第19話『「名前を使わせてくれ」――それなら別商品だ』
アーマード・ファングの動画がバズった翌日、ギルドのカフェラウンジで俺の前に座っていたのは、中堅配信事務所『ネクスト・ステージ』のマネージャーだった。
「弊社所属のB級配信者、ライガの次回ボス戦撮影をお願いしたい。報酬は一回十万円。加えて、サムネイルとSNS告知で『神画角・志摩タクト撮影・推奨作品』と明記させていただきたいのです」
「撮影者として名前を載せるのは構いません。実際に俺が撮った映像ですから。ただ、『推奨』は別です」
マネージャーが首を傾げた。
「名前を載せるだけでは?」
「クレジットは、誰が撮影したかを記録するものです。でも『推奨』と書けば、俺が配信内容まで認めたように見える。撮影した映像の品質と、配信者の発言や行動を保証することは違います」
男は、サムネイルの案をタブレットに表示した。そこには、ライガが巨大なボスへ向かう写真と、俺の名前が大きく配置されていた。実際には、俺はまだその撮影を受けていない。
「この告知を先に出せば、撮影が決まったように見えますね」
「期待値を上げるためです」
「撮影が成立しなかったら、俺の名前だけが宣伝に残る。ライガが配信で問題を起こした場合も、俺が薦めたように見える。それは撮影料に含まれません」
俺は手帳に項目を書いた。
撮影と納品は十万円。広告での推奨表現は別契約。使用期間は三十日。対象はこの撮影作品に限定し、他の配信や企業広告への転用は不可。実際に納品した映像以外には、俺の名前を付けない。
「広告・推奨利用料として、別途五万円をお願いします。クレジット表記だけなら追加料金は不要です」
「五万円の根拠は?」
「今回の規模で、名前の利用範囲を三十日間に限定した試験料金です。永久に使える権利を売るわけではありません。実績が増えれば条件も見直します」
マネージャーはすぐには答えなかった。彼は自社にとっての利点だけでなく、俺が要求している制限も確認しているようだった。
「推奨表現は残したい。ただ、品質保証と誤解されるのは困る。『神画角監修・撮影:志摩タクト』ならどうですか」
「実際に納品した映像に限るなら、検討できます。公開前に最終版を確認させてください」
「分かりました。十五万円で、その条件を社内に持ち帰ります。撮影日時と対象が決まったら、本契約を結びましょう」
撮影料と広告利用料の条件については合意した。だが、撮影日時も内容も、まだ確定していない。相手が欲しかったのは俺の名前そのものではなく、名前に結びついた信用を宣伝に使う権利だった。
俺が売っているのは、撮影技術だけではない。だが、名前を渡すことと、信用を無制限に貸すことは同じじゃない。




