第3章 ビル最上階の対峙
階段を上がる音が、やけに遠く感じた。
コツ、コツ、と響くたびに、現実が少しずつ薄くなる。
(来る)
昴だ。
鈴は、それだけは確信していた。
でも同時に、別の感情が喉元を締めつける。
(来ないでほしかった)
矛盾している。
頭では分かっているのに、心は真逆を叫んでいる。
(危ないのに)
(巻き込みたくないのに)
それでも――
(来てしまう人)
それが昴だった。
だからこそ怖い。
だからこそ、嬉しい。
その感情の混線が、鈴の呼吸を浅くする。
「……誰か来ると思ったか?」
男の声が、すぐ背後で落ちる。
鈴は反射的に肩を揺らす。
(気づかれた?)
違う。
まだ足音は遠い。
でも、男は“気配”を嗅ぎ取っている。
こういう人間は、追い詰められるほど敏感になる。
「お前みたいな子はな」
男がゆっくり歩き回る。
靴音が、床に吸い込まれる。
「誰かに助けてもらうのが当たり前だと思ってる」
(違う)
即座に否定が浮かぶ。
でも声にはできない。
「違う」と言えば、何かが壊れる気がした。
男は続ける。
「優しい男が来るんだろうな」
笑う。
「ヒーロー気取りのガキが」
その言葉に、胸がわずかに痛む。
(昴を……)
馬鹿にしないで。
そう言いたいのに、喉が動かない。
代わりに、恐怖が広がる。
(来るな)
(来たら殺される)
論理じゃない。
本能だ。
この男は危ない。
この空間は危ない。
そして昴は――
もっと危ない場所に、入ってくる。
「来るな……」
無意識に、声が漏れる。
小さすぎて、男には届かない。
でも、その瞬間。
遠くで――
足音が止まった。
(……来た)
心臓が跳ねる。
男の動きも、一瞬だけ止まる。
「……ふん」
鼻で笑う。
「本当に来たのか」
扉が、ゆっくり開く。
そこに立っていたのは――
昴だった。
息は荒い。
でも、目は揺れていない。
その瞬間、鈴の胸の中で何かが崩れる。
(来てしまった)
安心と恐怖が、同時に押し寄せる。
「鈴!」
昴の声。
焦り。
怒り。
そして――
明確な“守る意思”。
その声を聞いた瞬間、鈴の中の緊張が一気に跳ね上がる。
(ダメ……)
(こっちに来たら……)
男が、ゆっくり振り向く。
「お前か」
昴を見る目が、冷たい。
値踏みするように。
「邪魔するのは」
空気が変わる。
圧が増す。
鈴は直感する。
(この人、本当に危ない)
理屈じゃない。
空気が違う。
「離れろ」
昴の声。
低い。
震えていない。
(……違う)
鈴は気づく。
これはいつもの昴じゃない。
剣道の時の“昴”だ。
(入ってる……)
戦う時の、別の顔。
でも。
それでも。
(勝てる相手じゃない)
鈴の心が叫ぶ。
男は、ゆっくり笑う。
「守るつもりか?」
「格好いいな」
皮肉。
その瞬間――
昴の足が、一歩出る。
(やめて)
鈴の喉が震える。
「来るな!」
思わず叫ぶ。
昴が一瞬だけ振り向く。
その目が、鈴を見る。
(……大丈夫じゃない)
その目で分かる。
でも。
昴は言う。
「大丈夫だ」
短く。
ただそれだけ。
その言葉に、鈴の中で何かが壊れる。
(そんなの……)
大丈夫なわけない。
でも。
同時に――
(信じたい)
という感情が生まれる。
その矛盾が、鈴を苦しめる。
男が動く。
ゆっくり。
余裕を見せるように。
「正義の味方ごっこか?」
一歩。
「そういうのが一番面倒なんだよ」
もう一歩。
鈴の呼吸が速くなる。
(来る)
(殴られる)
(殺されるかもしれない)
想像が、勝手に膨らむ。
そのたびに、体が冷える。
でも――
昴は動かない。
逃げない。
その背中が、鈴の視界にある。
(なんで……)
(なんでそこに立ってるの)
恐怖の中で、理解できない。
でも。
心のどこかで気づく。
(この人は……)
逃げない人だ。
その瞬間。
鈴の中で、別の感情が生まれる。
(私も……)
逃げたくない。
怖い。
でも。
目を逸らしたくない。
男が、ついに手を上げる。
(来る)
時間が、遅くなる。
その瞬間。
昴が動いた。
一歩。
前へ。
その動きは速くない。
でも、迷いがない。
(あ……)
鈴の呼吸が止まる。
その一歩は――
恐怖に向かう一歩だった。
そしてその瞬間。
鈴は理解する。
(この人は)
(私より怖がってるのに)
それでも、来ている。
その事実が、胸を強く打つ。
涙が出そうになる。
でも、出さない。
ここで泣いたら終わる。
そう思った瞬間――
世界が、次の段階へ進む。
男が動く。
昴が動く。
鈴は、その中心で。
初めて“人間として同じ場所に立っている”と感じていた。
草稿を入力してAIが書きました。
私は恋愛のストーカーには遭ったことがないので、その本で調べたことがあります。とにかく、恋愛にしても集団ストーカーにしてもターゲットへの執着がえげつないですよね。
若い女性たちは恋愛に夢見るお年頃でしょうが、よく相手を観てくださいね。初めは良くても……というようにならないように。




