2-2 現実にパリィなんてない
〇これまでの登場人物(主に二話登場)
・朝尾秀一
この物語において、概ね視点人物である少年。
両親の逝去後、冥加学園理事長である澪河に引き取られる。
聖剣に選ばれたが、異世界に行く気はなし。恋愛に忌避感を抱いている。
『新支配者の饗宴』で狙われているらしい。その身には、世界を意のままに操れる力が埋め込まれているというが……?
・宇宙人
地球の言語では表現不能な名前らしい侵略者。『自由』と呼ぶ未知の物質の使い方を探して、文明を滅ぼして回っている。
・青枝桧希
衒いのない、感じの良い青年。その正体は、休暇中の殺し屋。その狙いは秀一のようだ。
・ボリス
桧希の連れ。シャーマンみたいな服を着た女。モニと呼ぶ存在と話しているようだ。
・澪川冥加
冥加学園の学園長。年齢は不詳だが、若見えする方である。この世界がフィクションなら、確実に悪役だと訝しまれすぎて、最近は言葉遣いを寄せているらしい。
扉が蹴破られる。彼らにとって、船内の設備など、『自由』で簡単に修繕できるものなのだろう。間を置かず、僕が入ってきた巨大な扉の方からも、怪物が姿を現す。
四つ足と二本の触手、五足と四本の触手。どうやら怪物ごとに腕と足の本数は違うらしい。戦いにくいことこの上ないが、苦言を呈する相手もいない。地球の神に祈っても、こいつらを創造してはいないと賽を投げられるかもしれない。こいつらにも物理法則は通じるのだろうか。
「後手必殺————!」
怪物の攻撃をしっかりと見切って、体のひねりだけで回避する。光学センサーの補助がある今、僕の目は二つではない。後方から伸ばされた触腕のムチも、最小限の動きで屈みかわす。
「そこだっ———!」
ほんの一瞬の攻撃の隙をついて、聖剣を振り上げ、宇宙人の巨体を二分する。地上で倒した相手の様子から見るに、心臓部は体の右下辺りだろう。片方の怪物を斬り落としたことで、うろたえたように後ずさったもう一匹を、返す刃で断ち伏せる。未知の脂でまみれた肉を斬り落としても、刃こぼれも切れ味が落ちることもないのは、聖剣の性能ゆえだろう。
「##$$%%%$$%#&%————!!」
耳が張り裂けそうな怒号に身構えると、二分したはずの怪物が、二つの触腕を固めて振り上げている。確かに切断した胴は、じわじわと傷がふさがっていくところだった。どうやら船内は心の強い個体もいるらしい。
「がら空きだッ!」
振り上げた腕が落ちる前に、傷の修復に勤しむ胴体にクロスした斬撃を放つ。一太刀に三撃、とまではいかないが、一撃の飛沫が落ちる前に、怪物の胴に風穴が開く。支えを無くした肉塊は、腕を振り下ろせないまま落下した。
軽く息をついた僕の耳に、さらなる足音が聞こえてくる。猛り狂ったような咆哮と共に、我先にと扉を破壊しながら三体の宇宙人が突撃してくる。どの個体も、体の頂点に巨大な眼球があるのは変わらず、グロテスクな風貌だ。とはいえ、あの眼が僕を見ているような感覚はなく、おそらく、人間には眼球に見えるだけで、別の器官なのだろう。
「二体だろうが三体だろうが、変わるものか!」
これがSF作品なら、三体であることに意味があるかもしれないが、現実では三人寄っても数珠繋ぎだ。蠢動する宇宙人の触腕は、先端が鋭利に硬質化し、剣とも斧とも取れる形状に変化している。もしかすると、後続の怪物は戦闘型なのかもしれない。歪な体の重心を見極めながら、僕は怪物と面する。
「そこッ、速さだけで大振りだなっ!」
巨体が押し合い、幸いにも三方向から攻撃は来ない。受け止めただけで、耐久力の劣る怪物の腕先にひびが入る。動体視力以上に直感で動かなければ反応できない速度の猛攻を、『自由』による身体補助のおかげで楽々弾く。ゲームなんかで言うパリィというやつだ。甲高い音で何発弾いたか分からないものの、正面の宇宙人は体力が果てたのか、ぐったりと溶けるように床に体を落とした。攻めるには絶好の好機だ。アクションゲームでよく見る弱点が露出したチャンスタイムである。
「くら————ぐぁっ!!?」
聖剣を改めて握り直し、無防備な怪物に一撃を浴びせようとしたとき、脱力しているはずの宇宙人の足が鞭のようにしなり、一瞬の隙をついて僕の腹を強かに叩く。空中で姿勢を逸らせず、僕はなすすべなく後方に吹き飛ばされた。
未知の物質でできた船内の壁は、少しだけ柔らかく僕を受け止めかけたが、衝撃に耐えられず亀裂を走らせる。追撃に備えて尻もちをつかないよう、なんとか両足を床につけた。怪物は得意げに態勢を戻すと、不気味な声を発した。
僕は痛む腹を軽く擦ったが、傷にはなっていないようだった。血こそ出ないものの、内臓は、刺激で暴れ出しそうな熱さを放っている。あまり何度も食らっていいものではなさそうだ。
痛みに眩みそうになる頭が、急速に死の近さを教える。アドレナリンが冷めていく。これは現実なのだ。回復薬は傷を塞いでくれないし、死んでもリスタートはできない。パリィで崩れるバランスもないし、回避行動を取ればすべての攻撃をかわせるわけではない。
「——そんなこと、最初から分かっているさ。だから、夢を見るんだ、僕たちは」
この世界は不自由で、不安定だ。ほんの少しの幸せすら、あっという間に崩れるし、平穏な日常だって、侵略者の気分一つで壊されようとしている。
怪物どもは、僕を吹き飛ばして気分がいいのか、ブクブクと体表から泡のような粘液を噴き出している。こんな奴らのために、僕たち人間が征服されていいのだろうか。僕たちが夢を見ることを、『自由』であることを否定されていいのだろうか。
————ダメに決まっている。この世界では、現実にだってパリィはあるし、空を飛び交いながら戦っていいし、リボルバーを連射したっていいのだ。なぜなら、そう、なぜならば。
「人間には、夢を見る権利がある! 貴様らなんぞに、踏みにじられてたまるかっ———!!」
もっと自由でいい。僕たちはもっと、夢を見ていい。このひと時が、どうせ誰も覚えてはいられない、世界の隙間だというのなら、誰の目だって気にする必要はないのだから。
「————来いっ、プリドゥエン!!」
聖剣で空を切り、左手を中空に掲げる。『自由』が手の先に凝集し、白い光と共に盾の形を作る。呼んだその名は聖騎士を守護するものであり、運命の先へと運ぶ物。
「アーサーはここに、聖剣は我が右手に、ならば呼ばれぬ縁も無し。流麗なる浄光よ、この見果てぬ夢を守護せよ————!」
白い大盾はずっしりと重いが取り回しは軽い。新たな装備を創造した僕に、宇宙人は警戒するように動きを止めた。隊列を組みなおし、干渉しないように三方向に分かれている。
水を打ったような静寂は、怪物の跳梁で壊れる。怪物の踏み出した音よりも、攻撃を受け止めた衝撃音の方が早く聞こえた。視覚の判断よりも早く体が動く過集中状態で、時が遅く感じる。怪物は身を翻した。その影から別の個体が触腕を伸ばす。
長い一撃のような連続した三打を盾で左に受け流し、右手から強襲されたさらなる一撃を聖剣で切り撥ねる。開けた視界の正面、後ろに下がっていた怪物が突進の構えを取るように身をかがめているのがわかる。
「もっと、自由に————!」
怪物の腕を斬り飛ばした勢いのまま、聖剣を頭上に投げ上げる。膝を軽く曲げた瞬間、左踵の小さな熱機関の浮力が伝わり、間髪入れずに僕は跳び上がる。空を舞うように僕は宙に浮く。ほんの一瞬の無重力。体は地面と平行になり、さらなる追撃を仕掛けようとしていた宇宙人の眼球のような水晶体の前を遊泳する。わずかに前方の怪物が動く、突進の予備動作を第六感が捉えた。
それはすでに、跳び上がった瞬間に決まっていた動きを、まさに運命的と言わざるを得ないほどに再現し、結末を収束させるだけだのことだった。
体を捻り、左方の怪物の水晶体に右足を叩きつける。足の裏から棘のように飛び出した『自由』が怪物を串刺して、巨大な鎖鎌のように脚と連結した。さらに体を空中で一回転すると、ゴムが弾性を発揮するように、足の先につながった怪物が僕の周りで引きずり回される。ボレーシュートのごとく、振り放った足から飛び出した怪物の巨体は、突進しかけていた個体の目の前で壁に激突した。勢い余った触腕の先端がしなり、動きを一瞬止めた怪物の側面に突き刺さった。
右足から怪物をパージした僕は、スカイダイビングのように体を目いっぱい伸ばす。空中で僕を待っていた聖剣を掴み、右方の宇宙人に向けて、三日月を描く。そして、音が僕に追いついた。
床に足をついた刹那、目の前の怪物の体がずれ落ち、物言わぬ肉塊と化す。壁にめり込んだ宇宙人たちも、奇怪な呻き声と共に肉体が溶け落ちていく。
「一時撤退、って感じだね。もう分かっているかもだけど、これは義体、つまり遠隔で操作している仮の体なんだよ。操作を抜けると、御覧のとおり」
インカム越しに声がくすくすと笑う。言われて気が付いたが、さっき戦った宇宙人の体は、すでに霞のように消えていた。気づけば左手に持っていたはずの盾も無くなっている。どうやら、『自由』で作ったものは、消すことも自在らしい。家の中が、日常生活には必要ない戦闘用具で埋まる心配は、しなくてよさそうだ。
「とりあえず、先に進めるってことか」
「そうだね、管制室はもう少し上の階にあるから、行ってみようか」
上の階、なんていうほど階層構造のある巨大船には、面倒だとため息をつきたくなるが、とにかく進むほかに道はない。格納庫のような部屋を飛び出し、怪物たちがぎりぎり通れそうな、僕にとっては幅の広い船内通路を駆ける。
幸いにも、扉はほとんど開いていたおかげで、難なく四層ほど登ることができた。試しに殴ってみた天井の音は、空に発散されていくように聞こえる。おそらく、この上がハッチだろう。
どうして、階段の位置を船尾か船首で固定しないのだろうか、と疑問に思いながら、今度は船首にあるはずの階段ホールを目指す。だんだんと慣れてきた動作で扉を蹴り飛ばすと、そこにはこれまでの階層とは違い、大きな扉が階段への道を閉ざしていた。向かいの通路への扉から、シンメトリーな船内構造がうかがえるが、できればあちらが進む道だとは思いたくない。
「おい、何だこれは」
近づいて見てみると、濁った水晶体のような球形の装飾と、言語は分からないがおそらくエラー表示が出ている端末があった。試しに触ってみても、何やら表示が更新されるばかりだ。
「それは通行認証だね。この先は実験生物とかが簡単に入れないよう、僕たちの端末が持つ認証キーが必要なんだ」
「おい、そういうことは先に言っておけよ。また戻らないといけないのか?」
「いや、さっき倒したのは下層の端末だから、戻ってもこの場所の認証キーは持ってないかな。多分、この付近に————」
僕は宇宙人の話を聞くのも面倒になって、ため息をつきながら端末に背を向けた。なんでそんな面倒なシステムを導入しようと思ったんだ。これを突破したら、今度は何を求められる? 鷲のメダルか? 蜂の標本か? 現実なら、謎解きとかパズルとかは止めてほしいものだ。
「———誰だっ!」
僕がしかたなくこの階を探索するべく顔を上げた瞬間、かすかな足音が聞こえた。僕が来たのとは反対側の扉からだ。思えば、あちらは元から開いていたが、宇宙人たちが開け放しにするとも思えない。もしかすると、僕はこの場所に誘い込まれたということはないだろうか。
「———っ!」
矢のように鋭く、しかし音もなく何かを投げつけられ、僕はとっさに盾を作り、怪物の触腕の何倍も威力のあるソレを弾いた。『自由』で作られていたのだろう、消えていくその武器は、身の丈の半分ほどはある円錐状の槍に見えたが、まるでクナイのような速度だった。
「おいおい、手ごわい宇宙人かと思ったが、もしかしてお味方さんだったりするかい? 無礼を承知でもう一発っと!」
言い終わらないうちに空を切った飛来物は、当てる気がないのか、僕の少し横を通り過ぎ、壁に丸い穴を空けた。長身の影は、フラフラとした足取りで僕を見ながら近づいてくる。電子的に加工されたふざけ口調の声は、その軽さに反して、スーツ越しの肌が痺れるほどの殺気を放っていた。
僕と同じように顔を隠す仮面をかぶったそいつは、タブレットのように平たくなった顔のパネルに、ころころと違う表情のスタンプを映し変えている。猫背で不安定な挙動でもわかるすらっとした長身は、どこか女性的でもあり、全身スーツの上からでも鍛えられていることが分かる肉体は、細身の俳優みたいな男性にも見えた。
「誰だ、お前は」
「オレサマか? オレサマはぁ……まぁ、名乗ってやるのが世のなすび、ってなもんか! オレサマはイガ。頼まれで殺し屋をやってる風来坊だぜ! おっと、チビ坊主には殺し屋なんて言葉、ちっと怖すぎたかぁ? チビっちまったならごめんな」
「誰がチビ坊主だ。僕は、平均身長よりは背がある方だ。それに、宇宙船に乗り込んだ人間は、殺し屋なんかに今更ビビらん」
近づいてくる足取りですでに察してはいたが、絡み方がウザいタイプだ。どこか調子を崩されそうな軽薄な口調は、一方で、この緊迫しているはずの状況下でペースを崩さないでいる異質さでもあった。どんな時でも自分の調子を貫ける奴を一番警戒するべきだ、と何かの小説で言っていたような、言っていなかったような気がする。少なくとも、まともな人間でないことは確かだ。
それに、この冥加市上空の宇宙船に乗り込んできたということは、十中八九、市内にいたということであり、冥加市に用事のある殺し屋と、僕は無関係と言い切れない。こいつが『新支配者の饗宴』の参加者なのか?
「おいおい、冗談だって、冗談、中段下段……それよりブラザー、あんたの名前はなんていうんだ?」
「僕は……はぁ、僕はアーサー。殺し屋なんかじゃない、ただの一般市民だ」
名前を聞かれ、僕は仕方なく、この人生で言われ続けてきた渾名を身にまとう。『自由』にあてられて、好き勝手していたせいで、本名を言うには少し恥ずかしい格好になってしまっている。いっそ、アーサーなんて大きく出たほうが格好もつくだろう。
どちらにしても、僕を狙って冥加市に来た殺し屋かもしれない以上、味方のように思えても、あまり信用したくはなかった。
「ひゅう! ブラザーも冗談がうまいな。一般市民っていうのは、上空二千メートルへの切符を持ってないものなんだぜ」
「殺し屋だって持っているまい。お前も『自由』を受け取ったんだろう」
「そりゃあ、面白そうなもんには、食いついてなんぼだろうよ! ま、お嬢は寝ちまったし、ナビも死んじまうしで、苦労ばかりだけどな」
イガはそう大げさに肩をすくめると、扉の前の端末に、カードキーのように硬化した怪物の皮膚を差し込んだ。僕がここまで登ってきた扉を開けていたのは、こいつだったのか。
イガの差し込んだ鍵で、エラー表示が消える。自称殺し屋は手慣れた動きで操作盤を押していく。僕がセキュリティの管理者なら、開錠に九マスパズルは採用しないが、星系外ではむしろスタンダードなのかもしれない。
「ナビが死んだとは、どういうことだ? お前に『自由』を渡した宇宙人のことか」
「ああ、その通りだぜ兄弟。よく分かんねえもんを受け取ったと思ったら、説明もそこそこに、オレサマの体を乗っ取ろうとしやがったからな。食われちまったんだよ」
「食われた? 何にだ」
「オレサマの中の、獣にさ」
声をひそめて、インモラルな雰囲気を醸しながら微笑するイガに、そういう冗談なのかと聞き流す。あまりまじめに取り合う方が馬鹿らしい。
「ともかく、目的は同じということでいいのか? この船を制圧して、宇宙人を撃退する」
「そういえば、そんな話だったっけな。オレサマ、宇宙船を探索するのに夢中で忘れちまってたぜ。なにしろ、宇宙人は殺し放題だからな」
「殺し屋がよく言うよ」
「おいおい、ブラザー。オレサマ、確かに頼まれの殺し屋と言ったが、誓って人は殺してないぜ? オレサマが引き渡したヤツらの、末路は知らねぇがな。こう見えて、クリーンで通してるんだ。子供ができても、余裕で抱けるってもんだ」
「誰も殺してないのに、殺し屋を名乗っているのか?」
「おいおい、頭が固いなブラザーは! 万事屋はみんな、一万件の依頼をこなしてるってのか? 殺し屋ってぇのは、ただの俗的な肩書きだ。現実に即して言えば、ま、半殺し屋ってとこか?」
人を殺すことよりも、殺さないことの方がずっと難しいと聞いたことはあるが、とはいえ、そんな甘さが必要なのかは疑問である。まぁ、殺さないというなら、日常ではその方がずっといいのだが、こと宇宙船の中では少し不安ではあった。
ゆっくりと開いていく扉を見上げながら、こいつと共闘して大丈夫かと少し不安になる。さっきの不意打ちを見るに、飛び道具がメインなのだろうか。流れ弾が集中の邪魔になるし、広範囲に攻撃するときに味方がいると面倒だ。彼? 彼女? には悪いが、どこかで別れた方がお互い戦いやすいかもしれない。
「おいおい、お出ましだぜ、兄弟!」
「足は引っ張ってくれるなよ!」
扉が開き切ると、奥のフロアが照明で露わになる。暗闇から現れたのは、待ち構えていた様に、意気軒高と触手を振り回す怪物たちだった。ほんの少し苦戦した先ほどの怪物たちよりも一回り大きい個体や、蛸のように腕の多い小さな怪物などが、ひしめき合いながらこちらを睨んでいる。
僕が聖剣を構えると、イガも氷柱のような円柱形の槍を両手に構えた。双剣ならぬ双槍と言ったところか。フィオナ騎士団もびっくりだろう。形ばかりでないことは、一撃を受けただけで理解しているが、戦術的な意味では予測がつかない。
ひとまずは自分のことに集中するべきか。特に合図もなく、僕たちは同時に飛び出し、二手に分かれた。
宇宙人たちには、思ったよりも種類がいるらしい。単一の種族ではないのか、単にそれぞれに役割があるのか、歴史は知らないが、征服者としての柔軟性はあるということだろう。そういえば、義体がどうとか言っていたし、こちらでいうところの戦車とか戦闘機とか、そういうものに近いのかもしれない。
迎え撃つように飛び出してきた小ぶりな尖兵を、すれ違いざまに切り伏せる。聖剣の刃を押しとどめられるほど、小さな体の外皮は硬くはない。数匹を斬り崩したところで、うねうねと動く触手の沈黙を、軽く振り向いて確認する。再生能力が高い訳でもないらしい。さしずめ、賑やかしの雑魚と言ったところか。とはいえ、体格の小ささは戦場では厄介だ。乱戦に紛れられれば、小さな一撃で致命傷につながりかねない。
不意に落ちた影に空中からの攻撃を察知し、巨大な怪物の強襲を聖剣で受け流す。研ぎ澄まされた第六感は時を一瞬止めたようにすら感じさせる。四撃、硬化した触腕の連続攻撃を弾いて、三本の斬撃を返す。燕返しとはいかないが、この程度の敵には十分だ。
眼前の怪物の体が八つに裂ける。思わず鯉口に指をあて、刀身についた体液を落とそうとしてしまったが、滑らかな宝石のようにマクルワリオンはあらゆる付着物を弾いていた。
「————!」
背後から飛びかかってきた、中型の宇宙人を斬り落とそうとした瞬間、弾丸のような速度で飛来した槍で、怪物が爆散する。数歩前に出ると、背後に体液が飛散した。僕には聖剣と違って撥水性は無い。血の雨なんて浴びるものではないだろう。背部エンジンの熱で、ひとまず背中に少し付着した体液を乾かしておいたが、なんだか後でべとべとしそうだ。
「余計な真似を————」
「一回やってみたかったんだ、兄弟!そっちは任せな!」
「お前、体よく大型を押し付けるな!!」
フィギュアスケートのようにアクロバティックに宙を舞い、僕のいるほうに槍を投げながら飛び込んできたイガの下をくぐり、迷惑なお調子者を狙った一撃を受け止める。巨大な怪物と言えど、その力は上手く流せば地面の力によってダメージは軽くなるものだ。むしろアドレナリンを促進する手のわずかな痺れを感じながら、弾いた腕を斬り落としていく。大型の方が精神も強いのだろうか、絶え間なく再生する腕を刎ね飛ばしながら、少しずつ距離を詰める。克明な足取りは、宇宙人の死へのカウントダウンだ。
剣気を帯びなくても当たる間合いまで近づいた瞬間、怪物の大きな腹が突然に開き、大口を開けて突進してきた。さしずめ、触腕の遠距離攻撃で油断させて、不意打ちをするのがいつものパターンなのだろう。征服者だなんだと自称していた割に、案外つまらない戦法を使うものだ。
掬い上げるように地面を這う下あごを左足で踏み潰し、身を軽く後ろに振って、左脚を軸に回し蹴りで上あごを迎え撃つ。怪物の体を直接蹴ると、豪雪のように脚が埋まっていきそうで忌避していたが、硬化した歯のような器官を足場にすれば、上手く口のような裂け目で怪物を二分にできそうだ。
そんな予想は簡単に外れ、靴底が当たった怪物の歯はガラス細工のように割れ、勢い余った足は、唇なのか腹直筋なのか分からない肉の塊を押しのけながら突き刺さっていく。これが螺旋状のバーを越えていく暇つぶしのゲームなら気持ちよかったのかもしれないが、下水管のヘドロのような汚らしい弾力と光沢を持った脂身では気も滅入る。
「———潰れろ」
目の前で、不意打ちを返されて震える肉の塊と化した宇宙人に、静かに白い大盾を当てる。死体蹴りは趣味じゃないし、降参した相手に追い打ちをかけるのも好きではないが、憂さ晴らしは別の話だ。
寸勁の要領で、プリドゥエンから衝撃を波状に怪物の肉体へ伝える。刹那、振動が揺らした細胞組織はザクロのように爆発し、木っ端のように壁に張り付いた。大きなものを壊すのが楽しいということは、子供から大人まで共通の快楽だ。まぁ、あまり教育には良くないだろうが。
可哀そうに怪物の血肉が張り付いた白盾を、粒子に戻してやる。攻勢が止んで周囲を見渡してみると、さすがの宇宙人たちも少し戦意を喪失しているように見えた。大型の怪物が小さな肉片となって自らの顔に張り付いている状況に困惑しているのだろう。
瞬間、宇宙人たちの奇声が重なり合って反響する。音波兵器かのように肌を震わせる合唱は、怪物たちの体を赤く染め上げ、中型に見えた体も膨らんでいくようだ。プロダンスチームのように、示し合わせるでもなく同じ動きで態勢をかがめた怪物たちは、獣のような咆哮を上げながら飛びかかる。僕が千手観音でも数えきれないかもしれない。
「まったく、血が上れば隙だらけになるというのは、人間も宇宙人も同じか」
怪物たちの奇声が鼓膜から遠のく。それは、僕が遠ざかっていくわけでも、宇宙人が遠ざかっていくわけでもない。音とは波である。およそ秒速340メートルと言われる音の速さだが、明鏡止水の感覚の中では、一つ一つの振幅が粒立って聞こえる。連続した絶叫も、モスキート音のように細く、まだ遠くにいるように聞こえるのだ。
僕は聖剣に手をかける。体に染みついた動きのように、第六感は体を動かす。いつか夢見た勇者のように、そこに定められた一撃は、必中必殺の軌跡を描く。
「エクs——マクルワリオーンッ————!!」
エクスカリバーと言いかけて、ぴくりと鼓動した聖剣の柄に思わず、彼の名に呼び変える。局部に血液が集まるように、マクルワリオンは刃を膨張させ、熱を帯びた光を炸裂させる。剣戟というよりは光線に近いエネルギーが、剣の軌跡を一掃し、わずかな焦げ臭さと共に宇宙人たちを一筋の煙に変えた。
つくづく底の知れない聖剣だ、と感心する以上に、マクルワリオンという名前はやっぱり叫びづらいよ、と言いたくなる。オン~! なんて言うのは締まらないじゃないか。なんていうと、巨大ロボに叱られるだろうか。
うっかり直接伝えてしまわないよう、聖剣を鞘にしまうと、同じく宇宙人を倒したところなのだろう、イガが軽い足取りで近づいてきた。
「ド派手にやるじゃねえか、兄弟! ちょっと陰気な雰囲気だと思ってたが、そんな奴が実はカッコいいってのが、今のトレンドなのか? そのマクルワリオンって剣も、惚れ惚れするほどクールだし、まったく、ブラザーには驚かされるぜ」
「勝手に驚いていろ。お前こそ、軽口を叩けるくらい余裕とは、口ほどにはやるみたいじゃないか」
「おいおい、オレサマの口はロバの口だぜ? いつも真実しか言っちゃあいねぇよ。兄弟と戦えて光栄だって言うのも真実だ。そうだ、せっかくだし、拳でも突き合せようぜ」
「結構だ、遊びに来たんじゃない」
シャドーボクシングでもするように、両こぶしを胸の前でゆらゆらと揺らすイガに、僕は背を向けて歩き出す。別に悪いやつではないのかもしれないが、あまり気を合わせてやるのも癪だ。こんな奴と友情ごっこするほど、僕は関係性に飢えていない。どうせ忘れる時間なのだ。仲良くする必要なんてない。
「にしても、そろそろデカい怪物を倒して、ザ・エンドと行きたいところだよなぁ、兄弟。先遣隊っていうには、この船はデカすぎると思わねえか?」
器用に二本の槍の上で逆立ちし、竹馬のようにしながら、階段の手すりをイガは歩く。曲芸師か、というツッコミも今は面倒だ。カツカツと響く音は、むしろヒールを履いたプリンセスだろうか。
「船が広いという意見には同意する。ともかく、この先が管制室なんだろ? これ以上先もあるまい」
未知の物質でできた床に足音を鳴らしながら、ようやくたどり着いた踊り場は、管制室に行くための場所のようで、先ほどよりも大きい、凱旋門のような扉がそびえていた。
「それじゃあ、ボス戦と行きますか」
「これは非現実のようだが、ゲームじゃないんだ。あんまり気の抜けたことを言うな」
セキュリティは階下のゲートに依存しているのか、管制室の扉は僕たちが近づいただけで開いた。管制室に着いたものの、どうすればいいのかと問おうとしたとき、インカムの向こうから応答がないことに気が付く。確証があるわけではないが、確信はある。そんな曖昧な直感で、ここまでナビをしてきた奴が消えたことを悟る。
まるで悪意を持った誰かの演出のように、真っ暗な管制室に明かりがつく。管制室だけで東京ドームの半分くらいはありそうだ。義体と呼ばれていた怪物たちが、部屋の隅の卵状のナニカに透けて見える。
中でも目を引くのは、壁に背を付けて張り付いた人型の怪物だ。宇宙人たちと同じ細胞でできているように見えるが、人間のカタチをしている。いささか頭はデカいが、人間より腕の数本多い体で、うまくバランスを取っているのだろうか。
「やぁ、よくここまで来てくれたね。久しぶりに直接調査ができて、とてもうれしいよ。ありがとう」
人型の怪物は、インカムで聞こえていた声と同じ口調で、手を振りながら話しかけてきた。人を模倣しているつもりなのだろうが、顔も体も爛れるような赤黒い凝りが突き出し、吐き気を催す醜悪な見た目だ。
「君たち、仮称『人間』のデータはひとまずインプットしてみたけれど、義体の形状の違いが、『自由』を君たちみたいに上手く使える決定的差ではないみたいだね」
人型の怪物は、自らの手のひらを、確かめるようにひっくり返しては真剣に見つめる。ロボットのように叶夢を動かしていた宇宙人が、今は指の一本をも制御している。
「個体『イガ』は興味深いね。僕たちも、思考の電子保存はしていても、並列制御は上手くできないんだ。もちろん、君にも興味はあるよ、『アーサー』。僕らにも解析できない意識の拡張領域。第五次元でもないどこかと繋がったその体、ぜひとも分析したい!!」
僕を個体『アーサー』などと呼ぶなら、お前は個体『ヒトガタ』だ。つくづくこちらを下に見る言い方に、討伐のやる気も高まってくる。ギルドの要請がなくても狩り尽くしてやりたいところだ。
怪物の体から、汗のように粘ついたヘドロが垂れ落ちた。低い唸り声をあげて、卵のような繭が溶け落ち、先ほどよりもさらに多い怪物たちが姿を現す。地面を傷つけながら触腕を振るう様子を見るに、こいつらはきっと本体なのだろう。これまでよりも動きに隙が無い。
「おい、イガ。あいつが何を言っていたか分かったか?」
「さてな。愛の告白だとしたらお断りだぜ。なにしろ、オレサマには相棒がいるからな」
「まさか、僕のことじゃないよな」
ヒトガタが天井から床に降り立ち、ティラノサウルスのような前傾姿勢で僕たちを見据えた。怪物が中空に手を掲げると、青い光が黒い金属質の塊を形作り、巨大な体に見劣りしない大剣が現れた。重さを確かめる一振りで、涼やかな風が僕の頬を撫でる。
「ともかく、これで終わりだというなら話が早い。あいにく僕は、まだ散歩の途中なんだ」
「そりゃあいい! 準備運動にも、飽きてきたところだぜっ!」
僕が走り出すと、イガは示し合わせるでもなく、僕に向かってきた怪物たちを狙撃した。小学生一人くらいの大きさの槍は、那須与一も驚きの精度で、宇宙人たちをミンチに変える。僕は意識を左右に分散させることもなく、ヒトガタに向けて駆けた。少し癪ではあるが、周囲の敵はイガに任せて問題ないと確信できる。ほんの数分前の出会いだというのに、そんな信頼を覚えていた。
「見せてもらおうか、君たちの『自由』ってヤツを!」
ヒトガタは大剣を振るい、顔の中心を食虫植物のように裂けさせて吠える。ニキビみたいな顔の凹凸から、酸性の汁が飛び散って床を焦がした。
獰猛な獣のように振り下ろされた大剣を、横に跳んでかわし、懐に潜り込む。これはゲームじゃない。いつだって一撃は致命傷で、それは相手にとっても同じだ。がら空きの左腿を下から斬りつける。
「くっ————!」
これまでの敵よりは格段に硬い皮膚が、聖剣を受け止める。電柱を殴ったかのような振動が指を伝った。しかし、まだ勢いは止まり切っていない。改めて全身の力を集中させ、微動する聖剣を思い切り振り切ると、怪物の硬化した腿が、まだ柔らかい部分の細胞と神経から引きちぎられていく。
体勢を崩すヒトガタから後方に距離を取ると、僕を掴もうとした左手が空を切る。ヒトガタが受け身を取って、起き上がったときには、左脚は再生していた。破れない装甲ではないとはいえ、繰り返すには僕の体力が保てないかもしれない。
「期待以上の成果を得られると、こんなに嬉しいものなんだね。ありがとう、アーサー」
「それが、お前の遺言か?」
ヒトガタは壁を蹴り、僕に突っ込んでくる。体格負けした相手との戦いにおいて、真っ向からの競り合いはどうしても不利だ。特に、こんな規格外の相手の一撃など、避けるほうが賢明だが、自分で売った喧嘩を買わないのも仕方がない。
巨剣の一撃を正面から受け止め、鍔迫り合いになる。重力が何倍にもなったように、剣にかかる圧力は僕を押しつぶそうとする。だが、剣技というのは力を言うのではない。
重圧を後ろに流し、僕は体を前に出す。人型の動きに不慣れな宇宙人は前のめりに体を崩した。とっさに反撃しようと、ヒトガタの手が剣を離す。その指が広がり切る前に、巨木のような両手首を斬り落とす。剣道なら小手で一本、いや二本もらいたいところだ。
本体と分断された手首が床に落ちるより早く、僕は跳び上がり体を捻った勢いを、曲げた右足に集中させる。巨大な相手には、巨大な攻撃だ。『自由』の光が、右足を包み、削岩機のような白く大きな脚を形作る。衝撃から目を逸らすようにした怪物の横顔を、空中で蹴り飛ばす。今度こそ宇宙人の体は吹き飛び、薄いモニターの置かれた壁面に吸い込まれるように激突した。
「—————っ!?」
その瞬間、背後から強烈な殺気を感じる。僕に向かってくる飛来物、流れ弾————いや、全くムカつくほどに気の利く相棒だ。
僕はとっさに背部エンジンを急速起動し、空中で体勢を整えた。水泳の蹴り出しのように、横向きにかがめた体に、背後から未確認物体が接近する。後は呼吸を合わせるだけだ。さらに続けざまに放たれた弾丸のような予感に、僕は確信する。
僕が何もない空中で足を蹴り出した瞬間、押し上げるように平たい感触が重心を貫き、全身を安定させた。鋭いはずの先端は、ご丁寧に円柱状に再成形され、僕は空中を走るように飛び進む。まるでロケットのように、使い捨ての足場を踏み捨てながら、吹き飛ばした怪物へと距離を詰める。
「マクルワリオンッ!!」
聖剣を掲げ、わずかな粉塵の先で倒れこむ怪物を見下ろす。壁に手をつき、立ち上がろうとするときには、すでに聖剣は振り下ろされていた。光の帯がヒトガタを包み、高温の蒸気が爆発する。
「やったか……?」
機械基盤の漏電する発火音に、僕が距離を取ると、轟音と共に黒い煙が上がる。思わず額の汗を拭ったが、仮面の上からは拭き取れない。
「はは、あははははは!」
煙の中から聞こえてきた高笑いに、僕は聖剣を構える。あれだけやってまだ生きているというのか、全くしぶとい生物だ。
「認めたくないものだね。僕自身の征服者故の過ちというものをさ」
ゆっくりとした足取りで、僕と変わらないくらいの背丈のソレは姿を現す。一見すれば普通の人間のような見た目が、かえって奇妙だ。マジックのように、合わせた両手から、一振りの剣が現れた。それはマクルワリオンを模倣したように金色の光を放っている。
「君たちなんて、所詮は宇宙にもまともに上がれない下等生物だと思っていたけれど、そうか。この体、この比率、この大きさにこそ意味があるんだ。義体よりもはるかに軽い!」
一瞬消えたように見えるヒトガタの突進を、なんとか受け止める。体は小さくなったはずなのに、力は先ほどよりも強く感じる。力の使い方を理解したとでも言うのか。
鏡合わせのように、相手の猛攻を反対から受け止め、弾き返し続ける。一瞬の隙に攻勢に出ようとしても、反応速度も良く、あしらわれてしまう。
「見える、見えるよ! 僕にもキミの動きが!!」
得意そうに笑うヒトガタの表情に、思わず一瞬だけ人間だと錯覚し、張り詰めていた緊張が揺らぐ。刹那の隙をついて駆け出したヒトガタは、僕の脇をすり抜け、後方へと消えた。遅れて振り向いたそこには、周囲を取り巻いていた宇宙人を倒し、管制室の真ん中でぼんやりとたたずむイガの姿があった。なんで僕が戦っているときに、そんなぼんやりしていられるんだ!
「イガッ、危ない————!!」
「————まずは、一人!!!」
ヒトガタは剣を構え、イガに突き出す。ぼんやりと足元を眺めていたイガは、待ち合わせ相手が来たかのような気軽さで、強襲者を見た。
それは、まさに刹那と呼ぶべき短い時間にすべてを終えた。
最初に理解したのは、赤い輪郭の空洞だ。遅れて、鋭い打撃音が二発。ヒトガタの手から離れた剣が床に落ち、甲高い音を立てた後、人型の宇宙人は床に崩れ落ちた。水風船が割れるような音で、ヒトガタの胸部から抜き取られた臓器を握り潰すと、一言も発さないまま、イガは倒れた宇宙人の頭を踏み潰した。まるで中間の動作が存在していないかのように無駄のない、洗練された動きだ。
「……Phase1」
イガが静かに呟き、顔のモニターを手でスクロールするように動かした直後、管制室のモニターが発光する。おそらく、この船の宇宙人がすべて死んだことで、目標を達成したのだろう。あまりにあっけない最後に、僕は安堵とも落胆ともつかないため息をついた。
「おい、お嬢! めんどくさいから寝るって言ったのは、お嬢じゃねえか! 良いとこ取りなんて、そりゃあ無ぇぜ!!」
イガがようやく、見慣れた調子で天を仰ぎ、両手を広げた。お嬢、というのは前にも聞いた気がするが、多重人格か何かなのか? 騒々しい声と動きに、少し安心してしまうくらいには、イガのおかしさにも慣れてしまった。
「イガ、平気か?」
「見ての通り、傷一つないぜ。だがなぁ……ったく、せっかくの兄弟との楽しい時間に、水を差されちまった気分だ」
「まぁ、無事ならなんでもいいさ。とにかく、宇宙人はこれで倒せたってことだろう?」
僕が拳を突き出すと、イガはにっこりと笑顔のマークを画面に映し、拳を突き合わせた。こんな奇人とであっても、友情というものは芽生えてしまうらしい。消えてしまうというのが惜しいくらいだ。
安心して肩の力を抜こうとした僕は、足元に落ちた光に、天井を見上げた。それは光というには暗く、何かの影が落ちているのだと気づいたときには、僕はうんざりとした感情で、結局肩の力をすっかりと抜いた。頭上から目を背けようとする僕と反対に、イガは楽し気な声色だ。
「おいおい、兄弟。どうやら散歩に戻るのは、まだまだ先になりそうだぜ?」
仕方なく見上げたそこには、僕たちが制圧した船がボトルシップに思えてくるような、巨大戦艦の舳先が伸びていた。その全容は、雲に隠れて見えない。どうやら、僕たちの戦いはまだまだこれかららしい。
管制室の天井が開ききると、僕たちを待ち望むように静寂が空を満たした————。
次回2-3『知らない人アベンジャーズ』
巨大船を制圧した矢先、秀一たちの上に現れたのは、未だ全容の掴めない宇宙人たちの母艦であった。
集結する知らない殺し屋たちと協力関係を結んだ秀一は、さらに高い空へ進む————。
「………うぅ、ホントにバカばっかりじゃない————!」




