第21話『氷晶竜の背後に、人影がある』
氷晶竜の初討伐記録として地下五層へ向かうタクトと黒瀬蓮。しかし依頼画像には、竜の背後に人影が写っていた。半年前に行方不明となった黒瀬の仲間・佐伯悠司かもしれない。討伐を優先すれば成果報酬は得られるが、氷壁を壊せば生存者を危険にさらす。タクトは撮影技術で氷の構造と竜の行動を読み、依頼を救助へ切り替える判断を支える。
氷晶竜の添付画像を、俺は何度も拡大した。
白い竜の輪郭。氷壁。画面の右端に走る青い筋。依頼書に記された情報は、それだけだった。
だが、静止画を一枚ずつ送っていくと、竜の背後にある影だけが、少しずつ形を変えていた。
最初は氷の層が作った歪みに見えた。次の一枚では肩のような輪郭があり、その次には、指を伸ばした手らしい形があった。
反射なら、カメラの角度が変われば位置もずれる。だが、影は氷壁の同じ場所に留まっている。竜が動いても、影だけはそこから動かなかった。
「人……か?」
俺は撮影時の情報を確認した。画像は依頼主が撮ったものではない。ギルドの古い観測記録から切り出された一枚だった。記録者の名前は伏せられている。
不用意に拡大画像を公開すれば、氷壁の位置を特定される。俺は配信用フォルダから画像を分離し、依頼主だけに送ることにした。
『氷晶竜の後ろに、人影のようなものが映っています。ご存じですか』
送信してから、三分も経たなかった。
『その画像を、誰かに見せましたか』
返事は質問だった。
『あなたにしか送っていません。影に心当たりがあるんですね』
既読の表示はついた。それきり返事が途切れた。
俺は机に広げた機材のリストを見た。防寒レンズハウジング、バッテリーヒーター、交換用バッテリー。着手金の十五万円はすべて準備に回し、手元の六万一千円には手を付けていない。ここまで来て仕事を降りれば、機材は残るが、報酬の残り半分は得られない。
画面に赤い文字が浮かんだ。
《そこにいるのは、獲物じゃない》
「じゃあ、何だ」
《人間が勝手に、死んだことにした》
俺は返事を打つように画面へ指を向けた。文字はそれ以上増えなかった。
スマートフォンが震えた。依頼主からのメッセージだ。
『今日、ギルドで会えますか。直接話します』
添付されていた画像をもう一度見た。氷の中の手は、何かを掴もうとしているように見えた。
依頼書には、氷晶竜の討伐と素材の確認としか書かれていない。
だが、俺が撮ることになるのは、竜だけではないのかもしれなかった。




