第22話『依頼人は、死んだはずの仲間を探していた』
依頼主の黒瀬蓮は、ギルドの待合室に一人で座っていた。
三十歳前後。装備は使い込まれているが、刃物も留め具も手入れされている。B級上位のソロ探索者という登録情報に、違和感はなかった。
俺が画像をテーブルに置くと、黒瀬は氷壁の影を見て、表情を固くした。
「……やはり、残っていたか」
「知っている人間ですか」
黒瀬はすぐに答えず、自分の手首に巻かれた色あせた赤い紐を外した。画像の影にも、よく似た色が見えた。
「佐伯悠司。半年前、俺と同じ隊で五層に入った探索者です。氷結の回廊で壁が崩れた。あいつは奥に残り、俺は救援を呼ぶために撤退した」
「遺体は?」
「見つかっていません。装備の一部だけが戻った。ギルドの記録では、氷晶竜に襲われて死亡した可能性が高い、という扱いです」
黒瀬の声に、怒りはなかった。怒る力を何度も使い切った人間の声だった。
「俺が戻らなかったせいで死んだ、と言う人間もいる。否定できる証拠はなかった。だから、今回の討伐依頼を受けた。氷晶竜を見つけ、素材を回収し、記録を残す。それが公式に認められた理由です」
「でも、本当はあの影を探している」
「はい。生きていると信じている、とは言えません。そう言えるだけの根拠がなかった。ただ、死んだと決められる根拠もなかった」
黒瀬は依頼書の報酬欄を見た。三十万円。半分は着手金として、もう機材の調達に使われている。
「あなたに頼んだのは、竜を綺麗に撮るためだけではありません。俺が見たものを、俺の都合で編集したと言われないためです。目撃したものを、他の人間にも確認できる形で残してほしい」
「それなら、依頼内容を変える必要があります。討伐だけを目的にしていたら、人影を見つけても撮影を続けることになる」
「……そうですね」
「生存者がいた場合は、討伐より救助を優先する。場所を特定できる映像は公開しない。人物の映像を使うときは、本人かギルドの確認を取る。この三つを契約に追加してください」
黒瀬は少し考え、うなずいた。
「その条件でお願いします」
「ただし、生存者がいなかった場合まで、映像があなたの疑いを晴らすとは約束できません。撮れるのは事実だけです」
「それでいい。俺は、事実が欲しい」
黒瀬の指が、赤い紐を強く握った。
「もう一つ。もし悠司が生きていたら、連れ帰りたい。討伐の報酬がなくなってもです」
俺は契約書を取り出した。
「では、書面に残しましょう。現場で決めたことを、後から都合よく変えないために」
彼は迷わず署名した。
依頼主は、竜を殺すためだけにここへ来たのではなかった。けれど、竜を殺さずに帰る覚悟が本当にできているのかは、まだ分からなかった。




