第13話『残債ゼロ。次の客は、人間だった』
ギルドの鑑定窓口で、赤竜の逆鱗は十万円と評価された。
「売却します」
受付の職員が金額を読み上げ、端末に確定を入力した。受け取った十万円から、残っていた五万二千円を大家へ振り込む。スマートフォンの残債表示がゼロになった。
【残債:0円】
俺は画面を何度も見直した。これで追い出される心配は消えた。だが、来月の家賃も、壊れた機材の交換も、これから自分で稼がなければならない。借金を返しただけで、成功したわけじゃない。ようやく、次の仕事を探す余裕ができたというだけだ。
【手元残高:61,000円/残債:0円】
期限まで、あと十日。ぎりぎりだった。
借金は消えた。だが、壊れた機材を新調する余裕はないし、仕事が途切れれば来月の家賃が払えなくなる。ようやくゼロ地点に立っただけだ。
その夜、赤竜の映像は人間の配信サイトに公開された。背景は伏せ、位置情報も落としてある。コメントは賛否に割れた。
『炎の規模だけなら、もっと大きい映像もある』
『でも、あの息を吸う音から炎が出るまでの間、怖すぎる』
『最後に目が映るところ、こっち見てるみたいで鳥肌立った』
数字が急に跳ねたわけではない。だが、動画には一つの問いが残った。なぜあの竜は、炎を止めたのか。
配信を閉じようとしたとき、ギルド経由の問い合わせが届いた。
送信者はB級パーティ『アーマード・ファング』。代表のガイは、短い文面で要件を伝えてきた。
『次のボス戦を撮影してほしい。今までの配信では、俺たちの戦いがただの力押しに見える。実際に何をしているのか、映像で残したい』
提示額は三万円。
俺は返信欄を開き、すぐには返事をしなかった。
人間の客は怪物と違って、最初から俺の映像の価値を知っているわけではない。何を撮れば価値になるかを、依頼主と一緒に決める必要がある。
そして、金額の話だけで終わる仕事でもなさそうだった。




