第四十五話 1月8日 ただいまと、おかえり
3学期の始業式は、1月8日だった。
朝の教室に、人が戻ってきた。
声が戻ってきた。
上履きの音が戻ってきた。
冬休みが終わった。
太秦が一番うるさかった。
「姉貴がさあ、帰るとき全部食べ切って帰ったんだよね、お菓子」
「全部?」
「全部。一個も残さず。俺のも」
「それは」
「腹立つよな?」
さやかが「まあ、姉妹ってそんなもんじゃないの」と言った。
「姉妹じゃなくて姉弟」
「同じだよ。わたしも弟にやられたことある」
「ほんとに?」
「お年玉用の袋、捨てられた。空の」
「なんで」
「知らない。でも本人は覚えてないって言ってた」
「それは許せん」
「もう許した」
さやかが事務的に言った。
太秦が「さやかさんは強い」と言った。
みおが少し頷いていた。
「……葛城さんは年末年始どうでした」
太秦が聞いた。
「……祖父母の家に行きました」
「どこですか」
「……少し遠いです」
「何日いたの」
「……三が日と少し、いました」
「静かそう」
「……静かでした。好きな場所です」
「よかったですね」
太秦が言った。
さやかが「太秦くん今日ちょっと丁寧じゃない?」と言った。
太秦が「年の初めだから」と言った。
さやかが「続かないと思う」と言った。
みおが少し、口の端を動かした。
ひなが廊下から顔を出したのは、ホームルームの少し前だった。
「おはよ! あけおめ!」
「あけましておめでとう」
「ひなちゃんは初売り行ったの」
「行った行った! 太秦くんと」
「え、一緒に行ったの」
「うん。荷物持ってくれるから便利なんよ」
「それ友達として使い方が雑すぎる」
「太秦くんが行くって言ったんだよ」
「……来年は言わない」
「言うくせに」
太秦が頭の後ろを掻いた。
ひながみおを見た。
「みおはお土産あった?」
「……あります」
「え、やった」
「……祖父母の家の近くの和菓子です」
「それ絶対おいしいやつ」
「……あとで渡します」
「めちゃくちゃ楽しみにしてる」
ひなが満足した顔で廊下に戻っていった。
さやかが「ひなっち、毎年お土産楽しみにしてるよね」と言った。
みおが「……知りませんでした」と言った。
廊下でことねと会ったのは、午前の授業が終わった後だった。
ことねが向こうから来た。
速度が上がった。
「央! みおちゃん! あけましておめでとう!!!」
ことねが両手を広げた。
みおが少し後ろに引いた。
央が少し前に出た。
「あけましておめでとうございます」
「久しぶりー! 年越しどうだった? 元気だった?」
「はい」
「みおちゃんは帰省してたんやったっけ」
「……はい。三が日は祖父母の家に」
「どうやった」
「……よかったです」
「よかったー!」
ことねが笑った。
えくぼが出た。
「うちはね、おばあちゃんに会いに行ったんやけど、ものすごい鋭くてさ」
「……鋭い?」
「一発で気づかれた」
「……何を」
「……朔くんのこと」
みおが少し首を傾けた。
「……気づかれたんですか」
「顔に出てたらしい。おばあちゃんに」
「……ことね先輩の顔に」
「そう。なんか恋愛してるんって聞かれて」
「……どう答えましたか」
「……どうかな、って言った」
みおが少し考えた。
「……ことね先輩らしいですね」
「そう?」
「……どちらとも取れる言い方です」
「うちもそう思ったやつ」
ことねがまた笑った。
「朔くんは? 元気だった?」
「……図書室に来ていると思います」
「そか! あとで挨拶しに行かな」
ことねがまた速度を上げて歩いていった。
放課後、図書室に行くと、朔がいた。
いつもの席だった。
宇陀さんが新着本の整理をしていた。
朔が立ち上がった。
「宇陀さん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
頭を下げた。
宇陀さんが少し目を丸くした。
「……あけましておめでとうございます。比叡さん、丁寧ですね」
「年始ですから」
「そうですね。こちらこそよろしくお願いします」
朔が頷いた。
それから央に気づいた。
「……勢多くん」
「お疲れ様です。あけましておめでとうございます」
「……あけましておめでとうございます」
ふたりで少し、頷いた。
央は近くの席に鞄を置いた。
文庫本を出した。
「……昨日」
央が言った。
「……はい」
「……誕生日でしたよね」
朔が少し、止まった。
「……よく知っていましたね」
「図書委員の引き継ぎ書類に」
「そうですか」
朔が少し間を置いた。
「……おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
静かだった。
図書室らしかった。
「……気づいた人は、他にいましたか」
「……いないです。本日は」
「そうですか」
「……ことね先輩には、まだ言っていないです」
「……そうですか」
「今日言えば、大騒ぎになると思いましたので」
朔が少し、口の端を動かした。
「……正解です」
本を開いた。
ページが静かになった。
夜、グループLINEが動いた。
発端はことねだった。
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ことね:サクくんって誕生日1月7日じゃなかったっけ
ことね:昨日やん!!!!!
ことね:なんで言ってくれなかったの!!
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朔 :……特に言うタイミングがなかったので
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ことね:そういう問題じゃなくて!!!!
ことね:おめでとう!!!!遅くなったけど!!!!
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太秦 :おめでとうございます!!
さやか:おめでとうございます。知らなかった
ひな :え!比叡先輩誕生日あったんですか!!おめでとうございます!!
さやか:そりゃあるでしょ
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朔 :……ありがとうございます
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ことね:今度ちゃんとお祝いするからね!!!
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朔 :……それで十分です
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ことね:十分じゃなくていい!!
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央はそのやりとりを画面の中で見た。
(大騒ぎになった)
正解だった、とまた思った。
スマホを置いた。
窓の外に、1月の夜があった。
新しい学期が始まっていた。
春まで、まだ少しある。
でも、確かに近づいていた。
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