第三十六話 11月23日 いいです、が全部
さやかには、毎年やっていることがあった。
誕生日の一週間前に、スマホのメモを開く。
「11月23日に行きたいもの・食べたいもの」というタイトルのリストを更新する。
それが、中学一年生のころから続いていた。
今年のリストには、三つ書いてあった。
①辛めのつけ麺(替え玉あり)
②抹茶系のスイーツ(できればパフェ)
③誰かと食べる
③がいつもいちばん難しかった。
今年は、ちゃんと埋まっていた。
集合は十一時だった。
みおとひなが先に着いていた。
「さやか、おめでとう!」
ひなが走り寄ってきた。
さやかより頭ひとつ以上小さかった。
その分、勢いがある。
「ありがとう」
「何歳になったの」
「十六」
「えー年上じゃん。誕生日おそかったんだっけさやかって」
「十一月だからね。ひなだって三月でしょ」
横にいたみおが少し頷いた。
「……誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう、みお」
さやかが少し笑った。
みおが「おめでとう」と言うのは、声の低さがあって、なんか本格的な感じがした。
悪くなかった。
「どこ行くの、今日」
「リストに書いてた店がある」
「リスト?」
「誕生日に行きたいお店のリスト。毎年作ってるの」
ひなが少し目を丸くした。
「それ、さやからしすぎる」
「管理は大事」
「好き」
みおが「行きましょうか」と言った。
つけ麺の店は、駅から少し歩いた場所にあった。
週末の昼時で、店の前に数人並んでいた。
さやかはリストにそのことも書いていた。
「11時半到着で待ち時間15分以内」という見込みで計算してあった。
ほぼ正確だった。
席について、それぞれ注文した。
さやかは辛めのつけ麺・大盛り・替え玉一枚追加を頼んだ。
ひなは普通のつけ麺・並盛りを頼んだ。
みおはつけ麺と、追加で塩おにぎりを頼んだ。
「みお、食べる量多くない?」
「……歩いたので」
「駅から五分しか歩いてないじゃん」
「……おにぎりはお腹の隙間に入ります」
「隙間理論やばすぎる」
ひながスマホを横持ちにした。
「撮っていい?」
「どうぞ」
「みおも入って。さやかの誕生日ご飯」
みおが少し首を傾けた。
断らなかった。
ひなが角度を調整して撮った。
「いいじゃん。後で送る」
つけ麺が来た。
さやかが一口食べた。
辛さが舌に来た。
美味かった。
「……美味しいですか」
みおが聞いた。
「最高」
「よかったです」
「みおは」
「……はい」
「そのまんまの顔で言うから分かりにくいな」
「……すみません」
「いや、そういう意味じゃないから大丈夫」
さやかが笑った。
みおも少し、口を動かした。
食べ終わってから、近くのカフェに移った。
抹茶系のメニューが充実している店だった。
さやかがリストに入れていた。
ひなが「さすがリスト精度高い」と言った。
さやかが「そういうもの」と返した。
抹茶パフェを頼んだのは三人全員だった。
みおが迷いなく頼んだことに、さやかは少し驚いた。
「みおって和菓子好きだったっけ」
「……好きです。あんこ系全般」
「パフェは?」
「……いけます」
「どっちも好きか」
「……はい」
パフェが来た。
ひなが撮った。
さやかも撮った。
みおは撮らずに食べた。
食べながら、ひなが言った。
「あ、そういえばLINE来てた」
「誰から」
「グループの方。ていうかさやか、ちゃんと確認してなかったの」
さやかがスマホを開いた。
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太秦 :さやかさん誕生日おめでとうございます!!
太秦 :うまいもん食えよ
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央 :誕生日おめでとうございます
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ことね:さやかちゃんおめでとう!!
ことね:今日何食べる?
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さやかは少し止まった。
「勢多くん、ちゃんと送ってくれるじゃん」
ひなが「そう?」と言った。
「なんか意外。もっとこう、忘れてそうじゃない」
「そういう人じゃないよ。ちゃんとしてる」
さやかがそれぞれに返信した。
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さやか:太秦くんありがとう。つけ麺食べた
さやか:勢多くんもありがとう
さやか:ことね先輩、先輩もなんかありましたか?
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すぐに返ってきた。
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ことね:あったあった!
ことね:また今度話すね
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さやかはそれを見て、少し首を傾けた。
「また今度話すね」は、何かある感じだった。
でも今日は聞き返さなかった。
パフェを食べ終わると、会話が少し落ち着いた。
ひなが「そういえば」と言いながらスマホを確認した。
さやかがカフェオレを一口飲んだ。
みおが緑茶を持ったまま、少し外を見ていた。
さやかは少し考えた。
聞くなら今だ、と思った。
「……ねえ、みお」
「……はい」
「央くんのこと、どう?」
ひなが手を止めた。
スマホを置いた。
みおが少し間を置いた。
「……いいです」
さやかは少し前に乗り出した。
「それだけ?」
「……それが全部です」
さやかはみおの顔を見た。
照れていなかった。
困っていなかった。
ただ、本当のことを言っていた。
「なんかもうそれでいいわ」
さやかが言った。
「……勢多くんのことがいい、ってこと? それとも付き合ってる的な話?」
ひなの問いに、みおが少し間を置いた。
「……後者です」
ひなが声を上げた。
「え待って!! いつから?!」
「……文化祭の後です」
「文化祭の後ってもう一か月も前じゃん!?」
「……そうですね」
「なんで言わなかったの!?」
「……特に言うタイミングが」
「そんなの作るもんじゃないの!?」
ひなが机に手をついた。
さやかはそれを横目で見ながら、みおの方を向いた。
「……知っとったし」
みおが少し首を傾けた。
「……さやかは、気づいていましたか」
「文化祭の頃から、なんか顔が違ったもん」
「……そうですか」
「誕生日だから言う? 違うか」
「……さやかが聞いてくれたので」
「なるほど」
さやかが頷いた。
それで、十分だった。
ひながまだ「一か月前!?」と言っていた。
みおが「……ひなちゃん落ち着いてください」と言った。
さやかが「まあいいじゃん」と言った。
外の光が、午後の方向に変わり始めていた。
11月の休日が、静かに続いていた。
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