにしても、ここから先は、ただの討伐記録では済まなくなっていた。

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