第百三十七話 6月1日 一足先の、おめでとう
六月一日、月曜日。創立記念日で、学校は休みだった。
初夏の澄んだ空気が、街全体を、心地よく包んでいる。
駅前の広場に、七人が次々と、集まってきた。
「おはよう、皆」
太秦がそう声をかけると、ひながカメラを首から下げたまま、手を振り返した。
「おはよう。今日天気良くて、なにより」
ひながそう言いながら、空を見上げた。
雲一つない、初夏の青空が、七人の頭上に、広がっている。
「葛城さん、おうくん、待った?」
太秦がそう尋ねると、央は首を振った。
「いえ、俺たちも、今、着いたところです」
央がそう答えると、みおも、微笑みながら、頷いた。
「慧くん、ほのかちゃん、お待たせ」
さやかがそう声をかけると、慧とほのかが少し距離を空けて、並んで立っていた。
「お、おはようございます」
ほのかが少し硬い声で、挨拶を返す。
その隣で慧も、いつもより口数少なく、頷いた。
「なんか、二人ともぎこちなくない?」
ひながそう指摘すると、ほのかは耳まで赤くした。
「そ、そんなことないです」
「いや、めちゃくちゃ、そんな感じだけど」
太秦がそう茶々を入れると、慧は口を尖らせた。
「うるさいですよ、太秦先輩」
その様子に、皆が揃って、笑い声を上げた。
「にしても、七人揃うの、久しぶりだね」
さやかがそう言うと、みおが頷いた。
「そうですね。……皆で集まるの、花見以来かもしれません」
「今日は、天気にも恵まれたし。良い一日になりそう」
ひながそう言いながら、早速、カメラを構えた。
「はい、皆、こっち向いてー」
ひなの号令に、七人は自然と、駅前のモニュメントを背に集まった。
シャッター音が、一つ、軽やかに響く。
「うちの部長仕事、ここでも発揮させてもらうから」
ひながそう冗談めかして言うと、太秦が笑いながら頷いた。
「頼りにしてるよ、部長」
七人はまず、近くの公園へと向かった。
昼食の弁当を広げ、ベンチに座って、他愛のない話に花を咲かせる。
「そういえば、部活、どう?」
さやかがそう尋ねると、ひなは少し得意げに答えた。
「順調だよ。後輩たちも、だいぶ頼もしくなってきた」
「部長業、板についてきたじゃん」
太秦がそう茶化すと、ひなは口の端を上げた。
「まあね」
「今度、部活の作品展、あるんだって?」
みおがそう尋ねると、ひなは頷いた。
「うん。……皆にも、見に来てもらえたら嬉しいな」
「絶対、行くよ」
さやかがそう即答すると、ひなは嬉しそうに、目を細めた。
「そういえば勢多くん、みおの誕生日、もうすぐだよね」
さやかがそう切り出すと、央は静かに頷いた。
「はい。……あさって、六月三日です」
「今日はその前祝いってことで、皆でそれぞれプレゼント用意してきたから」
さやかがそう言うと、みおは目を見開いた。
「え、そんな、皆さんまで……」
「当日は、勢多くんと二人でゆっくり過ごしてほしいから、あえて、今日にしたんだよね」
さやかがそう説明すると、みおの頬がじわりと熱を持った。
「そういうことだったんですね……」
みおが感激したように、そう呟いた。
「じゃあ、まずは、うちから」
ひながそう言いながら、小さな包みを差し出した。
「これ、うちが撮った写真、フォトフレームに入れたの。前の花見の時の、皆の集合写真」
みおがそう受け取ると、太秦も、続けて袋を差し出した。
「俺は、これ。ハンドクリーム。……手、よく使うだろうから」
太秦がそう言うと、みおは頬を緩めた。
「ありがとうございます」
みおがそう言いながら、包装を丁寧に開いていく。
「気に入ってもらえたら、嬉しいんだけど」
太秦がそう言うと、みおは蓋を開けて、中の香りをそっと確かめた。
「良い香りです。……大切に使わせてもらいます」
「私は、これ」
さやかがそう言いながら、手作りのクッキーの包みを渡した。
「弟と一緒に、作ったんだ」
さやかがそう付け加えると、みおは目を細めた。
「弟さん、お元気ですか」
みおがそう尋ねると、さやかは頷いた。
「うん。……最近、高校生活にもすっかり慣れてきたみたい」
「それは、良かったです」
みおがそう答えながら、クッキーの包みを、そっと鞄にしまった。
「一枚、味見していい?」
太秦がそう尋ねると、さやかは頷いた。
「どうぞ、どうぞ」
太秦は早速、クッキーを一枚、口に運んだ。
「うまいじゃん、これ」
太秦がそう感想を漏らすと、さやかは得意げに胸を張った。
「弟の分も、ちゃんと味見してもらったから、間違いないよ」
「俺たちは、これ」
慧がそう言いながら、一冊の写真集を差し出した。
「二人で選んだんです。……葛城先輩の好きそうな、風景写真の写真集」
ほのかがそう続けると、みおは丁寧に、その表紙を撫でた。
「二人で、選びに行ったんですか」
みおがそう尋ねると、慧とほのかは揃って、頷いた。
「先週、本屋で、一緒に」
ほのかがそう答えながら、少しはにかみながら、慧の方を見た。
「葛城先輩、写真、好きって聞いてたから。……ひな先輩にも、相談しながら選びました」
慧がそう付け加えると、みおは感心したように、二人を見比べた。
「二人で相談して選んでくれたなんて、なんだか、嬉しいです」
みおがそう言うと、慧とほのかはほんの少し、身を寄せ合うように立ち位置を近づけた。
「ありがとうございます。……大切にします」
昼食後、皆でボール遊びをすることになり、公園の広場に七人は移動した。
慧とほのかは、いつものように隣同士に並んだが、その距離感は以前より、心なしか近い。
「けいくん、ちゃんとボール取ってよね」
ほのかがそう言いながら、軽くボールを投げると、慧は慌ててそれを受け止めた。
「分かってるって」
慧がそう答えながら、少し得意げにボールを回した。
その様子を見ていたひなが、からかうように口を挟んだ。
「二人とも、なんか、前より距離近くない?」
ひながそう指摘すると、ほのかは慌てたように、一歩後ろに下がった。
「そ、そんなこと……」
「隠さなくていいのに」
太秦がそう茶化すと、慧は耳を赤くしながら、視線を逸らした。
「うるさいですって」
その反応に、皆がまた、揃って笑い声を上げた。
からかわれながらも、二人が時折、目を合わせて小さく笑い合う様子に、皆は温かい眼差しを向けていた。
「二人とも、幸せそうで、なによりだよ」
さやかがそう言うと、ほのかは恥ずかしそうに俯いた。
「さやか先輩まで……」
「本当のことだから」
さやかがそう言い返すと、慧も耳を赤くしながら、頭を掻いた。
「じゃあ、最後、うちから」
ひながそう言いながら、もう一つ、封筒を差し出した。
「これは、皆から」
ひながそう言うと、みおは封筒の中を確認して、驚いたように息を呑んだ。
中には、皆からの、寄せ書きが入っていた。
「これ、いつの間に……」
みおがそう呟くと、太秦が得意げに胸を張った。
「ひなちゃんが、こっそりまとめてくれたんだよ」
「部長の権限、活用させてもらった」
ひながそう言うと、皆が揃って小さく笑った。
みおは寄せ書きの一枚一枚を、丁寧に目で追っていった。
「太秦さんの字、相変わらず、癖強いですね」
みおがそう指摘すると、太秦は口を尖らせた。
「うるさいな。読めればいいんだよ」
「私の似顔絵、下手すぎて、ごめんね」
さやかがそう詫びると、みおはくすりと笑った。
「いえ、味があって、好きです」
みおがそう言いながら、最後の一枚まで、丁寧に目を通した。
「皆さんの言葉、一つ一つ、大切に、読ませてもらいます」
みおがそう言うと、ひなが満足そうに、頷いた。
「喜んでもらえて、良かった」
その様子を央は、少し離れた場所から静かに見守っていた。
「せっかくだし、皆で写真撮ろうよ」
ひながそう提案すると、七人は公園のベンチの前に、並んだ。
「はい、みお、真ん中ね」
ひなの指示に、みおは少し気恥ずかしそうに、中央に立った。
「はい、笑ってー」
ひながそう言いながら、シャッターを切る。
七人の笑顔が、初夏の陽射しの下、一枚の写真に収められた。
「後で、皆に送るね」
ひながそう言うと、皆はそれぞれに頷いた。
「今日の写真、後で、うちのアルバムに加えとくから」
ひながそう付け加えると、みおは頬を緩めながら、微笑んだ。
「楽しみにしてます」
夕方、七人は公園を出て、それぞれの帰り道へと分かれ始めた。
みおのスマホの通知音が続けて鳴ったのは、その頃だった。
「あ、ことね先輩と、朔さんから」
みおがそう言いながら、画面を確認した。
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ことね:みおちゃん、誕生日おめでとう! 三日、当日は行けないけど、
気持ちだけでも先に
朔 :おめでとうございます。素敵な一年になりますように
みお :ありがとうございます。また、皆で集まれる日、
楽しみにしてます
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みおがそう報告すると、太秦が興味深そうに、画面を覗き込んだ。
「大学生組も、忘れてなかったんだな」
太秦がそう言うと、みおは頷いた。
「はい。……離れてても、こうして繋がってるの、嬉しいです」
みおがそう言いながら、スマホを、大切そうに胸に抱えた。
「ことね先輩たちも、元気そうで良かった」
ひながそう言うと、皆はそれぞれに頷いた。
「大学生活、忙しいでしょうに、ちゃんと覚えててくれるの、ありがたいです」
みおがそう続けると、太秦が頷いた。
「あの人たち、そういうところ、律儀だよな」
最後まで残っていた央とみおは、駅までの道を二人で歩いていた。
「今日、皆さんから、たくさんもらってしまいました」
みおがそう言うと、央は静かに微笑んだ。
「良かったですね」
「はい。……こんなに、お祝いしてもらえるなんて、思ってもみませんでした」
みおがそう続けると、央は頷いた。
「皆、みおのこと、大切に思ってるので」
「央さんも、ですか」
みおがそう尋ねると、央は少し考えるように、間を置いた。
「もちろんです。……誰よりも」
央がそう答えると、みおの頬がじわりと熱を持った。
「本番は三日ですけど、今日も、十分嬉しいです」
みおがそう言い切ると、央はその言葉を、噛みしめるように頷いた。
「三日、楽しみにしていてください」
央がそう言うと、みおは少し驚いたように、瞬きをした。
「何か、企んでますか」
「秘密です」
央がそう答えると、みおは悪戯っぽく、目を細めた。
「気になります」
「当日の、お楽しみに」
央がそう言うと、みおは小さく笑いながら、頷いた。
夕暮れの空に、初夏の風が、心地よく吹き抜けていく。
道の途中、みおがふと、足を止めた。
「今日、本当に、幸せな一日でした」
みおがそう言うと、央は優しく目を細めた。
「まだ、二日、残ってますけどね」
「はい。……その分も、楽しみです」
みおがそう答えると、央は静かに頷いた。
「三日には、俺も、みおに負けないくらい、良い一日にしたいと思ってます」
央がそう言うと、みおの頬が再び、赤く染まった。
「今から、期待しちゃいます」
みおがそう言うと、央は少し照れくさそうに、頬を掻いた。
電車の時間まで少し余裕があり、二人は駅前のベンチに、並んで腰を下ろした。
「今日、七人で集まれて、良かったですね」
みおがそう言うと、央は頷いた。
「はい。……皆、それぞれ、忙しい中、時間作ってくれたので」
「大切にしたいですね、こういう時間」
みおがそう言うと、央は静かに頷いた。
「これからも、こうして七人で集まる機会、大事にしていきたいです」
央がそう続けると、みおは、深く頷いた。
「はい。……ずっと、続いていってほしいです」
しばらくして、二人は腰を上げて、改札へと向かった。
駅の改札で、二人はいつものように、別れの挨拶を交わした。
「また、明日」
みおがそう言うと、央は小さく手を振った。
「はい。……三日、心待ちにしていてください」
央がそう繰り返すと、みおは嬉しそうに頷いた。
「はい」
みおがそう答えながら、改札を抜けていく央の背中を、しばらく見送っていた。
今日という一日を、これから何度も、思い出すのだろう。
そんな予感を抱きながら、みおも家路についた。
鞄の中の寄せ書きとプレゼントの重みが、いつもより、少しだけ心強く感じられた。
二日後に迫った、特別な一日への期待を胸に、二人はいつもと変わらない歩調で、それぞれの道を歩いていった。
初夏の夕暮れが、駅前の景色を、優しいオレンジ色に染めていた。
ご一読いただきありがとうございます。
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