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あなたの結婚式、私が最高に幸せにしてあげる  作者: 雨宮 弦


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27/30

第27話 最高に幸せな一日

 十一時、挙式室の扉の内側で、私は次の合図を待っていた。

 ロビーには、畳まれた傘が並んでいた。受付の担当が来た人を案内し、会場の責任者が、挙式の担当と時刻を合わせていた。

 私は一人ずつの名前を確認し、自分が受け持つ案内を終えていた。

 目の前の扉は、まだ開いていなかった。


 美緒が、ドレスの裾を見下ろした。

 別の衣装へ替える追加は選ばず、この一着で過ごすことになっていた。衣装の担当が手元を整え、私は邪魔にならない位置へよけた。

 悠真は彼女の横で背筋を伸ばしていた。

 二人が何を話したかは、聞こえなかった。

 私は目をそらさず、でも、その言葉を知ろうとはしなかった。

 今、この人たちが出ていく場所を、仕事として確かめていた。



 合図が出て、扉が開いた。

 私は一歩引いた。二人が進み、その後ろを担当の人が確かめた。

 客席の方から、衣服の動く音と、小さな声がした。

 私が知っている顔もあった。

 以前、私へ手を振った人が、今日は美緒を見ていた。

 そのことを、わざわざ自分へ突きつけなくても、胸は少し痛んだ。

 でも、自分がどこへ立つかは、もう決まっていた。

 私は通路を空け、次の案内に必要な紙を開いた。


 挙式が進む間、会場の担当から、窓側の準備が整ったという連絡を受けた。

 私は受付の担当へ、庭へ出ない案内をもう一度共有した。

 客が動き始める時点は、責任者から撮影側へ伝える。



 扉の向こうで拍手が起きた。

 私は顔を上げた。

 二人が戻ってきた。

 美緒は入る前より、少しゆっくり息をしていた。悠真は客席へ一度振り返り、それから、こちらの案内を聞いた。

 私は次に進む場所を示した。



 窓側へ集まる時、小さな遅れが出た。

 親族の一人が、まだロビーから戻っていなかった。先に一組を撮り、次にこちらの家族、という順番だったが、そのまま呼んでも、全員がそろわない。

 私は親族の案内をしている担当へ、戻る見通しを確かめた。

 確認している間、窓の前で待つ人を増やさないよう、会場の責任者へ伝えた。


「先に撮れる組合せを、撮影側と合わせます」


 責任者が答えた。

 司会の担当も、食事の始まる時刻と、次に案内する順番を確認した。

 私は二人へ今の進め方を伝えた。


「お祖母様が戻られてから、ご一緒の写真をご案内します。その前に、ご友人の組合せを進めます」


 悠真は分かりました、と答えた。

 美緒も頷き、今、呼んでほしい友人を、私へ伝えた。

 私は名簿で確認し、案内の担当へ渡した。



 高瀬さんは写真の担当の位置を確かめてから、少し横へ回った。

 通る道が空き、最初の客がそこから戻ってきた。

 九月の図に引いた線が、初めて、人の動きになっていた。



 祖母が戻ると、悠真が一歩前へ出た。

 私は案内の担当と目を合わせ、次の組合せを撮影側へ伝えた。

 彼は急いで並んでもらうのではなく、祖母が落ち着くまで、少し待っていた。

 美緒も隣で、スカートを整えた。



 写真が済むと、客は窓側から席へ戻った。

 途中で戻る道を間違えかけた人へ、担当が声を掛けた。私は一人を案内し、また、自分の位置へ戻った。

 遅れた分のすべてを、料理が冷めるまで同じ場所で待たせて埋めることにはしなかった。

 会場の責任者と司会が順番を合わせ、食事を始める案内が出た。

 厨房へ伝える役は、別にいた。

 私は決まった進行を受け取り、持っている紙へ、変更した順番を記した。



 私は息を吐き、机の端へ資料を置いた。

 自分の手が空いている短い間があることを、怖いとは思わなかった。



 披露宴では、二人が席を回る時間を取っていた。

 長い演出と衣装の追加をやめ、本人たちが残したいと答えた物だった。

 美緒は最初、立つ時刻を私へ目で確かめた。

 私は担当の合図を示し、歩く道を空けた。

 彼女が、近くの席の女性へ笑いかけた。

 何を話したかは、聞こえなかった。相手も笑い、持っていた携帯を、一度机へ置いた。

 写真を撮る前に、二人で話していた。


 悠真は友人の肩へ手を置き、何か言って、笑った。

 場を明るくするのは、上手な人だった。


 私は次の席へ進む時刻を、担当へ確認した。


 大きな照明の演出は、なかった。

 追加の映像も、流れなかった。

 代わりに、基本の範囲で確かめてきた写真と、二人が書き直した言葉が、使われた。

 出かける日と、何もしない日も作りたい。

 私はその文を聞き、手元の紙へ視線を落とした。

 川沿いの朝の文章は、そこにはなかった。

 私の言葉を借りなくても、二人が何を言うかは、残っていた。



 食事の合間、小野さんが入口近くで花の様子を確かめた。

 私は客の移動が落ち着くのを待ち、短く、今のところ問題ありません、と伝えた。

 彼女は頷き、片付けの確認は終わってから、と自分の予定を見た。

 私はその仕事を私的な感謝の長話で止めなかった。

 きれいです、という一言だけを添えた。


「ありがとうございます。あの向きで、よかったですね」


 千春さんは答えた。

 私は窓の方を見た。

 枝の隙間から明るさが通り、客の顔が見えた。密に並べた背景では、残らなかった空きがあった。


 二人が選んだ範囲で、店の人が作った物が、今、使われていた。


 高瀬さんと、一度だけ目が合った。

 私は小さく頷き、彼も頷いた。


 彼がどこを見ているかを、今は知っていた。

 私が見ている客の戻る道は、彼の位置からは見えなかった。

 だから、それぞれが、そこへ立っていた。



 二時に近づき、最後の挨拶が始まった。

 私は入口の担当へ、持ち帰る品を渡す準備を確かめた。個数と名簿を合わせ、欠席の人の分を、勝手に誰かへ足さないよう確認する。

 紙の掛けられた菓子が、箱に並んでいた。

 三月、小さな見本を机へ置いた時の写真を思い出した。

 今日は、来た人が、持って帰る物になっていた。


 客を見送る時、二人は入口へ立った。

 美緒が品を渡し、悠真が礼を言う。その順番が少し入れ替わり、二人とも笑った。

 ひとりの客が、帰ってから食べるのが楽しみです、と言った。

 私は少し離れたところで聞いた。

 企画書に書いていた楽しみが、こちらから説明しない声で返ってきた。

 その一言が、今日、いちばんうれしかった。


 美緒は何度も、ありがとうございますと答えた。

 誰にでも羨まれる式になったかどうかを、私は確かめなかった。

 彼女がこの先、その写真をどう見せるかも、今、知る必要はなかった。



 最後の客が帰ったあと、二人が私と主任へ頭を下げた。

 悠真が、ありがとうございました、と言った。

 美緒も同じ言葉を返し、花の方を一度見た。


「写真も、撮れました」


 彼女は言った。

 私ははい、と答えた。

 仕事の確認を終えてから、もう一度二人へ頭を下げた。


「おめでとうございます」


 初めて、その言葉を口にした。



 主任が残りの案内を引き取り、私は会場へ戻った。

 片付けは、もう始まっていた。

 自分の確認を終え、引渡しをする。私は次の紙を開いた。

 誰かの幸せを作る仕事を、私はまだ続けたいと思っていた。

 あの二人がどれだけ後悔したかを、先に確かめなくても、その希望は、残っていた。

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