第四十三話 1月1日 それぞれの朝
深夜に届いていたグループLINEの「あけおめ!!!!!」に、既読が順番についていた。
元日の朝、それぞれがスマホを開いた。
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台所で珈琲を入れた。
豆を挽く音が、いつも通りに響いた。
元日の朝もそれは変わらなかった。
ただ、祖父が台所に来た。
それが少し違った。
「珈琲か」
「はい。飲みますか」
「頼む」
ふたつ分、入れた。
リビングで並んで座った。
窓の外が、少しずつ明るくなっていた。
初日の出が、遠くの建物の隙間から差し込んだ。
細い光だったが、確かにそこにあった。
「また一年」
祖父が言った。
「……はい」
央が答えた。
珈琲を一口飲んだ。
苦かった。
いつも通りだった。
スマホを開いた。
みおの連絡先を見た。
少し考えた。
考えるほどのことでもなかった。
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央 :あけましておめでとうございます
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送った。
すぐに既読がついた。
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みお :あけましておめでとうございます
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それで十分だった。
窓の外の光が、少し広がっていた。
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新幹線は、朝の早い時間だった。
みおは窓際の席に座って、イヤホンをつけた。
文庫本を開いた。
車内はまだ空いていた。
スマホの通知が来た。
確認した。
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央 :あけましておめでとうございます
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返信した。
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みお :あけましておめでとうございます
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少し後に、また来た。
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央 :今日から帰省ですか
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みお :……はい。祖父母の家に
みお :三が日は戻りません
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央 :そうですか。良いお正月を
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みお :……央さんも
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やりとりはそこで止まった。
でも、ちょうどよかった。
みおはイヤホンを直して、また本を開いた。
新幹線が、西へ向かって走っていた。
祖父母の家に着いた。
玄関を開けると、祖母が出てきた。
「みお! よく来たね」
「……ただいまです」
「背、また伸びた?」
「……たぶん」
祖母が笑った。
みおも少し、唇を動かした。
家の中は広くて、静かだった。
みおが落ち着ける場所だった。
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ことねは、家族と近所の神社に行った。
元日の午前中は人が多かった。
参道に列ができていた。
ことねは列を見て少し引いたが、父が「毎年そうやから」と言った。
並んだ。
参拝を済ませてから、おみくじを引いた。
開いた。
大吉だった。
「やった!」
声に出した。
隣の父が「毎年大吉やな、お前」と言った。
「引き強いだけ」とことねが言った。
帰り道、スマホを確認した。
朔からのLINEがまだ画面にあった。
(今年もよろしくね、朔くん)
心の中で言った。
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朔は父母と、家から歩いて行ける神社に参拝した。
人は少なくなかったが、静かな神社だった。
古い木が並んでいた。
石畳が続いていた。
参拝した。
おみくじを引いた。
開いた。
静かに読んだ。
表情は変わらなかった。
(まあまあです)
心の中で言った。
折りたたんで、しまった。
帰り道、父が「今年はどんな年にしたいか」と聞いた。
朔は少し考えた。
「……続けたいことが、あります」
それだけ言った。
父は何も聞かなかった。
それでよかった。
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太秦の姉は、1月2日の昼に帰っていった。
「じゃあね」
「はい、おつかれさまでした」
「なんで敬語」
「自然と」
姉が笑いながら、荷物を持って出ていった。
静かになった。
太秦は深呼吸した。
悪い人ではなかった。
うるさいだけだった。
父の修理店は、3日から初売りだった。
2日はその準備だった。
在庫を確認して、棚を整えた。
「よくやった」
父が言った。
「毎年やってるから」
「毎年ありがとう」
太秦は少し頭の後ろを掻いた。
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さやかは、祖父母の家の台所に立っていた。
おせちの詰め直しを手伝っていた。
祖母が隣で黒豆を確認していた。
弟が台所に顔を出した。
「さやかねえちゃんのおせち、一番好き」
「おせちは市販」
「でも詰めるの上手じゃん」
「……そこだけ」
さやかが少し照れた。
顔には出さなかった。
祖母が「さやかは料理上手だよ」と言った。
「上手じゃないです」とさやかが言った。
弟がまた「一番好き」と言った。
さやかは黙って、数の子を詰めた。
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ひなは元日の朝からスマホを開いていた。
SNSのタイムラインに、初売り情報が流れていた。
カフェの福袋。限定コスメ。コラボグッズ。
メモアプリに書き込んだ。
優先順位をつけた。
地図を確認した。
「よし」
独り言を言った。
グループLINEに送った。
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ひな :え、聞いて聞いて
ひな :初売り行く人いる?
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太秦がすぐ「行く行く」と返した。
さやかが「何を買うの」と返した。
ひなが「全部」と返した。
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みお :……帰省中なので行けません
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ひな :みおいないの寂しい
ひな :早く帰ってきてね
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みお :はい
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みおの「はい」は短かった。
でも、読んでいるのは分かった。
ひなはそれで満足した。
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三が日が終わる前に、央とみおのLINEがもう少し続いた。
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みお :……珈琲、また飲んでみました
みお :今日は、砂糖を少し入れました
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央 :どうでしたか
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みお :……悪くなかったです
みお :少し飲みやすかったです
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央 :慣れてきたんですね
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みお :……そうかもしれません
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少し間があった。
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みお :……学校で、また
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央 :はい。また学校で
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それで終わった。
窓の外に、冬の空があった。
青くて、澄んでいた。
新しい年が、静かに続いていた。
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