第16話『一秒前を撮れ。そうすれば、戦いが変わる』
アイアンゴーレムが動き出した。
ガイが前へ出て、バルドが盾を構える。リサは後方から支援魔法を待機させていた。訓練通りの連携だ。だが、ゴーレムが大剣を振る直前、左膝がほんの少し沈んだ。
「ガイ、右へ半歩!」
ガイが反射的に動いた。直後、ゴーレムの剣が床を叩き、衝撃波が先ほどまで彼のいた位置を走り抜けた。
「今の……見えていたのか?」
「膝が沈んだ。次も同じかは分からない。だが、もう一度確認したい」
俺はカメラを下げず、膝と剣の柄を同時に入れた。ゴーレムは剣を引き、再び重心を左へ移す。今度はバルドの盾が揺れた。ガイが攻めるのを一瞬待ち、リサの魔法が先に飛ぶ。攻撃は真正面からぶつからず、ゴーレムの腕を横へ逸らした。
戦いの中で、彼らが見せたのは力ではなく、判断の連鎖だった。
ゴーレムの膝が沈む。盾役が角度を変える。ガイが踏み込み、リサが隙を埋める。四つの動きがつながったとき、硬い胸板に一筋の亀裂が走った。
俺は接近しなかった。最初に決めた位置を守り、視線だけを移した。亀裂が走った瞬間、ゴーレムは攻撃をやめ、胸をかばうように腕を戻した。
「……今の動き」ガイが言った。「攻撃を防ぐためじゃない。胸を隠した?」
「見えたのはそこまでです」
リサが撤退を宣言する前に、ゴーレムは膝をついた。討伐完了。だが、最後の一撃より、胸をかばった動作の方が気になった。
帰還後、俺は撮影データを確認した。戦闘の最高潮だけを切り出すこともできる。ガイが最後の一撃を入れる場面は迫力があり、サムネイルにも使えるだろう。
だが、その直前にゴーレムが胸をかばう動きがある。膝の沈みと同じく、そこにも意味がありそうだった。
「この場面を残したい」俺はガイに映像を見せた。「ゴーレムは、胸を攻撃される前から守ろうとしている」
「戦闘の見どころが薄くならないか?」
「見どころは、倒した瞬間だけじゃない。なぜ倒せたのかが分かる映像にしたい」
ガイは腕を組み、しばらく画面を見ていた。
「……分かった。だが、俺たちが勝った場面もちゃんと残せ」
「もちろん。主役はあんたたちだ」
納品用の編集は、まだ終わっていなかった。




