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透き通ったガラス越しに  作者: 湘南乃炎


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3-6

野球回、これにて終了


 試合終了。

 2-3。サヨナラ犠牲フライで、勝利を収めた。


 劇的とは言えない。

 それでも――終わってなお、熱の冷めきらない球場だった。


「来てたんですね。三枝さん」


 ひと段落ついたところで、旅人は会場の外に出ていた。


「話は聞いてたからね。……逆に、気づいてたの?」


「相談所が休みだったので。もしかしたら、と思って」


 三枝は腕を組み、旅人を見つめる。

 近すぎず、遠すぎない。その距離感が、旅人には心地よかった。


「依頼は、果たせたみたいね」


「ええ。まぁ」


 試合終了後の石塚の顔が、脳裏に浮かぶ。

 長く抱えていたものは晴れ、割れんばかりの笑顔でチームメイトに囲まれていた。


「……でも、あなたには少し辛い時間だったでしょう」


 三枝はそう前置きし、静かに続けた。


「傍から見てたけど、楽しそうで――それでいて、苦しそうだった。

 ――旅人くん。本当は、怪我なんてしてないでしょ?」


 旅人は小さく息を吐いた。

 図星だった。けれど、最初から隠し通すつもりなどなかった。


「流石ですね。ただ、あの場だけ誤魔化せれば……それで良かったんです」


「随分、遠回しなやり方ね」


 三枝は苦笑し、少しだけ視線を逸らす。


「……兼親さんに似てるわ。ただ、あの人よりずっと不器用」


 叔父の名が出た瞬間、旅人は言葉を失った。

 自然な流れで二人は喫煙所へ移動する。


 旅人はタバコをくわえ、火を点けた。

 煙を吐き出すのと同時に、胸の奥に溜まっていたものが零れ落ちる。


「……俺にも……あんな未来が、あったのかな」


 三枝は、ゆっくりと立ち昇り、やがて消えていく煙を見つめてから、旅人へ視線を戻した。


「旅人くんの過去を、私は兼親さんほど知らない」


 一拍置いて、言葉を選ぶように続ける。


「でもね――今日みたいに、少しずつ振り返りながらでいい。

 それでも、前に進んでいけばいいのよ」


 そして、静かに。


「――あなたの世界は、あなたにしか見えないんだから」


 三枝はそれ以上踏み込むことなく、その場を後にした。

 過去に触れるだけで、答えを押しつけない。

 その背中を、旅人はただ見送る。


 あの日。

 背を向けた瞬間から、旅人の世界はガラス越しになった。


 触れているはずなのに、指先の感覚だけが、どこか遠い。

 声は届いても、温度は伝わらない。

 笑っている自分さえ、反射した像のように感じていた。


 割れないと、信じていた。

 割らないように、生きてきた。


 それは、逃げたからだ。


 それでも今日――あの音がした。


 ひびが入る、乾いた音。

 ガラスの内側から、確かに響いた音だった。


 逃げなかったわけじゃない。

 ただ――目を閉じなかっただけだ。


「――咲は、元気にしてるかな……」


 呟きと同時にタバコの煙が、目に染みた。

 

ちなみに私はホークスファンです

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