第10話『撮影依頼は一回十万円から。場所と公開範囲は俺が決める』
ギルドの鑑定窓口で、青竜石の値段が出た。
「二十万円です。状態もいいので、買い取り額は下がりません」
俺は売却に同意した。前日の配信で受け取った投げ銭二万円を足し、合計二十二万円を大家へ振り込む。
【手元残高:13,000円/残債:52,000円/残り20日】
三十万円にはまだ届かない。だが、残債は五万二千円まで減った。あと一本、仕事を取れば返せる。
百万円を断ったことを、今になって悔やむ気はなかった。ただし、同じ断り方を次もできるとは限らない。企業の提案には、金だけでなく機材と安全管理も含まれていた。独力で撮り続けるなら、その分も自分で用意する必要がある。
俺はギルドのロビーで料金表を作った。
受付の女性が、画面を覗き込んだ。
「一回十万円からですか? まだ継続案件があるわけではないですよね」
「そうです」
「それで依頼が来なかったら?」
「料金を下げる前に、何にいくら掛かるかを見直します。移動、危険、機材、撮影後の編集。安く受けて納品まで手を抜けないなら、続けられません」
彼女は少し考えてから頷いた。
「市場価格と言い切るには、実績が足りない。でも、あなた自身が仕事を続けるための最低価格なら、あなたが決めるしかないですね」
その言葉は、百万円の契約を断ったことより現実的だった。今の俺には、相場を決めるだけの実績はない。まずは提示した価格で依頼が成立するか、実際の仕事で確かめるしかなかった。
【撮影基本料:一回十万円から】
【公開範囲・二次利用・未編集データの扱いは契約時に決定】
【撮影者の安全と対象の保護を損なう条件は受けない】
値段は、あの企業が提示した百万円を基準にしたわけではない。現場へ行く時間、危険、機材の消耗、撮影後の編集、納品までに必要な作業。それらをすべて自分で負担するなら、安く引き受けていては続かない。
十万円は、どんな仕事でも同じ値段だという意味ではない。標準的な撮影の最低価格だ。環境や利用条件が違えば、別に見積もる。
概要欄を更新した直後、赤文字が現れた。
《一本十万円か》
「そうだ」
《なら、その額を払おう。貨幣はないが、ギルドで十万円に換金できる逆鱗を渡す》
「条件がある。完成映像を納品できた場合に報酬を受け取る。撮れなかった場合は料金は発生しない。危険があれば、途中で中止する」
《分かった。完成した画に払う。四層の『竜の回廊』へ来い》
続けて、別の一行が打刻された。
《俺のブレスを正面から撮れ》
「正面から、か」
俺はカメラのレンズキャップを外した。真正面から撮れば、炎にレンズが焼かれる。横から逃げれば、依頼主の望む画にならない。その間に、俺が切り取るべき構図がある。
「まず、何を見せたいのか聞かせてもらう。それから場所を決める」
返事はなかった。ただ、竜の回廊へ続く扉が、地図の中で赤く点滅していた。
(第一章 完)
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
第十話をもって、第一章は完結です。
ここまでタクトが撮ってきたのは、危険な魔物の姿だけではありません。人間には知られていない怪物たちの暮らしや、彼らが隠したいものも、少しずつ画面に映り始めました。
第二章では、一本十万円の撮影依頼が始まります。タクトは依頼主の望む映像を撮りながら、何を映し、何を映さないのか、自分の仕事の条件を決めていきます。
続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。




