1-5 夢、自由、エクスカリバー
〇これまでの登場人物(今話未登場含む)
・朝尾秀一
この物語において、概ね視点人物である少年。
両親の逝去後、冥加学園理事長である澪河に引き取られる。
聖剣に選ばれたが、異世界に行く気はなし。恋愛に忌避感を抱いている。
『新支配者の饗宴』で狙われているらしい。その身には、世界を意のままに操れる力が埋め込まれているというが……?
・遥原叶夢
秀一の隣家に住む少女。彼の幼馴染として、幼い頃から毎朝起こしにやってくる他、両親のいない秀一にお弁当を作り、夕食を共にしている。
・エトソン・プルルライナ
異世界から来た少女。聖剣を秀一に託し、現在は流されるまま冥加学園に編入し学生生活を謳歌している。『透明化』の魔法を使うことができるが、使用時に右目が赤く染まる。地形や建物のマップ把握や、相手の強さを解析したりできるらしい。
・九沙吹藍良
冥加学園の『孤高のマドンナ』。高い身長と無口で冷たい瞳は、軟弱な生徒を寄せ付けない。剣道部に所属しており、竹刀を携帯している。大体いつも第二図書室にいる。
・上吉小梅
入学式後に助けられたことで、秀一を慕う一年生の少女。少し不気味なくらい執着してくる。
・千家梢
校内奉仕部に所属するクラスメイト。なんとなく和を思い出させる落ち着いた見た目の少女。
・和泉劫雲
校内奉仕部の三年生。血気盛んな男子生徒。
・津川鳩冬
生徒会執行部の一年生。臆病で保守的な少年。
・紅那須偲歩
ミス研会長。ホラー好きで、中でも七不思議を愛する眼鏡少女。
・雁野康介
ミス研所属の少年。これといって特徴のない、秀一の友人。
・葛御丘妙栄
冥加学園の生徒会長の少女。含みのある細目は、知慮に富んでいる。
・百合原恵夢
クラスメイトの少年。百合好きの明るいお調子者。なんだかんだ生徒会執行部の一人。
・青枝桧希
衒いのない、感じの良い青年。
・ボリス
桧希の連れ。シャーマンみたいな服を着た女。モニと呼ぶ存在と話しているようだ。
・ダイアンサス
中央教会の守護者。炎を出しているように見えたが……?
・アマリリス
中央教会の司祭。日本語英語イタリア語を操る少女。杖を回して何かの力を行使していたが……?
・朝尾理亜
現在、冥加学園初等科に通っている、秀一の妹。特進組として、海外学習プログラムに参加しており、家を空けている。
・澪川冥加
冥加学園の学園長。年齢は不詳だが、若見えする方である。この世界がフィクションなら、確実に悪役だと訝しまれすぎて、最近は言葉遣いを寄せているらしい。
・相田春子
朝尾家のハウスキーパー。6:00~17:00くらいが勤務時間
・フラテルニテ
自称、秀一の「第六感」。叶夢には見えていないらしい……。
・影勇王アーサー
エトソンの世界で魔王に寝返り、世界の半分を受け取ったという、マクルワリオンの前任者。
自分が殺し屋に狙われていると聞けば、誰だって白昼の道ですら挙動不審になるだろう。そんな不安も、変わりない日々が二日も続けば、なんだか馬鹿らしくなって、平常を取り戻す。
自分を守ってくれているという守護者とやらが誰なのかとか、学園の裏の顔に通じているかもしれない異世界だとか、そんな非日常的な悩みの種は、日々のほんの少しの忙しなさに流されていく。
朝の教室は、一日の始まりの爽やかさと憂鬱さで満ちている。元気に友人たちと話せるのは、まだ学生の元気が有り余っているおかげなのかもしれない。
「いやあ、それにしても助かったぜ、秀一。もうマジで終わりだと思ったもんな」
「命に別状がないようでよかったよ。葛御丘は何か言っていたか?」
大事を取ってか、しばらく休んでいたらしい百合原もすっかり回復し、わずかに乱れていた学園生活のノイズも調律が合い始める。むしろ、元気すぎる彼の様子は、また無茶に突っ込んでいかないかと不安になるくらいだ。
「いや、特にはないな。あの後、お前の強さを見て、みんな自主練してるところなんだよ。ほらこれ、パルクールって、めっちゃかっこいいよな」
自主練とパルクールに何の関係があるのかは分からないが、SNSに投稿された、街を縦横無尽に動くパルクールの動画を見て、百合原は楽しそうだ。もっと根本的に体を鍛えたほうがいいと思うが、という助言は、病み上がりに指摘するには早いだろう。
「朝尾くん、お話し中にごめんなさい。今、少し時間あるかな」
「朝礼までなら構わないが、何か用か?」
とりとめのない朝の談笑に入ってきたのは、淑やかな和の雰囲気を漂わせる千家だ。臆病そうな雰囲気に反して、その表情は凛としている。
「あっ、千家さんも見る? このパルクールの動きとかさ、校内でもイケそうじゃね?」
「私は、いいかな。
それより、朝尾くん。『あの世界』のことなんだけど、会長がね、あなたに戦い方を教えてもらうのはどうかって。私たち、元運動部の人もいるけど、実践的なことはまるで素人だし、状況判断も、分かる人に教えてもらえたら、少しは動きやすくなるかもしれないでしょう?」
「悪いが、僕だって武術の心得はないよ。何かの指導者になれるほど、知識があるわけじゃない。そもそも、あんな世界に、現実の紋切り型が通用するとも思えないしな」
僕の言葉に、千家は表情を曇らせることもなく、静かに言葉を紡いだ。
「それはそうなんだけど、やっぱり、あなたがいたほうがみんなのモチベーションも上がると思うの。
それで、ゴールデンウィーク明け、と言っても五月の終わりくらいだけど、みんなで集まりたいの。長く感じられるかもしれないけど、現実ではほんの二時間の間だから、良かったら朝尾くんにも来てほしいなって」
特に予定があるわけではない。が、エトソンは良い顔をしないだろう。彼女の懐柔のために、ゴールデンウィークにどこか出かけたりするのも面倒だ。とはいえ、真正面から頼まれたことを、はねつけるのも印象が悪いだろうか。
「秀一、俺からも頼むよ。ほら、俺なんて、お前のかっこいいところ、のびてたせいでまったく見てないんだからな」
「僕は見世物じゃない。だがまぁ、考えておくよ。日程がまとまったら、また教えてくれ」
「うん、ありがとう」
千家は、期待しているとも信用していないとも取れない、穏やかな表情で頷いた。生け花を思わせる可憐だが芯のあるその背が席に向かう途中で、朝礼のチャイムが鳴った。なんだかんだ席は遠い百合原が「じゃな」と去っていく。
「アーサー、もしかして、『あの場所』に行くのですか?」
「ああ、来月の終わりくらいになりそうだ」
僕が伝えると、エトソンは一時間目の教科書を出しながら、軽く笑みを見せた。てっきり、嫌な顔で不満を垂れると思っていたが、意外な反応である。
「どうかしたか?」
教科書に落書きでもしていたのかと思い、端正な横顔にそう投げかけると、何気ない表情でエトソンは改めて微笑んだ。
「いえ、なんでもありません。ただ、予定が埋まるというのが、少し嬉しくなったのです。来月もまた、勇者様と一緒にいられるのだと、あらためて実感いたしました」
面と向かって言われるには気恥ずかしい言葉に、僕は目を逸らす。確かに、エトソンと出会ったのは、ほんの半月ほど前なのだ。いつの間にか、中間テストは大丈夫だろうかとか、夏休みはどうしようとか、そんな先のことを当たり前に考えていたが、彼女にとって、この日々はまだ日常ではないのだ。
「当たり前だ。明日も明後日も、今日と変わらずやってくるさ。まぁ、エトソンがテストで赤点を取らなければ、の話だがな」
エトソンは、担任の目をかいくぐるように、そっと片手で涙をふくようなジェスチャーをして、優しく笑った。僕も思わず小さく笑う。
朝の日差しは、暖かく窓から差し込んでいる。僕は椅子に背を預けて、鳥の声がのどかに聞こえてくる窓外の景色を、今日も変わらないなと眺めるのだった。
**********
この頃、昼休みは第二図書室に行くことがマイブームだ。決して、九沙吹さんとまた会えるかもしれないと思っているからでも、エトソンが僕を置いて叶夢の教室に行ってしまうからでもない。本を読む時間のあの静寂が好きだから、僕は第二図書室に行くのだ。
静かに図書室に入り、借りるでもなく毎日少しずつ読み進めている本を手に取る。部屋の真ん中に鎮座した長テーブルの方を伺い見たが、誰もいなかった。
安堵と残念の混ざった吐息をついて、僕は腰を落ち着ける。他に人のいない静謐とした空気が、僕の意識をゆっくりと物語の世界に引き込んでいく。
剣呑とした世界観でも恋愛がストーリーの軸となるのは、結局のところ、生殖による繁栄への貢献を到達点とする生命の構造を美化したいからなのだろうか。この生命に与えられた最も原初的な意味が生殖だとするなら、僕は異常個体なのだろう。
そうだ。僕は恋愛が嫌いなのだ。
色目だとか、媚だとか、そういう駆け引きにも反吐が出るし、誰かの気を引くために身をやつす人を見下している。それは僕の価値観にとって、そして僕自身の尊厳にとって譲れない一線であり、惚れた相手だとしても、すり寄るなんて言うのは恥だ。僕自身を曲げないといけないなら、それは運命ではない。どんなに甘く見えたとしても、僕は必死に手を伸ばすなんてごめんだ。好きでもない相手と付き合いたくはないが、恋愛のために苦労したくもない。だから、結局恋愛なんてものに関わる理由はない。そんな青春なんて、幸福を勘違いした誰かの戯言だ。
「————あなたは、本が好きなの?」
張り詰めた静寂に、優しく風が吹くように栗毛色の髪が垂れる。無防備な僕の肩に乗ったその重みは、蛇に睨まれたような緊張感を走らせると同時に、全身を支配されるような奇妙な背徳感で僕を凍り付かせた。
「それとも、ただの物好き?」
吐息は僕にかかることなく、本の少し上を流れて消えていく。ただ、軽く顔を動かせば視界を埋め尽くすほどすぐ近く、僕の後ろに九沙吹さんがいることは、固まったままでも明らかなことだった。
「本が、好きなんだ。それと、この部屋の静寂も」
「そう」
興味があるのかないのか分からない、そっけない返事を残して、長い栗毛は引き上げられていく。確かな足音と気配が、書架の方へ去っていく。僕は肩の力が抜けていくのを感じた。
足音の方を振り向くと、本棚に手を伸ばしたまま、九沙吹さんがこちらを見返した。何かを考えこむように、本の背表紙を指でなぞって、斜めになった本を棚に戻す。ストロボのように瞬きに合わせてゆったりとした動きで、九沙吹さんは僕に背を向けて去っていった。その背に声をかけることもできず、僕は扉が閉まる音に肩を落とした。
何だったんだろう、と気もそぞろで本に目を戻すと、ほんのりと肩のあたりから甘い石鹸のような匂いの錯覚に包まれる。その落ち着く香りは、本の冷たい匂いの中で染みのように浮いていたが、僕は暖かな幸福感を覚えるのだった。
昼休みが終わっても、まだ僕の頭の中は、薄いバラ色でいっぱいだった。なんとなく、誰かが僕に嫉妬してるんじゃないかとか、九沙吹さんは僕のことをどう思っているんだろうとか、そんなことをぐるぐると考えながら、教室へと戻る。
教室のドアに手をかけた時、その少し冷たい感触で我に返る。
独りよがりな妄想はやめよう。それこそ、僕が一番嫌っているはずのことじゃないか。
————両親がいないから。片目が義眼だから。額に傷があるから。特進組だから。
様々な理由を付けて、誰もが僕を持ち上げようとする。でも、現実ではそんなこと、ただの事実でしかない。悲劇は運命の始まりじゃないし、努力は成功を保証しない。僕が僕の才能を使ってできることなんて、この日常の平穏を維持することくらいだ。この身以上の運命なんて、望んではいけない。不幸はいつだって、油断して伸ばした手を掴んでくるのだから。
九沙吹さんを気にかけてしまうのは、きっと、彼女が僕と同じように偏見に晒されているからだ。孤高のマドンナ、と生徒たちは噂する。けれど、実際のところは、噂ばかりで誰も彼女に近づこうとしないだけに見えたのだ。その容姿の美しさは誰もが認めているのかもしれないが、一方で、彼女への僻みから孤高なんて取り繕った言葉を添えるのだろう。
別に、九沙吹さんを救いたいなんて気持ちは、僕にはない。あまりにもおこがましい、自分勝手なことだ。僕が、百合原や葛御丘を少し疎むように、それが善意だとしても、それが多くの人のためになるとしても、相手に迷惑になることはある。彼女に笑ってほしいと思うのも、皆何かしらの傷ついた過去を持つこの学園では、無遠慮な気持ちだ。
「はぁ…………」
思わず漏れたため息は、落書きの上に乗った消しかすを転がす。考え始めれば堂々巡りだ。結局、僕は何がしたいのだろう。才能を育てることにかけては比肩する場所のないこの学校で、特進組として来年には最終学年を迎えるというのに、僕は逃げているだけだ。
世界を救うヒーローになってみたい。魔王を倒す勇者になってみたい。結局、そんな夢は、成果だけを求める甘い考えだと気が付いた。休日に呼び出されて怪人と戦いたくはないし、現実世界でレベル上げなんてしたくない。ただ僕は、大きな声で技名を叫んで相手を倒してみたかっただけなのだ。
刺激的な恋がしてみたい。暗い洋館を探索してみたい。そんなスリルも波瀾万丈も、堅実さが利を得る社会では、ただの夢に過ぎない。夢に見るだけでも、前が見えていないと馬鹿にされる始末だろう。
どんな夢を見たって、現実で学生の頭を悩ませるのはいつだって無機質なテストの問題だ。日に日に進む単元は、卒業までのカウントダウンだ。異世界なんて夢見る前に、僕たちは進学先を決めないといけない。親のいない僕たちだって、この学園では、漠然と大学進学を考える。そこに、才能のモラトリアムを求めるから。成果のない者ほど、まだそこに芽があるはずだと信じてしまうから。
僕だってそうだ。運命を、夢を見ることを嫌いだと言いながら、今もまだ、あの日夢見た自分に心を奪われたままでいる。自分は主人公なのだと信じ切っている。
誰もが、自分の人生の主人公だ。そんな言葉すら、今は馬鹿にすることもできない。
主人公でなくたって、僕たちは朝起きないといけないし、ごみを捨てないといけない。絶望しても現実は続いていくし、幸福の絶頂に至っても、日常は緩やかに平常に戻っていく。
現実を見よう。あの日の僕は、子供だったのだと理解しよう。そうでないと憧憬は止められない。現実は不自由だ。夢を見たって、追いかければ破滅が待っている。
エトソンには悪いが、異世界には行けない。異世界に行けば、僕が魔王を倒しても、異世界で平凡に生涯を終えたり、銅像が建てられたり、はたまた現実に帰ってきて「なんだ、夢だったのか」と笑うような結末しかない。それは、僕にとって、受け入れられない非日常だ。
隣席の異世界美少女を見ていると、視線に気が付いたのか、エトソンは軽く笑みを浮かべる。その表情を見ていた時、あることに気が付く。
僕はすっかり、異世界に行くまでは平穏な日常を過ごせると思っていた。
だが、思い返してみれば、すでに理外のトラブルに巻き込まれている気がする。『夕暮れの原風景』で怪物と対峙した時も、例えばゲームのボスに挑む前に出てきた雑魚敵みたいに、当然負けるわけがないと思っていた。それは、僕の運命が、『異世界に行けば魔王を倒して祀られる』という未来を秘めていると考えていたからだ。
聖剣を受け取った。僕がその運命の主人公であるならば、あんな怪物に負けるわけがない。作品によっては、そんな結末もあるかもしれないが、僕が主人公なのだ、そんな駄作であるはずがない。
僕が運命と言うやつを嫌いな理由は、未来の持つ可能性を奪ってしまうからだ。この世界には運命なんてないと思いたいが、因果を掴んでしまえば、結末は自然と狭くなる。だから、殺し屋なんて来ないと思っていた。なんだかんだ日々が過ぎて、結局勘違いだったのか、と安堵できると思っていたのだ。殺し屋に狙われるのは、僕の運命ではなかった、と。
だが、もしかすると、僕の運命は、僕の物語と言うやつは、もうすでに、始まってしまっているのかもしれない。それはすでに、そして同時多発的に、僕の日常を侵食し始めている。
目前の明らかな運命、エトソンから僕は目を逸らした。
ちょっと待ってくれ、冗談じゃない。平穏な日々が続かないどころか、殺し屋に狙われているなんて! なんだか平気なふりを続けていたが、とんでもなく恐ろしい状況じゃないか! 日々の忙しなさで忘れていいわけがない!
唐突に身の危険を感じても、学生である以上は、教室で変な行動を取れない。自分が危機にあるかもしれないと思っても、立ち向かう覚悟なんて出ない。もし出たとしても、それは勇気なんかじゃない、蛮勇と呼ぶべき愚かさだ。僕はすごい人間じゃない。才能なんてない。ただ思うままに生きるだけの平凡な人間だ。
————もうどうか僕の前に、運命なんて現れないでくれ。
チャイムの音は、授業の終わりを告げる。僕はぐるぐると回り続ける意味のない思考に囚われて、クラスメイト達が帰り始める椅子の音で、ようやく我に返った。
「アーサー、考え事ですか? 私に手伝えることであれば、なんなりとご相談くださいっ」
「い、いや、大丈夫。とにかく、早く家に帰ろう。ほら、何かと危ないからな」
「? あのナキゴエというもののことなら、勇者様には脅威にもなりませんよ」
「ち、違う。ほら、あのなんだ、殺し屋とかいうさ。他の人を巻き込んだら悪いだろ」
教室で口にするのは憚られ、思わず小声になってしまう。この教室にも、守護者だかなんだかがいるかもしれないのだ。
「……そういうことでしたら。アーサーなら、大丈夫だと思いますが」
「ああ、早く帰ろう。すぐ帰ろう」
帰ったところで何があるでもないが、僕はそそくさと教室を出た。それにしても、エトソンの勇者贔屓は、彼女自身の能力で測っているからか、微妙に反応しづらい。僕は特別じゃない、と言いたいところだが、彼女が言うならそうなのかも、と納得してしまいそうにすらなる。
「一体どうすればいいんだ……」
自室にたどり着いた僕は、意味もなく部屋中を歩きまわる。結局、そうして夜になっても答えは見つからない。ご飯を食べても、お風呂に入っても変わらない。ただ少し、背後が怖くなったくらいで、思考は回ってはいない。
「とりあえず、傍に置いておいた方がいいか……?」
ゴールデンウィークが始まるというのに、僕の頭の中は不安だらけだ。とりあえず、鉢植えに刺していた聖剣マクルワリオンを、ベッドに移動させる。剣という割に、柔軟に形状や質感を変えてくれる聖剣を抱いて眠る。朝の湯たんぽのように、ほんのり温かい気がする聖剣を持っていると、少しだけ不安が薄れた。
**********
いつも、夢だと気が付くときには暗闇だ。それは目を開けているのに、瞑っているときよりも暗いからすぐに分かる。
幼少のころから変わらない夢の風景。誰ともつかない声が、壁の向こうから聞こえてくる。果てしなく続く闇と、真っ白な壁。見上げても空は見えない。立ち上がっても、自分が立っているのかどうかすら分からなくなりそうだ。
ふと、わずかな違和感に腰の周りを探ると、VRのゲームみたいに、手に何かが吸い付いた。薄っすらと温かい感触に、まさかと思いながら視線を落とすと、僕が握っていたのは聖剣だった。どうみても、マクルワリオンに違いない。夢の中では、少しでもそうだと願えば引き寄せられてしまうのだ。
「やぁ、秀一! ようやくボクの声を聞く気になったんだね」
「うわっ、なんだ! 気持ち悪いっ」
好青年のような明るい声が脳内に直接響き、僕はとっさに聖剣を地面に放ろうとした。しかし、やけに粘着質な柄は手のひらから離れない。お祭りの水風船みたいに、下に向けた手からぶらりと垂れ下がった聖剣は、一つ咳払いをした。 ………僕の脳内で。
「……聖剣の運命に選ばれた勇者よ。ようやく、我の声に耳を傾けるか」
「いや、言い方の問題じゃなくて。なんでしゃべるんだよ、気色の悪い」
「あれ、前の勇者はこれでやる気になってくれたんだけどなぁ。君はやっぱり、可愛い聖剣の方が好みか。エトソン嬢にも鼻の下を伸ばしているし」
「伸ばしてない。勝手なことを言うな」
この聖剣、喋り出したかと思えば、ずいぶんな物言いだ。だいたい、エトソンはもう家族みたいな、具体的に言えば妹みたいなものだと思っている。それでも可愛いと思ってしまう時があるのも事実だが、それは実妹の理亜だって可愛いのだから仕方ないだろう。久しく顔を合わせていないが、きっと今頃はエトソンにも負けない美少女になっているはずだ。
「それはともかく、ようやく君と直接話せるね。いつもは僕からのラブコールを無視するんだから、つれないマスターだよ」
「今しかと分かったよ。聖剣の言葉が分からなくて良かったとな」
「そんなぁ。僕は、君の内腿の匂いが好きなんだ。どうか見捨てないでおくれよ」
「お前、ホントにへし折ってやろうか」
百合原よりも気持ち悪いことを宣うマクルワリオンを、僕はしっかりと掴んだ。余裕そうな声で、聖剣は「いたーい」などとほんのり光る。
「本音はさておき、勇者よ。君に伝えたいことが二点ある。
一点目、僕のことは、マクルワリオンと呼ぶように。マクちゃんとか、マッくんでもいいよ」
「二点目はなんだ?」
いちいち突っ込む気も失せて、僕は適度に掲げた聖剣に問う。暗闇の中でも神々しく光る刃をした剣が、ふざけた性格をしているなんて信じたくない。
「そう焦るなよ。二点目は、もっと僕を使って運命を切り開いてほしいってことさ。僕は、君の運命に惚れた。アーサーの言っていた通り、君こそが僕にふさわしい夢の持ち主だ」
「聖剣に好かれたって、何も嬉しくは……いや、お前に好かれても、何も嬉しくないね」
言いかけて、聖剣に好かれたら嬉しいだろうと思い直す。大人のお姉さんみたいな精霊でも憑いていたら最高なのに、なんで僕の聖剣はこんなおちゃらけた奴なんだ。邪龍みたいな荘厳な感じでもいいのに、と考えたところで、それではこいつの演技に騙された前の勇者と一緒じゃないかと情けなくなる。
「秀一、君がどう思おうと、僕は君を選んだ。後は、君が前を向く番だ。僕は、君と一緒に夢が見たい。世界すらも超えるような、見果てぬ夢を!」
マクルワリオンの言葉は、子供ならすぐに大きく頷いてしまいそうな求心力があった。だが、僕はもう子供というわけでもない。まだ大人でもないが、それでも現実くらいは分かる。
「————夢なんて、見るものじゃない。僕は、夢を見てはいけない。手を伸ばしてはいけない。父さんと母さんが、どうして死んだのか。僕はまだ忘れたわけじゃないよね?」
遠くから、反響するように声がした。それは声であって、しかし、無数の手のように僕を向いているように思えた。僕は声のする方に顔を向ける。
目の前に広がっていた白い壁から、すり抜けるように小さな子供が歩いてくる。それは疑いようもなく、幼少期の僕だ。安心させるように胸を張って、僕に向かって口角を上げて笑う。それは、ヒーローを夢見ていた僕のファイティングポーズで、誰もを安心させられると思っていた正義の象徴だった。
胸を張った子供の僕は、満足げに鼻を鳴らして、地面に屈みこんだ。まるで、そこに何か、夢に見たような宝物があるように、声にならない感嘆の吐息を漏らす。
「……やめろ。やめてくれ」
僕は、この日を俯瞰して見たことなんてない。だから、これは妄想の産物に過ぎないと分かっている。だから、これはただの幻想で、目の前の彼だって、本当は僕とは関係ないのかもしれないのに、どうしたって思い出すのは、忘れることのできないほど毎夜フラッシュバックする、取り返しようもないあの日の一瞬だ。
————幼少年の僕が手に取ったのは、小さな木の棒だった。子供の手にも持ちやすい、どこにでもある木の棒。夢見がちで、自分を主人公だと勘違いしている幼年には、そんな棒きれですら、聖剣に見えるものだ。
「見て、お父さん、お母さんっ。ぶぅん、ぶぅん! えくすぅかぃば———」
自分の世界に夢中になっていた僕が、木の棒を振り回した先にいたのは、青ざめた表情の母親と、もうすぐそこまで駆け寄ってきていた父の、歯を食いしばった顔だった。ブレーキの音が聞こえたのは空中で、何が起こったのかわからないまま、僕は手にしていた木の棒をぎゅっと握ったまま、じっと放物線が地面にぶつかるのを待っていた。
死角の多い十字路で、もっと小さいころは、欠かさず両親の手を繋いで渡っていた。冥加市は今も発展中の街で、工事用の車両の出入りも多く、細い道でも抜け道として使われていたと、後に聞いた。
父が僕をかばって飛び出し、投げ助けられた僕は、ごろごろと転がって何とか起き上がる。じんわりとした痛みを全身に感じながら、アスファルトに手をついた。
ぽたぽたと水滴が垂れる。両手を開いて、地面について、気づけば木の棒はどこかに行っていた。ゆっくりと瞼を開く。瞳がごろごろとして、泣いているみたいに視界が悪い。
ぽたぽたと、水滴が垂れる。生温かい液体が、やけに粘っこく指の隙間を流れた。
————ああ、こんなところに、聖剣は刺さっていたんだ。
僕は、右目に刺さっていたソレを引き抜いた。眼球が溶けていくように、ぼとぼとと熱い涙がこぼれた。赤い地面を見ないように上げた視界には、煌々と燃える炎が立ち上っていた。
次に覚えている記憶は、理事長に手を引かれて、花を手向けに行った時のことだ。
杜撰な工事会社の粗野な運転手たちが、ほんの少しの時間短縮のために、法定速度を超過して私道を走ったのだという。大型トラックの玉突き事故は、僕に両親の骨を拾うことすら許さなかった。
「僕は、主人公なんて夢見てはいけないんだ。僕は、ヒーローになんてなれない。人並みの幸せだって、手を伸ばそうとすれば、また壊れていく。叶夢も、エトソンも、みんな僕といると不幸になる」
白い壁がどんどんと大きくなって、僕を押しつぶさんばかりに影を落とす。蝕むような声は四方八方から僕をかどわかせる。
今までさんざん黙っていた夢の世界が、今になって僕に襲い掛かる。向き合ってこなかったことを恨むように、弱い僕を許さないとでもいうように、猛り狂っている。
「秀一、僕は君を信じているよ! だって、君は僕のマスターだか———」
「うるさいっ!!」
僕は、聖剣の柄を右手でしっかりと握って黙らせる。
————ようやく今、分かった。僕がどうして運命と言うやつが嫌いなのか。その理由を。漠然と、未来が消えていく感覚が嫌いなのだと思っていたが、それはもっと単純な話だったのだ。
僕には、運命なんていう、神だかなんだかが定めたものに縛られるいわれは、これっぽっちもないのだ。
僕の不注意で、両親は死んだ。僕が勇者なんかを夢見たから、ヒーローなんかに憧れたから、両親は死んでしまった。でも、それはただの現実でしかない。誰かがそれを呪いだと言ったって、誰かがそれを運命と言ったって、僕はそれに縛られたくない。
父さんは、母さんは、僕が勇者というものを嫌うために死んだんじゃない。僕にヒーローを忌み嫌わせるために死んだんじゃない。僕が夢を見ることを諦めさせるために死んだんじゃない。それは僕の人生において、決して運命的な出来事ではない。悲劇であるとしても、なんの因果でもない。
「僕は、それでも夢が見たい! 運命なんて知ったことか。ここは僕の夢だ! 夢の中でくらい、夢を見させろ!!」
これは、ただのわがままなのかもしれない。現実を直視できないだけの、情けない駄々と笑われるかもしれない。
だけれど、どうして人生において、夢を見てはいけないなんてことがあるだろうか。どうして、不幸を黙って受け入れる必要があるだろうか。
僕たちは、何かに縛られる必要はない。たとえ、失った目にも、刻まれた傷にも、亡くした両親にだって、夢を奪う権利はないのだ。僕たちが自由であることを、誰にだって邪魔はさせない。そんな現実は、僕が認めない。
僕の意志に対抗するように、白い壁の向こうで、何層もの力が波打っているのが分かる。大津波のように、白い壁が僕に向かってくる。
「クソ聖剣、見たいならいくらでも見せてやる、力を貸せッ!」
「オゥケイ、秀一!」
両手で聖剣の柄をしっかりと握る。脈打つような温度は、僕の手を握り返すように、一体となって思えた。頭の前で構えた聖剣と、自分が一つの大きな力となって研ぎ澄まされていく。何年も続いた暗い夢の中で、小さな生命のように光の粒が溢れ出す。何倍にも重く感じられる聖剣を、僕は力の限り振り下ろす。
「———エクスカリバーッッッ!!!」
閃光は奔流となって、紫電は巨壁を割く。轟音は、迷いも過去も、何もかもを流していくようだ。残身は今までのどんな一振りよりも長い。目を焼くような軌跡も、夢の中でははっきりと見えた。
僕は、さながらモーセのような気分で、花畑のような薄淡い光が満ちていく世界でたたずむ。もうこの夢の中で僕を縛り付けるものは何もない。もう僕は、夢を躊躇する必要はない。ここでは、僕は勇者になってもいいし、ヒーローになってもいいのだ。
胸を締め付けてやまない、両親を失った痛みはもう、枷ではなく、心の傷として、未来に向けて共に歩んでいける。
「なあ、秀一。一点目なんだけど———」
「おいおい、まさか、もう満足したなんて言わないよなぁ?」
僕は、柄にもなく楽しくなって、開かれた壁の向こうに笑いながら飛び出す。パラシュートもつけていないのに、二千メートルはあろう眼下の景色に身を投げ出した。夢でなら、飛行も遊覧も自由自在だ。羽も生えれば、空中歩行だって簡単にできる。
「飛んでるぞ、マクルワリオン! このまま、お前の世界まで行けるかもな!」
吹きすさぶ冷たい風を受けながら、僕は暗い大空を滑るように飛ぶ。旋回しながら、風の動きを肌で掴んで姿勢を安定させた。次第に自由落下は滑空に変わり、猛禽のように生えた翼で、僕は空を掌握する。
雲を抜けて、僕は地上から見れば一つの星のように見えるかもしれない。少し高度を上げたりして、飛行機とすれ違ったり、窓越しの向こう側に手を振ってみたりする。
今この瞬間、僕はこの空で、この世界で最も自由だ。釈迦が生まれた時に、天上天下唯我独尊と言った理由が分かる気がする。生命というものは、こんなにも素晴らしい。誰だって夢の中では自由であっていいのだ。
夜の冷風に目を細めながら滑空すると、次第に視界はぼんやりと明るくなり、賑わう熱気に包まれる。たなびいた旗は、蒸し返す活力に威を示し、気づけば僕は細い通路を歩いていた。
歓声と熱狂に包まれた道の先、太陽の眩しさに手で庇を作ると、広い闘技場の地形が僕を迎えた。巨大な牡牛が僕をめがけて突進してくる。盛り上がったポリスの市民が嬌声を上げた。
「——弱い弱いッ!」
牡牛の暴力的に曲がった角を聖剣で受け止め、両足で衝撃を押し止める。闘士のマントがひらりと揺れ、僕は猛獣を弾きのける。角を天に向け怒声を上げた牡牛の鼻頭に、渾身のドロップキックをねじ込んだ。無重力のように吹き飛んだ巨体が、コロッセオの壁に激突し、周囲から甲高い口笛の音が響く。
身軽に着地し周りを見れば、それぞれの武器を構えた闘士たちが、僕に向かって来ている。戦端を切った長槍の穂先を、軽く頭を逸らして避ける。両手で槍を掴み体重をかけ跳び上がると、さっきまで僕がいた場所に、二振りの剣の軌跡が向かい合う。槍を支点に逆立ちのように空中に逃がした体を、ぶつかって体勢を崩した二人の剣士の背に着地させ、僕は改めて大きく跳び上がり、月に映えるウサギのようにゆっくりと一回転する。
空が一周する間に、視界を占める景色は目まぐるしく変化する。夢の中は千変万化だ。いつだって望みのままに変化していく。歓声は夜の街の喧騒へ、忙しない街の雑踏へ、原初の空の咆哮へ、絶えず賑やかに移り変わる。
「秀一、僕は少し頭がくらくらしてきたよ」
「なら、少し休もうか。ゴールデンウィークに行くには早すぎるかもしれないが」
体が沈むように世界に溶けていく。頭から地面に落ちた僕を包んだのは、冷たい水の感触と水しぶきだ。イワシの群れがくすぐるように僕とすれ違う。透き通る海の色は明るい魚の色を映えさせる。
「クジラがいるぞっ!」
少し先の大きな魚影が立ち上っていくのを見て、僕は暑い日差しの照り付ける海面に顔を出す。前方で大きな影は黒点に凝縮したかと思った瞬間、噴火するように盛り上がり、黒い巨体が打ち上がる。肌を震わせる轟音が響き渡り、僕は太陽を隠すほどの大鯨が水面に落ちていく壮大な光景を目に焼き付けた。高揚と興奮でいっぱいになった胸を御するように、僕は息を限界まで吸う。
いざ潜ろうとした瞬間、柔らかい感触が後頭部に当たる。幸せそうな笑い声に驚いて後ろを見ると、ビーチボールがぷかぷかと浮いている。すっかり足の着いた海を歩いて浜辺に戻る。
「バレーでもするか?」
「そういうのは、手がある相手に言ってくれないか」
「それもそうか」
僕はビーチチェアーに背を預け、パラソルの陰でビビッドな色をした炭酸水を飲む。聖剣も夏の浜辺に刺さって気分が良いことだろう。ライムのようなさわやかな風味が体の中に広がっていき、僕は燦燦と照る日差しの下に立ち上がる。
「よし、それじゃあ行くか」
「行くって、どこにさ」
「決まってるだろ?」
僕はマクルワリオンを引き抜き、前方に向けて薙ぐ。雷を纏ったように轟音を立てて世界の表層が塗り替わる。旅を経てすっかり年季の入った鎧を装備した僕は、崖の上で遠方にそびえたその禍々しい城を見据えた。
「———魔王城だっ!」
紫色に染まった空には、巨大な竜やコウモリのような怪物が旋回している。うっそうと茂る森は、高い城壁と合わせて、その攻略が容易ではないことを物語る。むしろ、その難攻不落さが冒険心をくすぐる。
「行くぞっ、僕たちの冒険はこれから————」
聖剣を魔王城に向け、僕が渾身のセリフを放とうとした瞬間、世界が大きく揺れ始める。魔王の攻撃かと身構えた瞬間、思い出す。
そうだ、これは夢なのだ。
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世界は次第に歪み始め、僕の体も世界との境目を失っていく。僕は世界が揺れているのか、自分が揺れているのかだんだんと分からなくなっていく。色彩が混ざり合って無彩色に近づき、穏やかな灰色に染まり、それが自分の瞼の裏の陰だと気づいたときには、僕の肩を二つの手がしっかりと掴んでいた。
「アーサー、朝なのですよっ! ……ダメです、全然起きません」
「ふふん、エトソンちゃんもまだまだね。任せなさいな」
夢と現実の境で、僕はまだ穏やかで暖かな暗闇に居座ろうと目を瞑る。世界の輪郭はまだあいまいで、僕はまだ自由だと信じ込む。
「秀一、起きなさ~いっ!」
無遠慮に布団が引きはがされ、涼しい風が暖まった体を急激に冷やす。その瞬間、僕は現実の感覚に縫い付けられるように意識を戻され、鮮烈に覚醒する。とはいえ寝ぼけ眼の朦朧とした視界に、活発な少女の笑顔が映った。
「アーサー、おはようございますっ」
「お、おはよう。二人してどうしたんだ」
朝っぱらから元気な隣人と居候の顔に、今日は学校だったかと眉をひそめた。しかし、幅の広いシャツを着た叶夢のラフな格好に、休日であることをすぐに認識する。叶夢は僕の勉強机に座ると、机上に置いていた本を読み始めた。
「エトソンちゃんが、お出かけしたいんだってさ。どうせあんた暇でしょ? 行ってあげなさいよ」
「それは別に構わないが……」
意識は現実を認識しているが、まだ思考は自由な夢を欲して、緩慢な働きぶりだ。いつも以上にゆっくりと掛け布団を畳む。
「アーサー、まずは朝ごはんですっ。相田さんがフレンチトーストなる甘味を作ってくださっていますよ!」
エトソンの嬉しそうな声を聞きながら、僕はベッドから立ち上がる。ふと、起き上がったベッドに視線を戻すと、極めて非現実的な、けれど僕にとってはもう日常と化しつつあるそれが横たわっていた。
「……まったく。休日はどこも混むんだ。迷子になっても知らないからな」
僕は、体温をたどるように微動して見える聖剣を掴み取る。これは僕の現実だ。夢なんかじゃない。
だが、僕を選んだというのなら、この穏やかでささやかな日常を、飽きるほどに見せてやる。そんな幸せで平穏な日々が、なにより僕の夢なのだから。
次回2-1「ニューエイジ」
平穏を求める少年、朝尾秀一。GW初日にふらりと出かけた彼を襲ったのは、未知の異星人であった。
日常を人質に取られた彼は、やむなく聖剣を抜く————。
「人間を、甘く見るな———」




