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怪物のコメントが見える底辺カメラマン、ダンジョン配信で成り上がる  作者: 七瀬ナギ
第三章 氷の向こうにいた人

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第24話『氷結の回廊では、足音が嘘をつく』

五層『氷結の回廊』は、地図にあるより広く感じた。


壁も床も白い。遠近を測る目印が少なく、数歩先の曲がり角がどれほど遠いのか分からない。俺たちの足音は壁に反射し、正面から聞こえた音が、少し遅れて背後から返ってきた。


「距離感が狂うな」黒瀬が言った。


「足音だけを頼りにすると、位置を間違えます。音が戻る方向と、音が消える場所を記録します」


俺は小さな金属片を床へ置き、短く転がした。音が三度返ってきた。正面、左、そして背後。だが、左の壁は地図上では数メートル先にしかない。反響する空間が、見えている壁とは別の形をしている。


画面の端に、赤文字が浮かんだ。


《白い筋を踏むな》


俺は足を止めた。床には細い白い線が走っていた。霜が作った模様に見える。けれど、線は一定の幅を保ち、曲がり角で途切れずに壁へ続いている。


黒瀬が金属片を拾おうとしたので、俺は手で制した。


「触る前に試します」


リュックから小さな石を取り出し、白い線の外側へ置く。変化はない。線の上へ滑らせた瞬間、石の表面が白く曇り、音もなく割れた。


「凍結というより、圧力が違うのか……」


「踏んでいたら、靴ごと割れていたかもしれませんね」


黒瀬は答えず、線の形を地図へ書き込んだ。


続けて、別の赤文字が現れた。


《青い筋を割れ》


青い筋は、白い線と違って壁の中を流れていた。水脈のように見えるが、流れがない。カメラを寄せると、青い光が一定の間隔で明滅している。


「割れと言われても、さっき白い線を踏むなと教えてきた相手の言葉を、全部信じる気はありません」


俺は撮影倍率を上げた。青い筋は表面の氷ではなく、内部の結晶の並びに沿って伸びている。氷の層がずれるたび、光の流れもわずかに動いた。


「これは割れ目じゃない。中の力を流す経路だ。壊したら、圧力が変わるかもしれない」


赤文字は返事をしなかった。


俺たちは白い線を避け、青い筋を傷つけないよう進んだ。やがて、回廊の奥に巨大な氷壁が現れた。壁の中心だけ、表面の霜が薄い。向こう側に白い巨体の輪郭があり、その背後に、あの人影が重なっている。


黒瀬は息を呑んだ。


「間違いない……あの場所だ」


俺は撮影を始める。だが、画面の隅に出た温度表示が、急に下がった。


壁の向こうで、巨大な影が動いた。

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