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「今回は本当に、ありがとうございます」
あの現場から離れて、元の場所へと戻っていく。
二人は一度車から降りて、短い別れの挨拶を交わした。
互いの指先には、火のついたタバコが一本ずつ。
「いえ、きっと浅尾さんの中でも、もう答えはあった。ただそれを掘り起こしただけです」
「……そう、ですかね。あ、料金は……」
苦笑いで返す浅尾。まだ自信のない表情は残っている。
けれど、煙に巻かれるその姿は、最初に出会った頃とはどこか違って見えた。
迷いの中にあったはずの視線は、今は遠くを見据えている。
「あなた自身の思う、価値で」
旅人は煙を吐き出しながら答えた。
すでに高速代やガソリン代などは出してもらっている。その先——。
この人が背負ってきたものに、金額などつけられるはずがない。
そう分かっていながら、あえて曖昧な言葉で返す自分を、旅人は少しだけ意地悪だと思った。
「空韻さん、らしいですね」
浅尾はそう言って封筒を差し出した。
旅人は受け取る。
だが、浅尾の背負ってきた時間に比べれば、それは驚くほど軽い。
「では、浅尾さん。お元気で」
「はい。空韻さんも」
そうして一度交わった道は、再び分かれる。
互いの背中を見送ることなく、二人はそれぞれの道を進んでいった。
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別れた後、旅人は寄り道をし、車を別の道へと走らせた。
砂利道に揺られながら車を止め、降りる。
並ぶ墓石の間を縫うように進み、やがて一つの前で足を止めた。
「三枝さん、来てたんですね」
「旅人くんも、仕事お疲れ様」
すでに夕暮れ時。
カラスの鳴き声が、けたたましく響く。
その声は、どこかこの世のものではないようで、旅人の胸の奥をざらつかせた。
花とタバコを供え、線香に火をつける。
鼻を刺す匂いに包まれ、静かに手を合わせた。
胸の奥に溜まったままの感情が、言葉にならず、形だけを伴って滲み出す。
答えるのは、叔父ではない。
ただ、カラスの声だけが、空虚に耳を打った。
心の中で問いかける。
返事は、ない。
「上手くはいったようね」
旅人が立ち上がると同時に、三枝が静かに声をかけた。
「……さあ。結局、自分でも分からないですよ。ただ、俺とは別の道を……進んで行ったとは思います」
浅尾の最後の目。
あれはもう、旅人のものではなかった。
誰かに縋る視線でも、答えを求める目でもない。
自分で選び、自分で背負う覚悟を宿した目だった。
——あれが、叔父さんの言う「自分の目」なんですか。
答えは返ってこない。
逃げたことも、向き合ったことも、その両方を抱えた末に立つ場所。
そこに至った人間だけが持つ眼差しなのだと、旅人は痛いほど理解していた。
「その横顔、兼親さんに似てるわね」
「……え?」
唐突な言葉に、思わず息を飲む。
「私が、兼親さんに初めて会った時も、そんな顔してたわ」
叔父が、自分と同じ。
耳を疑うその言葉に、旅人は視線を伏せたまま、黙って聞き入った。
「叔父さんは……何がきっかけで変わったんですか……?」
気づけば、食い気味に問いかけていた。
知らなければ、前に進めない気がした。
「さあ、そこまでは。でも、一度故郷に帰ってからだったかしらね」
故郷。
その響きが、胸の奥を鋭く刺す。
逃げてきたあの場所に、答えがある。
そう告げられたような気がして、旅人は無意識に息を詰めた。
その瞬間、強い風が吹き抜ける。
髪が揺れ、頬を叩くような衝撃が走る。
まるで——
叔父が「自分で考えろ」と一喝したかのように。
「……随分、強い風だったわね。帰りましょうか、旅人くん」
「……はい」
旅人は、三枝の背を追うように歩き出す。
墓石に背を向け、吹き続ける風に押されるようにして。
あの日から、世界は止まったままだ。
けれど、世界は無情にも、確実に動き続ける。
ポケットの中で、スマートフォンが震える。
新たな依頼者からの通知。
次の「物語」の始まりを告げる合図だった。
5話はこれみて終了です
少し重いパートが続きましたが、まだまだこれから




