表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星は昴?ーそれでも僕は彼女を守りたかったー  作者: 村松希美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/26

第2章 崇拝という怠慢





「……まだついてくるの?」


校門を出たところで、鈴が振り返った。

その目は、朝よりも少しだけ鋭かった。


昴は一瞬、足を止める。

(やっぱり……迷惑、か)

分かっている。

さっきの会話で、距離を取るべきだということくらい。


それでも――

「……話、終わってない気がして」

口に出した瞬間、自分でも曖昧だと思った。

何が終わっていないのか、説明できない。


鈴はしばらく無言で昴を見つめたあと、ふっと息を吐いた。

「……面倒くさい」

その一言は短いのに、妙に重かった。


「いい? はっきり言うけど」

鈴は歩きながら言う。昴も少し距離を空けてついていく。


「さっきの話の続きなら、もう結論出てるから」

「結論……?」

「うん。あんたは、“勝手に期待して勝手にズレてる人”」


ぐさり、と刺さる。

(そこまで言うか……)

反論したい。

でも、うまく言葉にならない。


「僕は……」

何か言い返そうとして、詰まる。


鈴はちらりと横目で昴を見る。

「ほら、それ」

「え?」

「ちゃんと言葉にできないでしょ」


昴は黙る。

図星だった。


「結局さ」

鈴の声は、淡々としている。

「自分の中で“こうあってほしい”っていう型があって」

「それに人を押し込めてるだけ」

歩きながら、鈴は前だけを見ている。


まるで、昴ではなく“何か別のもの”に話しているようだった。


「……それって、そんなに悪いことか?」

やっと出た言葉は、小さかった。


鈴は一瞬だけ立ち止まる。

その背中が、わずかに強張る。


「悪いとかじゃない」

振り返らずに言う。


「――楽なだけ」

その言葉に、昴の胸がざわつく。


「楽……?」

「そう」

鈴はゆっくり振り返る。

その目には、どこか疲れた色があった。


「だってさ、人をちゃんと見ようとしたら面倒でしょ」

「いいところも悪いところもあって」

「矛盾してて、訳わかんなくて」


一歩、昴に近づく。

「でも、“この人は優しい人です”って決めちゃえば」

「それだけ見てればいい」

距離が近い。

その分、言葉が逃げ場なく刺さる。


「……それのどこが悪いんだよ」

昴は思わず言い返す。

「優しいって思うのは……悪くないだろ」

鈴の眉が、わずかに動く。


「悪くないよ」

意外なほどあっさりとした肯定。


だが、すぐに続く。

「でも、それ“だけ”で済ませるのが怠慢なの」

その言葉は、静かだった。


怒っているわけでもない。

責めているわけでもない。

ただ、断定だった。


「……怠慢って」

昴の声がかすれる。

「そこまで言うかよ」

「言うよ」

鈴は即答した。


「だってそれ、人を見てないじゃん」

一瞬、言葉を失う。


(見てない……?)

「都合のいい部分だけ切り取って」

「それを“全部”みたいに扱う」

鈴の目が、ほんの少しだけ揺れる。


「それってさ……」

そこで、言葉が止まる。

ほんの一瞬。

言いかけて、飲み込んだような間。

昴はその違和感に気づく。


(……今)

何かあった。

でも、鈴はすぐに表情を戻した。


「……崇拝と同じ」

その一言が、落ちる。


「崇拝……?」

「うん」

鈴は小さく笑った。

自嘲のような、乾いた笑いだった。


「“女神”とかさ」

その言葉に、昴の心臓が強く跳ねる。

「……っ」

図星だった。


「勝手に持ち上げて」

「勝手に理想押し付けて」

「それで、違ったら――」

鈴の声が、わずかに低くなる。


「裏切られた、とか言うんでしょ?」

空気が、冷たくなる。

昴は何も言えない。

言えない、というより――

言う資格がない気がした。


「……私はね」

鈴がぽつりと言う。

その声は、少しだけ小さかった。

「そんな立派なもんじゃないの」

視線が、わずかに逸れる。


「普通にずるいし」

「汚いこともするし」

「誰か利用してでも、生きる」

淡々と並べられる言葉。

でもその奥に、何かが沈んでいる。


(……なんで)

そこまで言うんだ。

自分を、そこまで下げる必要があるのか。

昴の中に、違和感が広がる。


「……そこまで言わなくてもいいだろ」

思わず口に出ていた。


鈴がぴたりと止まる。

ゆっくり振り返る。

その目は、さっきまでよりも少しだけ鋭かった。


「なんで?」

短い問い。


「……いや」

言葉に詰まる。

うまく説明できない。

ただ――

(そんな顔で言うなよ)

そう思った。


「……そういう顔して言うなよ」

やっと出た言葉は、それだった。


鈴の表情が、一瞬だけ固まる。

「……どういう顔」

「なんか……」

言葉を探す。


「無理してるみたいな」

言った瞬間、しまったと思った。

空気が変わる。

ぴん、と張り詰める。


鈴はしばらく何も言わなかった。

ただ、昴を見ていた。

その視線は、読めない。


怒っているのか、呆れているのか、それとも――


「……は」

小さく、息が漏れる。

笑ったようにも聞こえた。

でも、それはどこか歪んでいた。


「ほんと、面倒くさいね、あんた」

そう言って、鈴は背を向ける。

「――だから言ってるでしょ」

歩き出しながら、ぽつりと。


「私は女神なんかじゃないの」

その言葉は、前よりも少しだけ静かだった。

「ただの、人間」

足音が遠ざかる。


昴は、その場に立ち尽くす。

(……分からない)

何が正しいのか分からない。

鈴の言っていることは、たぶん正しい。


でも。

(なんであんな顔するんだよ)

頭から離れない。

あの一瞬の、歪んだ笑い。

(あれが……本音か?)


それとも――

(……違う気がする)

確信はない。

でも、そう思った。

昴はゆっくりと拳を握る。


(僕は……)

まだ、何も分かっていない。

でも。


(それでも)

目を逸らしたくなかった。

幻想は壊れた。


でも、その下にあるものを――

まだ、ちゃんと見ていない気がした。




草稿を入力してAIが書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ