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「わたし、死なないみたいです」処刑された悪役令嬢は首を抱えて帰省する。  作者: あとりえむ


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第8話

ギリギリと悲鳴を上げる鎖から、私の両手に直接重い痛みが伝わってくる。

ユリウス様の錬金術で生み出された鋼の杭も、異形の巨体が暴れるたびにひしゃげ、今にも根元からへし折れそうだった。


「ミランダァァァッ!僕ノ、モノダァァァッ!」


結界の向こう側で狂い吠えるバケモノは、もはや自分が何者であったかすら完全に忘れ去り、ただ私への執着だけでその醜悪な肉体を動かしている。


アンデッドたちを喰らい尽くし、底なしの瘴気を吸い上げた変異種の力はあまりにも凄まじく、私とユリウス様の二人掛かりでも完全に抑え込むことは不可能だった。


じりじりと、削り取られた大地を滑るようにして、異形の腕が結界の穴から這い出してくる。


「っく!なんて魔力……このままでは、長くは抑えられません!」


私は額から噴き出す汗を拭う余裕すらなく、後ろに立つ両親に向かって悲痛な声を張り上げた。


「お父様、お母様!私たちがこいつを縛り付けている間に、どうか今のうちに結界の穴を塞いでください!」


私の叫びに、お父様とお母様はハッと我に返ったように力強く頷いた。


「分かったわ!あなたたち、絶対に手を離してはダメよ!」


「頼んだぞ、ミランダ、ユリウス殿!」


両親はそれぞれの杖を高く掲げ、エドワーズ家の真の力を解放した。

彼らの体から溢れ出した漆黒の魔力が凄まじい竜巻となって立ち上り、砕け散った結界の破片を強引に引き寄せながら、空いた大穴を塞ぐための修復作業へと全魔力を注ぎ込み始めた。



お父様とお母様から放たれた漆黒の魔力は、砕け散った結界の断面を縫い合わせるように凄まじい勢いで編み込まれていく。


見えない壁に空いた巨大な穴は、両親の途方もない力によって徐々に小さくなり始めていた。

結界が修復されていくにつれ、領地に流れ込んでいた死の瘴気も少しずつ薄らいでいく。


完全に塞がるまであと僅か。

しかし、異形を拘束し続ける私の体力と魔力は、すでに限界を迎えようとしていた。


繋ぎ止めている死の鎖から伝わってくる衝撃は内臓を揺るがし、全身の筋肉が悲鳴を上げ、視界がチカチカと点滅を繰り返す。


膝から力が抜けそうになるのを、背後のユリウス様が必死に抱きとめて支えてくれていた。


「ぐっ……ミランダ、私の魔力も注ぎ込みます。どうか、あと少しだけ耐えてください!」


ユリウス様の呼吸も荒く、彼が展開している鋼の杭も限界に達し、一本、また一本とひしゃげて砕け散っていく。


結界が塞がっていくことに焦りを感じたのか、バケモノと化したミハエルの狂乱はさらに激しさを増していった。


「ミランダァァァッ!行カセナイ……オ前ハ、僕ノ、モノダァァァッ!」


己の肉体が鎖や杭に削られ、どす黒い血と腐肉を撒き散らすのも構わず、彼は最後の足掻きとばかりに暴れ狂う。

その異常なまでの執念は、私たちの限界を容赦なく削り取っていく。


──ピキッ


ついに私の中から魔力が枯渇する嫌な音が響き、限界まで張り詰めていた死の鎖に致命的な亀裂が走った。



鎖が砕け散る乾いた音が響いたのは、両親の魔力によって結界の穴が完全に閉じようとした、まさにその瞬間だった。


あとほんの数センチ。その僅かな隙間が塞がる直前、バケモノと化したミハエルの狂気的な執念が、ついに限界を突破した。


「アアアアァァァァッ!」


鼓膜を突き破るような絶叫と共に、這い出ようとしていた巨大な腕がボコボコと不気味に波打ち、突如として鋭く尖った一本の触手へと姿を変えたのだ。


鋼のように硬く、凶悪な棘に覆われたその触手は、結界が閉じる直前の僅かな隙間を蛇の如くすり抜けて、領地の内側へと侵入してきた。


魔力が枯渇し、限界を迎えてその場にへたり込んでしまった私には、避けることも、新たな防御魔法を展開する余力すらも残されていなかった。


空中でピタリと狙いを定めた鋭利な触手は、風を切り裂きながら、私の左胸、鼓動を打つ心臓めがけて一直線に襲いかかってきた。


死の恐怖よりも先に、あまりにも唐突な絶望が視界を真っ白に塗りつぶしていく。



あぁ、私はここで死ぬのか。


せっかく、この温かくて過保護な場所で、ユリウス様と共に生きていきたいと心から願ったばかりだったのに。



容赦なく迫り来る死の凶刃を前に、私はただ、その結末を受け入れるようにぎゅっと目を閉じることしかできなかった。



「ミランダ!!」


耳をつんざくような鋭い声と共に、私の体は強い力で横へと突き飛ばされた。

何が起きたのか理解できないまま目を開けた私の視界に飛び込んできたのは、私の盾となって前に立ち塞がったユリウス様の背中だった。


ドスッという、鈍く嫌な音が響く。


私の心臓を貫くはずだった鋭利な触手は、ユリウス様の左胸を深々と貫き、背中から無惨に突き出していた。


どす黒い血と鮮血が混ざり合って飛び散り、私の頬を濡らす。


「ユリウス、様……?」


震える声でその名を呼ぶと、ユリウス様は口から大量の血を吐き出しながらも、自分を貫く触手を両手でしっかりと掴み取った。


「ごふっ……私の、至高の芸術品に……気安く触れるな……っ!」


彼が最後の力を振り絞って叫ぶと、その両手から凄まじい光が放たれた。

命そのものを燃やすような錬金術の奥義が発動し、眩い業火となって突き刺さった触手を一瞬にして根元まで焼き尽くしていく。


「ギィヤアアアァァァッ!」


結界の外でバケモノが激痛に悲鳴を上げ、燃え盛る腕の残骸を引き抜いて後退した。


その一瞬の隙を見逃さず、お父様とお母様が残る全魔力を叩き込み、ついに結界の穴を完全に塞ぎ切った。

ピシャンッという冷たい音と共に、領地は再び完璧な絶対領域によって隔絶された。



しかし、拘束の解けた外のミハエルは依然として諦めることなく、腕を焼かれた怒りと執着に狂いながら、ドスンドスンと見えない壁を叩き続けて迫りきている。


だが、そんな外の脅威など、今の私の目には全く入っていなかった。

触手を焼き尽くすと同時にすべての力を使い果たし、糸が切れたように崩れ落ちるユリウス様の体を、私はただ必死に抱きとめることしかできなかった。

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