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『隣の席の彼女は、今日も高すぎる』  作者: さかっち
~三年生~

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第百二十五話 4月6日 三年目の教室


 四月六日、月曜日。

 始業式の日。


 朝、(おう)がリビングに降りると、祖父がいつも通り、新聞を広げていた。


「今日から、三年生か」


「はい。……最上級生になります」


 央がそう答えると、祖父は感慨深げに頷いた。


「早いもんだな。……お前が高校に入ったのが、つい昨日のことのようだ」


「じいちゃんは、毎年そう言ってますよ」


 央がそう言って、苦笑いを浮かべた。


「毎年、本当にそう思うから、仕方ない」


 祖父はそう言いながら、コーヒーを一口飲んだ。


「今年一年、悔いのないように、過ごせよ」


「はい。……頑張ります」


 央はそう答えながら、鞄を肩にかけ、家を出た。


 朝の校門前には、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緊張した面持ちで並んでいた。

 央はその光景を横目に見ながら、昇降口へと向かう。


「新入生、初々しいですね」


 みおがそう言いながら、微笑ましそうに新入生の列を眺めた。


「俺たちも、二年前は、ああだったんでしょうね」


 央がそう答えると、みおは小さく頷いた。


 昇降口では、太秦とさやかが、すでに靴を履き替えて二人を待っていた。


「おはよう。……今日から、また新しい一年だな」


 太秦がそう言うと、さやかも頷いた。


「三年生かあ。……なんか、実感、湧かないよね」


 さやかがそう零すと、みおも同じように頷いた。


「わたしも、まだしっくりきていません」


 四人はそう言葉を交わしながら、体育館へと向かった。


 入学式は、体育館で簡潔に執り行われた。

 校長の式辞、新入生代表の挨拶。

 毎年変わらない光景ではあったが、最上級生として見る式は、これまでとは少し違う感慨があった。


「二年前、わたしたちも、あの席に座ってたんですよね」


 みおがそう言いながら、新入生席を見つめた。


「はい。……あの頃は、まさか、こんな風に、皆と一緒に、三年生を迎えるとは、思っていませんでした」


 央がそう言うと、みおは小さく微笑んだ。


 式が終わると、新入生たちはそれぞれの担任に連れられて、教室へと向かっていく。

 その様子を見送りながら、太秦がふと呟いた。


「あの子たちも、これから、色々あるんだろうな」


「そうですね。……俺たちみたいに」


 央がそう答えると、太秦は頷いた。

 校長の式辞、新入生代表の挨拶。

 毎年変わらない光景ではあったが、最上級生として見る式は、これまでとは少し違う感慨があった。



 式のあと、廊下の掲示板に新しいクラス編成が張り出された。

 三年生の生徒たちが次々と、自分の名前を探しに集まってくる。


「あ、あった。……三年A組」


 央が自分の名前を見つけると、隣で太秦も掲示板を覗き込んでいた。


「おうくん、俺も同じA組だ」


「良かったです。……また、一緒ですね」


 央がそう言うと、太秦は嬉しそうに笑った。


「葛城さん、さやかさんも、A組にいるぞ」


 太秦がそう言うと、みおとさやかが揃って、掲示板の方へ駆け寄ってきた。


「本当だ。……四人とも、同じクラスなんですね」


 みおがそう言うと、さやかも嬉しそうに頷いた。


「これで、今年も一緒か」


 さやかがそう言った、その時だった。


「ちょっと、待って。……うち、もしかして」


 少し遅れて掲示板に近づいてきたひなが、名前を指でなぞりながら、声を震わせた。


「三年A組……御所ひな、うちも、A組?」


 ひなが、信じられないという顔で、皆の方を振り返る。


「本当だ。……ひなも、A組にいる」


 みおがそう言うと、ひなはその場で、思わず両手を挙げた。

 掲示板の前で、しばらく、言葉が出てこない様子だった。


「うそ、やった! 三年目にして、やっとみんなと同じクラス!」


 ひなの声に、周囲の生徒たちが、何事かと振り返る。

 それでもひなは気にせず、皆の手を次々と握った。


「これで、休み時間だけじゃなくて、授業中も一緒ってこと?」


「はい。……ホームルームも、これからは一緒です」


 央がそう言うと、ひなは感極まったように、目を潤ませた。


「一年の時から、ずっと羨ましかったんだよね。四人が同じクラスで、一緒に授業受けてるの」


 ひながそう零すと、さやかがその肩を優しく叩いた。


「ずっと、寂しい思いさせてたよね。ごめんね」


「ううん。……休み時間とか、放課後には、ちゃんと会えてたし。それでもやっぱり、嬉しいものは嬉しい」


 ひながそう言うと、みおも優しくその背中をさすった。


「これからは、毎日一緒だね」


「うん。……本当に、嬉しい」


 ひながそう言いながら、涙ぐむのを堪えるように、鼻をすすった。


 その様子を見ていた太秦が、からかうように笑った。


「ひなちゃん、泣くほどのことか」


「うるさい。……三年間待ったんだから、これくらい良いでしょ」


 ひながそう言い返すと、太秦は両手を挙げて、降参のポーズを取った。



 新しい教室に入ると、五人はそれぞれの席に着いた。

 座席は出席番号順で、まだ誰がどこに座るかは、確定していない。


「席替えは、来週あたりですかね」


 みおがそう言うと、央は頷いた。


「そうかもしれません」


 央はそう答えながら、内心、少しだけ期待している自分に気づいていた。

 もしまた、みおと隣の席になれたら。

 その先の言葉は、口には出さず、そっと胸の内にしまっておいた。


「みんな、久しぶりの新学期の緊張感、感じてる?」


 太秦が、そう言いながら教室を見渡した。


「三年生になったからって、急に変わる感じはしないですけどね」


 央がそう答えると、太秦は頷いた。


「まあ、それもそうか。……昨日までの俺たちと、今日からの俺たちが、そんな急に変わるわけないもんな」


 太秦の言葉に、みおたちも、揃って頷いた。


 担任として教壇に立ったのは、笠置(かさぎ)先生だった。


「三年A組、今年一年、よろしく頼みます」


 笠置先生がそう言うと、教室に、緊張と期待の入り混じった空気が流れた。


「最高学年として、進路のことも、本格的に考えていく一年になります。……気を引き締めて、頑張っていきましょう」


 その言葉に教室の生徒たちは、皆真剣な表情で頷いていた。

 夏には、本格的な進路相談も、控えている。

 まだ実感は薄いものの、確かに大切な一年が始まったのだと、央は感じていた。


「一年生の頃から、ずっと担任してもらってますね」


 みおがそう小声で呟くと、央も頷いた。


「はい。……なんだか、感慨深いです」


 笠置先生は教壇の上で、あらためて教室を見渡した。


「一年の時から、変わらない顔ぶれも多いけど、三年目となると、また違う景色に見えるものですね」


 笠置先生がそう言いながら、生徒たちの顔を、一人一人確かめるように見た。



 一方、二年生の教室では、(けい)とほのかが、新しいクラス名簿を眺めていた。


「俺たち、今年も同じクラスだって」


「良かった。……離れ離れになったら、どうしようかと思った」


 ほのかがそう言うと、慧は安堵したように、息をついた。


「担任、誰になったんだろ」


 ほのかがそう言いながら、教室の前方を見た。

 新しい担任が、教壇に荷物を置いているところだった。


「知らない先生だ。……初めましてだな」


 慧がそう言うと、ほのかも興味深そうに、その様子を見つめた。


「それより、後輩、できるんだよな。俺たちにも」


 慧がそう言うと、ほのかは少し複雑そうな顔をした。


「先輩って呼ばれるの、なんか、まだ実感ないよね」


「俺も。……昨日まで、後輩側だったのに」


 ほのかが頷きながら、少し不安そうに教室の扉の方を見た。


「新入生、どんな子たち来るんだろうね」


「楽しみでもあり、緊張でもあり、って感じだな」


 慧がそう答えると、ほのかも深く頷いた。

 新しい学年への一歩は、期待と不安が入り混じった、独特の高揚感を伴っていた。



 二人が廊下を歩いていると、前方で新入生が、図書委員の掲示物を見上げているのが目に入った。


「あの子たち、図書委員希望するのかな」


 ほのかがそう言うと、慧は少し身構えるように、姿勢を正した。


「もし来たら、俺たちが教える側になるのか」


「……なんか、緊張する」


 ほのかがそう零すと、慧は小さく笑った。


「大丈夫。……宇陀さんもいるし」


「そうだね。……頼りにしよう」


 二人はそう話しながら、放課後、図書室に立ち寄ることにした。

 図書室の入り口には、新学期恒例の貸出案内の掲示物が、新しく貼り替えられていた。


「今日から、また一年、よろしくお願いします」


 慧がそう言うと、カウンターの向こうから、宇陀が穏やかに微笑んだ。


「これからも、頼りにしていますよ、お二人とも」


 宇陀がそう言うと、ほのかは少し誇らしげに頷いた。


「今年は、後輩が入るかもしれないので、しっかり教えられるように頑張ります」


 ほのかがそう言うと、宇陀は感心したように、目を細めた。


「頼もしくなりましたね、お二人とも」


 その一言に、慧とほのかは、揃って照れくさそうに笑った。


「一年前は、俺たちが、教わる側だったのにな」


 慧がそう言いながら、しみじみと図書室を見渡した。


「早いもんだね、本当に」


 ほのかがそう言うと、宇陀も静かに頷いた。


「時間が経つのは、あっという間ですよ。……だからこそ、今この瞬間を、大切にしてくださいね」


 宇陀のその一言には、いつもより少しだけ、重みが感じられた。

 慧とほのかは、顔を見合わせながら、その言葉を静かに受け止めた。


 二人は、新しい学年への一歩を、静かに踏み出していた。



 放課後、央たちは教室に残って、新学期最初の雑談に花を咲かせていた。


「ひな、まだにやにやしてるじゃん」


 さやかがそう言うと、ひなは慌てて、表情を引き締めた。


「にやにやなんて、してない」


「してるよ、めちゃくちゃ」


 太秦がそう茶化すと、ひなは顔を赤くしながら、鞄で太秦を軽く叩いた。


「痛い痛い。……でも、その気持ち、分かるけどな」


 太秦がそう言いながら、頭を掻いた。


「俺も正直、ひなちゃんが同じクラスになって、嬉しい」


 太秦の素直な一言に、ひなは驚いたように、目を丸くした。


「……そういうこと、素直に言うタイプだっけ、太秦くん」


「たまには、な」


 太秦がそう答えると、ひなは照れくさそうに、視線を逸らした。


「うちも、素直に言っとく。……みんなと同じクラスになれて、本当に嬉しい」


 ひながそう言うと、周囲に、あたたかい拍手が自然と起きた。


「今日からまた一年、よろしくお願いします」


 央がそう言って、皆を見渡す。


「よろしく」


 四人が声を揃えて、そう答えた。


 窓の外では、桜の花びらが風に舞っていた。

 三年目の教室には、これまでとは少し違う、けれど確かにあたたかい空気が、満ちていた。



 帰り道、央とみおは二人並んで、いつもの道を歩いていた。


「今日から、また新しい一年ですね」


 みおがそう言うと、央は頷いた。


「はい。……ひなさんも同じクラスになって、なんだか、教室の雰囲気も変わりそうな気がします」


「賑やかになりそうですね」


 みおがそう言うと、央は小さく笑った。


「席替え、来週になったら、どうなるんでしょうね」


 みおが少し何気ない様子で、そう呟いた。


「……そうですね」


 央はそう答えながら、内心の期待を、またそっと押し隠した。


「央さんは、隣の席、誰が良いとかありますか」


 みおがそう尋ねると、央は一瞬、言葉に詰まった。


「……それは、また、その時になったら」


 央がはぐらかすようにそう答えると、みおは少し不満そうに、頬を膨らませた。


「教えてくれないんですね」


「秘密です」


 央がそう言うと、みおはくすりと笑った。


「まあ、それも、楽しみにしておきます」


 二人はそう言葉を交わしながら、桜並木の下を、並んで歩き続けた。


「今日、ひなが泣きそうになってたの、見ました?」


 みおがそう言いながら、思い出し笑いをした。


「はい。……あんなに喜んでくれるとは、正直、想像以上でした」


「三年間、待ち続けたひなの気持ちを考えると、わたしも少し、胸が熱くなりました」


 みおがそう言うと、央も深く頷いた。


「これから一年、五人で、色々な思い出を積み重ねていけたらいいですね」


「はい。……きっと、賑やかな一年になります」


 央がそう答えると、みおは嬉しそうに笑った。


ご一読いただきありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします。

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