第4章 利用と防衛の論理
放課後の空気は、どこか中途半端だった。
帰る者と、残る者。
笑い声と、沈黙。
そのどちらにも属さない場所に、鈴はいた。
(……来ると思った)
昴が、少し離れたところから近づいてくるのが見える。
足取りは迷っている。
でも、止まらない。
(やっぱりね)
内心で小さく息をつく。
(こういうタイプ)
一度関わると、簡単には引かない。
「……小暮」
名前を呼ばれる。
振り向く。
「何?」
声は、いつも通り。
何もなかったように。
昴は一瞬、言葉に詰まる。
(ほらね)
言いたいことはあるのに、うまく言えない顔。
「……この前のことだけど」
「ああ」
先に答える。
話を短く終わらせるために。
「助けてくれて、ありがとう」
それは本音。
でも、それ以上は要らない。
そういう線引き。
「いや……それはいいんだけど」
昴が言葉を探す。
視線が泳ぐ。
「お前さ……」
その“お前”に、少しだけ眉が動く。
でも、何も言わない。
「……ああいうの、やめろよ」
一瞬。
時間が止まる。
(ああ、そこ来るんだ)
予想していた言葉。
でも。
(やっぱり、腹立つな)
「……は?」
低く、短く返す。
昴が少しひるむ。
でも、引かない。
「危ないし……」
「だから?」
言葉を遮る。
昴の口が閉じる。
沈黙。
鈴は一歩、近づく。
距離を詰める。
「じゃあ、どうすればいいの?」
同じ問いを、もう一度。
今度は、逃げ道を塞ぐ形で。
昴は言葉を失う。
(ほら)
そう思う。
(結局、何も言えない)
鈴の中で、何かが静かに積み上がる。
苛立ち。
諦め。
そして――
(分かってない)
その感情が、言葉になる。
「あんたさ」
声は静かだった。
でも、芯がある。
「私を何だと思ってるの?」
昴が目を見開く。
「守ってあげなきゃいけない、可哀想な女の子?」
一歩、さらに近づく。
逃がさない距離。
「それとも、汚れてる女?」
昴の表情が揺れる。
否定しようとして、言葉が出ない。
(図星じゃない)
でも、理解もしていない。
その中途半端さが、一番苛立つ。
「……違う」
やっと出た言葉。
でも、弱い。
鈴は小さく笑う。
「何が違うの?」
間を置かない。
畳みかける。
「じゃあ、何?」
昴は黙る。
視線が落ちる。
(ほらね)
その様子を見て、鈴は確信する。
(分かってない)
「ねえ」
声のトーンが変わる。
少しだけ低く。
少しだけ鋭く。
「あんたさ、人を一つの面で決めつけるの、楽だと思わない?」
昴が顔を上げる。
「“こういう子だ”って思い込めば、それ以上考えなくていいもんね」
言葉が、少しずつ速くなる。
「優しい子。大人しい子。守るべき子」
一つ一つ、区切るように。
「そうやって、箱に押し込めて」
胸の奥に溜まっていたものが、溢れ出す。
「勝手に安心してるだけでしょ」
昴の息が詰まる。
鈴は止まらない。
「で、そのイメージと違ったら?」
一歩、距離を詰める。
「“裏切られた”って顔するの?」
昴が何か言おうとする。
でも、言葉が出ない。
「それさ」
鈴の目が、真っ直ぐ昴を射抜く。
「あんたの観察力が足りないだけじゃない?」
静かに、でも確実に。
刺すように。
「ただの怠慢だよ」
空気が、凍る。
数秒の沈黙。
鈴は、息を吐く。
少しだけ肩の力が抜ける。
でも、まだ終わらない。
「私はね」
声が、少しだけ落ちる。
「女神なんかじゃないの」
その言葉に、昴の肩がわずかに揺れる。
「人間だよ」
一拍。
「ただの、人間」
その言葉は、さっきまでの鋭さとは違っていた。
どこか、疲れている。
どこか、諦めている。
沈黙。
長い沈黙。
昴は、何も言えない。
何も返せない。
(……そうだよな)
心の中で思う。
(僕、分かってなかった)
でも。
それでも。
喉が動く。
「……それでも」
声が出る。
小さく、でも確かに。
鈴が顔を上げる。
「それでも、危ないだろ」
たった一言。
でも、逃げていない。
鈴の目が、わずかに揺れる。
(……何それ)
論破じゃない。
正論でもない。
ただの、感情。
(そういうの……)
一番、面倒。
でも。
一番、無視しにくい。
「……ほんと、バカだね」
小さく呟く。
さっきまでの攻撃的な声じゃない。
少しだけ、力が抜けている。
鈴は視線を逸らす。
「もういい」
背を向ける。
これ以上話しても、意味がない。
そう思うのに。
足が、すぐには動かなかった。
(なんで……)
さっき言い切ったはずなのに。
自分の正しさも、覚悟も。
全部。
なのに。
(なんで、残るの)
胸の奥に、何かが引っかかる。
昴は、その背中を見ている。
何も言わない。
ただ、立っている。
(……何なのよ)
鈴は小さく息を吐く。
そして、歩き出す。
今度こそ。
振り返らずに。
でも。
その背中に。
さっきまでとは違う“何か”が残っていることに――
鈴自身が、一番気づいていた。
草稿を入力してAIが描きました。




