第25話 結婚式をしますか
十一月三日、二人から戻った書類には、二人の名前があった。
私は事務室で、変更後の内容と、確認された版を照合した。四十五名、総額二百二十万円。選ばなかった追加の項目も、紙へ残してあった。
水野主任が、会社の担当から来た支払いの確認を開いた。
残額二百万円の入金は、確認されていた。既に支払われた申込金二十万円を合わせ、式の費用として、二百二十万円になる。
「この内容で、正式に進めます」
主任が言った。
私は頷き、協力店へ出す変更の連絡を開いた。
二人が選び、会社が確認した仕事を、ここから仕上げる。
その午後、最後の内容を合わせるため、二人が来た。
美緒は変更後の花の写真を持っていた。悠真は友人へ依頼した短い挨拶の返事を、会社の窓口へ送ってあった。
私と主任が向かいへ座ると、彼は先に、来る人へ話しました、と言った。
「内容を少し変えて、食事と、みんなで話す時間を多くするって」
私は承知しました、と答えた。
誰が何と反応したかを、ここで尋ねる必要はなかった。
美緒は写真を机へ置いた。
「私も、写真のことを、前に話した人には伝えました。大きい背景は、やめるって」
彼女は一度、下を向いた。
「気にしなくていいよって、言う人もいました。楽しみにしてるからって」
私ははい、と聞いた。
主任が内容の確認を始め、私は進行案を開いた。
食事の時間。友人の挨拶。二人が席を回り、話す時間。基本の範囲で撮る写真と、映像に使う言葉。
どれも、誰かが後で隙間へ入れればよい物にはしなかった。
「雨の場合は、こちらの案です」
私は別の図を出した。
庭へ出る写真の案を、屋内の窓側へ変える。客を先に庭へ出してから戻すのではなく、案内を変える時点を進行へ入れていた。
花店と撮影側にも、置く物と通る道を確認してもらっていた。
「外へ出られなかったら、港は、あまり見えないんですね」
美緒が言った。
「晴れた時と同じ見え方には、なりません。窓側で、皆様と写る案を、ご確認いただいています」
私が答えると、彼女は図の道を指した。
「ここから、私たちが行く。戻る人は、こっち。前に見た物ですね」
「はい。こちらが、確認した版です」
彼女は小さく頷いた。
悠真が、雨だったら、それでお願いしますと言った。
私は美緒にも確かめ、はい、という返事を聞いてから、確認済みの印を付けた。
彼が一人で答えたので、二人の返事として進めることは、もうしなかった。
残りの項目も、同じように確認した。
何もかも、二人が同時に話すわけではない。片方が先に答えたら、もう片方がどう思うかを待った。
時間は掛かったが、前の打合せのように、答えのない同じところを回り続けることは、少なかった。
最後に、主任が、実施する意思と費用の確認を読み上げた。
親の援助を含まない、二人が確認した資金で実施する。追加の費用が生じる依頼は、今の総額へ、当然入るものとして受けない。
新たな変更が必要な場合は、会社の窓口を通し、可能な範囲と費用を改めて確認する。
悠真も、美緒も、了承した。
「この内容で、結婚式を実施されますか」
主任が尋ねた。
悠真が、します、と答えた。
美緒も少し間を置き、します、と返した。
私はペンを持ったまま、二人を見た。
あれだけ言い合って、説明が食い違って、それでも今ここで式を選ぶ。
私なら、同じ選択をしないと思った。
だからといって、この返事を、なかったことにはできなかった。
私は二人から受けた意思として、記録した。
憧れの写真を並べていた時より、二人が何をするかは、はっきりしていた。
それが、この二人の結婚だった。
私の結婚式は、もう、どこにも混ざっていなかった。
見送りの前、悠真が、当日はよろしくお願いします、と頭を下げた。
美緒も同じようにしてから、少しだけ私を見た。
「きれいに、したいです。今の方でも」
彼女は言った。
私は大丈夫、絶対に一番幸せに見せるから、と返しかけた。
以前なら、頼まれた物以上に、相手を安心させる言葉を足しただろう。
「確認した案で、準備を進めます。当日、どこで何をするかも、またご案内します」
私は答えた。
美緒は頷き、悠真と一緒に帰った。
会社から協力店と各担当へ、正式な連絡を出した。
小野さんは、花の範囲と搬入する時刻を確かめた。紙を作る店は、確認された原稿の最終の受渡しを示した。料理、写真、映像、それぞれに、次の返事があった。
私はその予定を、一枚の進行へ合わせていった。
自分が呼べば、誰かが夜中まで動いてくれるとは、考えなかった。
返事が合わないところは、会社の担当と、時間を組み直した。
高瀬さんからも、変更後の範囲を受け取ったと連絡があった。
私は当日使う確認用の図と、撮影する位置の版をそろえて送った。
返事の最後に、当日、始まる前に少しお話しできる時間があればと、書き加えた。
何についてかを迷い、先日の話の続きを、短く、とした。
必要な準備が終わったあと、難しければ別の日に話すつもりだった。
彼からは、準備を終えてからなら、と返ってきた。
私はその返事を、うれしく読んだ。
次に会う時、どちらも同じ席で黙っていればよい、とは思われていなかった。
帰る前、私は最初の企画書を開いた。
三月に出した物と、今、実施する案を並べる。
全部が同じではなかった。店の手間を聞き、会場で置ける場所を確かめ、二人の選ぶ範囲へ変えてきた。
実施できれば、自分の考えた物を、取り戻せると思っていた。
でも、三月の紙を、そのまま現実にしたいわけではなくなっていた。
ここまで、ほかの人と直してきた案を、仕事として仕上げたかった。
主任が、当日の現場の責任を持つスタッフへ、共有する内容を確かめた。
私は自分の担当と、ほかの人へ渡す役割を読み上げた。
当日の全てを私が決めるわけではない。見えたことを伝え、判断を受け、決まった担当が動く。
その中で、自分ができることを、準備しておく。
最終の連絡を送る前に、古い進行案へ、使用しない版と印を付けた。当日の机に違う予定が二枚並び、スタッフが迷うことは、ここで減らせた。
それから一週間後、私的な精算を相談している窓口から、双方が了承した文面が届いた。整理する内容と金額、支払う期日を、別の経路で確認した物だった。
私は自分の控えを確かめ、式の書類とは別に保管した。式を続ける返事の代わりに、精算の返答をもらったわけではなかった。
その確認を終えてから、手帳の十一月十六日を開いた。
相手が後悔する日、と書いたことは、一度もなかった。
でも、頭の中では、そういう日になればよいと望んだことがあった。
今日は、式の開始前に確かめる物を、順に書いた。
最後の行に、持ち帰る物を確認、と入れた。
終わったあと、私は自分の仕事を持って、帰る。




