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「わたし、死なないみたいです」処刑された悪役令嬢は首を抱えて帰省する。  作者: あとりえむ


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第9話

結界の穴が完全に塞がり、領地は再び絶対的な静寂と平穏を取り戻した。

だが、結界の外ではミハエルが再び結界を破壊しようと、狂ったようにその巨躯を打ちつけている。


そんな状況も、今の私には全く聞こえていなかった。

私の世界は、腕の中で動かなくなった彼と共に完全に暗転してしまったからだ。


「ユリウス様……?ねえ、嘘でしょう……?」


血だまりの中に倒れ伏す彼の体をきつく抱きしめても、いつも私を優しく包み込んでくれた体温は急速に失われ、あの心地よい声が返ってくることはない。


左胸にぽっかりと空いたおぞましい傷跡が、彼の命がすでに失われてしまったという残酷な現実を突きつけてくる。


「嫌……嫌です、ユリウス様!目を開けてください!」


私の絶叫が、美しい領地に虚しく響き渡る。


彼と出会ってからの日々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡っていった。


処刑台で首を落とされた私を狂喜乱舞して拾い上げ、ありったけの過保護と甘やかしで包み込んでくれた不器用な人。


彼の呆れるほどの執着と絶対的な愛情が、氷のように冷え切っていた私の心をどれほど温めてくれたことか。


ただ居心地が良かっただけじゃない。

私はもう、彼なしの未来なんて考えられないほどに、心からこの狂気的で優しい錬金術師を愛していたのだ。


「私を置いていかないで……失いたくない、帰ってきて……っ!」


私は動かなくなったユリウス様の胸にすがりつき、心に芽生えていた確かな愛情を涙と共にぶちまけながら、子供のように声を上げて泣きじゃくった。



涙で霞む視界の中、私はユリウス様の青ざめた頬を両手でそっと包み込んだ。


どうか、私の命を差し出してもいいから、もう一度あの温かい声で私の名前を呼んでほしい。

悲壮な祈りと共に、私は彼の冷たくなった唇に、自分の唇を深く重ね合わせた。



──その瞬間


私たちの重なり合った唇から、目も眩むような漆黒の光が溢れ出し、夜よりも深い闇が辺りを包み込んだのだ。


光は瞬く間に私たち二人を包み込み、幾重にも連なる複雑で美しい魔法陣を大地に描き出す。


それはエドワーズ家の長い歴史の中でも、正当な血を引く唯一の後継者のみに発動が許された禁断の秘術、番の契約だった。


死者をただの駒として使役する通常のネクロマンシーとは全く異なる、究極の命の共有。

己の魔力と命の半分を切り離して相手に直接分け与え、魂を深く結びつけて死者を自らの永遠の半身として蘇生させるという、文字通りの禁忌の術である。


私の中から膨大な魔力と生命力が奔流となって流れ出し、ユリウス様の冷え切った体へと止めどなく注ぎ込まれていくのがはっきりと分かった。


たとえこれで私の寿命が縮もうとも、決して後悔などしない。


漆黒の光が天を衝くように激しく立ち上り、私の強い願いに呼応するように、ユリウス様の胸に空いた絶望的な風穴を瞬く間に塞いでいく。



漆黒の光がゆっくりと収束し、周囲に再び静寂が降りてくる。


私が祈るように見つめる中、ユリウス様の閉じていた長い睫毛が微かに震えた。


「ユリウス、様……?」


ゆっくりと見開かれた琥珀色の瞳が、私を真っ直ぐに映し出す。


「ああ……私の、美しく愛おしいミランダ。まさかあなたから命を分けていただけるとは、私はなんて幸せ者なのでしょう」


彼が身を起こし、私を力強く抱き寄せた瞬間、その体から溢れ出す尋常ではない気配に私は息を呑んだ。

以前のユリウス様とは比べ物にならない、底知れぬ圧倒的な力が渦巻いているのだ。


「ユリウス様、その力は一体……それに、傷が完全に……」


「ええ、心配には及びませんよ。あの下等なバケモノの触手に貫かれた時、ただ黙って死んでやるのは癪でしたのでね。焼き尽くす直前に、私の体に残されたあの肉片から、錬金術の奥義で瘴気と魔物の力を抽出して私の魔力回路に取り込ませておいたのです。ここへ来てから研究していたネクロマンサーの力の解析が役に立ったようです」


彼はまるで新しい研究成果を誇る狂気的な学者のように、うっとりと微笑んだ。


エドワーズ家の至高の秘術によって与えられた莫大な生命力と、変異種から奪い取った無尽蔵の魔力。

死の淵から蘇生した私の愛しい錬金術師は、かつてないほど強大で、そして誰よりも恐ろしい存在へと進化を遂げて復活を果たしたのだった。



ユリウス様は私をそっと腕の中に抱き上げたまま、結界の外で未だに壁を叩き続けている醜悪なバケモノへと冷酷な視線を向けた。


「さて……私の大切なミランダを傷つけ、あろうことかその美しい瞳から涙を流させた罪は、万死に値するどころではありませんね」


その声はどこまでも優しく響いたが、内包されたどす黒い怒りは、周囲の空気を瞬時に凍りつかせるほどに絶対的だった。


ユリウス様が片手を軽く結界の方へと向ける。

ただそれだけの動作で、彼の手のひらから放出された圧倒的な魔力と錬金術の光が、致死量の瘴気と混ざり合いながら結界の見えない壁を軽々と透過していった。


「散りなさい、汚らわしいゴミよ」


直後、結界の外で天地を揺るがすような大爆発が巻き起こった。


ギャアアアアァァァァッ!!


先程まで私とユリウス様の二人掛かりでも抑えきれなかったはずの巨大な変異種が、見えない巨大な圧力に四方八方から押し潰され、醜い肉体を無残に弾け飛ばしていく。



圧倒的、ただそれだけの力だった。


私の半身として得たネクロマンシーの魔力と、極め尽くされた錬金術、そしてバケモノ自身から奪い取った力が融合した一撃は、もはや人智を超えた次元に到達している。


土煙と瘴気が晴れた後、そこには塵芥の如く完全に叩きのめされ、ピクピクと痙攣しながら地に伏せるミハエルの無様な残骸だけが転がっていた。

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