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「わたし、死なないみたいです」処刑された悪役令嬢は首を抱えて帰省する。  作者: あとりえむ


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第2話

王都から数日歩き続け、私は無事に実家であるエドワーズ公爵領へと辿り着いた。


道中、すれ違う旅人や行商人たちには悲鳴を上げられ、時には腰を抜かされたりもしたが、幸いにして魔物に襲われるなどの実害はなかった。

首なしの令嬢が自分の頭を抱えて街道を歩く姿は、並の魔物よりもよほど恐ろしかったのかもしれない。



懐かしい屋敷の門をくぐると、連絡もなしに帰還したというのに、お父様とお母様が揃って出迎えてくれた。


私の姿を見たお母様は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべて両手を合わせた。


「あらあら、ミランダ。お帰りなさい。でも、せっかくのドレスが血で汚れてしまったわね」


呑気すぎる第一声に、私は小脇に抱えた自分の頭で呆れ顔を作った。

お父様に至っては、腕を組んでうんうんと深く頷いている。


「だから言っただろう。念のために強力な不死の加護をかけておいて正解だったと。それにしても、見事な切られっぷりだな」


我が家にとって、生首を抱えて帰宅する娘など、少し派手な転び方をして帰ってきた程度の認識らしい。

さすがは伝説のネクロマンサーの末裔というべきか、両親の肝の座り方は尋常ではなかった。


「ただいま戻りました、お父様、お母様。ご心配をおかけしました」


私は自分の首を持ったまま、器用にカーテシーをして見せた。

とはいえ、このままでは色々と不便だろう。


お父様は私の首の断面をまじまじと見つめながら言った。


「王都での騒ぎは、すでに風の噂で届いていた。だから、お前が帰ってくるまでに腕利きの専門家を屋敷に招き入れておいたんだよ」


「専門家、ですか?」


私が小首を傾げようとして、首が手の中にあることに気づき、代わりに瞬きをしたその時だった。

屋敷の奥から、白衣を羽織り、銀色の髪を無造作に束ねた見知らぬ青年が、足早にこちらへ向かってくるのが見えた。



彼が近づいてくるにつれ、その琥珀色の瞳が異様なまでに爛々と輝いているのが分かった。


「素晴らしい……!」


初対面の挨拶すらなく、青年は私の首と胴体の間へと滑り込み、熱を帯びた吐息を漏らした。


「なんて美しい首の断面だ!生きたままこれほど完璧で綺麗な状態を保っているなど、まさに奇跡。これこそ、私の理想とする至高の芸術品だ!」


「紹介が遅れたが、彼が王国随一の腕を持つと同時に、王国随一の変人と名高い錬金術師のユリウス殿だよ」


呆気にとられる私をよそに、お父様が朗らかに説明を付け加える。


普通なら不審者として叩き出されてもおかしくない発言と距離感だが、道中で散々化物を見るような目を向けられてきた私にとって、ただの「肉体」として純粋に感嘆してくれる彼の態度は、少しだけ心地よかった。


「さあ、こちらへ。私の持てる技術のすべてを懸けて、あなたを元通り以上の傑作に仕立て上げましょう」


彼は私の胴体の手を取ると、半ば強引に客間のふかふかなソファへと誘導した。私の頭は、彼自身の手によってテーブルの上のクッションに丁重に置かれる。


ユリウス様は白衣のポケットから、自作だという真珠色の特製絹糸と、甘い香りのする秘薬を取り出した。


細くて冷たい彼の指先が、私の首と胴体を丁寧に、そして狂気的なほどの正確さで縫い合わせていく。

痛みは全くない。それどころか、彼の指が触れ、秘薬が塗り込まれるたびに、不思議な熱がじんわりと広がっていくようだった。



「完成です。ああ、なんて美しい。私の最高傑作だ」


縫合を終えたユリウス様は、感極まったような声で囁くと、あろうことか繋ぎ合わせたばかりの私の首筋にそっと熱い唇を落とした。


ひゃっ、と喉の奥から変な声が漏れてしまう。


しかし彼は気にする様子もなく、私の顔を両手でそっと包み込み、うっとりとした琥珀色の瞳で私を真っ直ぐに見つめてきた。


「これからは私が貴女の専属錬金術師です。私の至高の芸術品に、今後一切の傷はつけさせません」


誓いのようなその言葉の通り、それから始まった彼の過保護ぶりは常軌を逸していた。


私が少しでも立ち上がろうとすれば血相を変えて飛んできて体を支え、数歩歩こうとすれば危ないからと抱き上げようとする。

食事の際も、縫合したばかりの首の筋肉に負担がかかるかもしれないという理由で、細かく切り分けた料理を彼の手から直接口へ運ばれる始末だ。


あまりにも過剰なスキンシップと執着に、最初はただただ戸惑うばかりだった。

なにしろ、元婚約者であるミハエル様からは、触れることすら穢らわしいと常に一定の距離を置かれていたのだから。


男性からこれほどまでに熱を帯びた視線を向けられ、大切に扱われるのは私の人生で初めての経験だった。



最初は困惑しかなかったその過保護な扱いも、数日が過ぎる頃には不思議と日常の一部として馴染み始めていた。


私の実家であるエドワーズ公爵家は、その強大で特異な魔力ゆえに、王族からは忌み嫌われ、民衆からは畏怖の対象とされてきた。

私自身も、王都では常に不気味な女というレッテルを貼られ、化物を見るような冷たい視線に晒され続けていたのだ。


しかし、目の前にいるこの銀髪の錬金術師は違う。

私の特異な体質を、恐れるどころか心から愛し、全肯定してくれる。


「ユリウス様、いくらなんでも少し大げさですわ。もう首はしっかりくっついていますし、自分でお茶くらい飲めます」


「いけません、ミランダ。万が一にも、貴女の美しい首筋に負担をかけるわけにはいかないのです。さあ、あーんして」


真剣な顔でスプーンを差し出してくるユリウス様に、私は小さくため息をつきながらも、素直に口を開けた。


狂気的とも言えるその愛に満ちた執着は、見方によっては恐ろしいものなのかもしれない。

けれど、処刑台から生還した私にとって、自分を化物扱いせずに宝物のように慈しんでくれる彼の存在は、胸の奥がじんわりと温かくなるような安堵をもたらしてくれた。


どうやら私の実家での新しい生活は、退屈とは無縁の、甘くて少しおかしな日々になりそうだ。

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