↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの結婚式、私が最高に幸せにしてあげる  作者: 雨宮 弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

第24話 私への謝罪は、別の話です

 謝罪の言葉は、変更後の見積の上に置かれた。

 十月三十日、リーヴェルの相談室で、私は悠真の返事を待っていた。水野主任が隣にいて、机には、二人へ確認してもらう書類があった。

 今日は、美緒は来ていなかった。会社から説明した内容について、悠真が確認したいと申し込んだ時間だった。



「紗季には、悪かったと思ってる」


 彼は紙へ向いたまま言った。

 私は彼の顔を見た。

 主任が話す前に、悠真は続けた。


「仕事のせいにしたのも、よくなかった。忙しかったからって、ああいうふうに言うことは、なかったと思う」


 私は返事をしなかった。

 聞きたかった内容だった。

 だからこそ、今、その言葉がどの用件へ続くのかを、聞かずに受け取るのが怖かった。



「今日、そのお話をされるのは、どの確認のためでしょうか」


 主任が尋ねた。

 悠真は顔を上げた。


「このまま、ぎくしゃくしてると、式の準備も、やりにくいと思うので」


 私は膝の上で、両手を重ねた。

 彼は前より、言葉を選んでいた。けれど謝れば、私がまた仕事をしやすくしてくれるという順番は、残っていた。


「私への謝罪は、式の確認とは、別のお話です」


 私は答えた。


「こちらで必要な準備は、契約と、確認された内容に沿って進めます。私が、個人的な話を許したかどうかで、変える仕事ではありません」


 悠真は許すって、というように小さく首を振った。


「そこまで、大きな話にしたいわけじゃなくて。普通に、前みたいに話せればと思って」


「私は前の関係へ戻すつもりはありません」


 私は伝えた。

 彼は黙った。

 あの広場で言ったことを、もう一度仕事の机でも言うことになった。



「私的な精算については、相談している窓口から、文面をお送りしています」


 私は続けた。


「そちらへの返事は、そちらへお願いします。式の追加を引き受けることや、費用の案を変えることと、交換するつもりはありません」


「その話も、今は、式のことで出ていく分があるから、少し考えてほしいんだよ」


 彼は言った。

 主任が、その内容は会社の業務ではお受けできません、と答えた。

 私は彼を見た。


「今、式で何を選ぶかは、美緒さんと確認してください。私との話に使っている窓口へ、式の仕事の条件を持ってこないでください」


 声が少し強くなった。

 私はそれ以上、言葉を重ねないよう、息を吐いた。

 彼の支払いが大変になることを喜ぶために、精算を続けるのではなかった。私が失った物について、別に返事をする必要がある。

 それは、今の式を円滑に進めるための謝礼でも、誰かに勝った証拠でもなかった。


 悠真は分かった、と答えた。

 それから、目の前の紙を見直した。


「じゃあ、こっちの式は、本当に、この金額でいいんだね」


 私は主任へ目を向けた。

 業務の返事へ戻る時だった。



 主任が、変更後の案を説明した。

 四十五名で、基本の内容と、選んだ紙や包装の追加を含む総額二百二十万円。申込金二十万円は支払済みで、残額は二百万円になる。

 選ばなかった追加は、正式な手配へ進めない。

 新郎新婦が二人で内容を確認し、会社へ承認と支払いの確認を返す。

 期限は、十一月三日だった。


「これから、もう少しだけ花を増やしたいとか言われても、難しいんだよね」


 悠真が言った。

 主任は内容によって確認が必要ですが、今の総額のまま増やせるとはお約束できません、と答えた。


「美緒が、また言い出すかもしれないから」


「その時は、お二人の希望として、期限の前にご連絡ください。こちらが美緒様を説得して、朝倉様の代わりに決めることはできません」


 主任の声は、変わらなかった。

 私は手元の記録へ、今回確認した内容を入れた。



「分かりました。二人で、返します」


 悠真は答えた。

 私はこちらでお待ちします、と返した。

 その文なら、仕事の相手へ、自然に言えた。



 彼が帰ったあと、私はすぐには椅子から立てなかった。

 主任は紙をまとめながら、少し休みますかと尋ねた。

 私は頷いた。


「謝ってほしかったんです」


 口へ出すと、思っていたより、弱い声だった。


「今日、仕事のせいにしたのは間違いだったと、言いました。それは、聞きたかった言葉でした。でも、続きに、前みたいにと言われると」


 私は目を伏せた。

 謝罪を受け取れば、そのまま手を差し出さなければいけない気がした。やっぱり紗季は分かってくれると、彼が笑うところまで、戻されるようだった。


「言葉を聞いたことと、頼みを受けることは、同じではありません」


 主任が答えた。

 私は頷いた。


「聞きたかったから、何でも受けるところへ戻るのは、嫌でした」


「今日は、その返事をされました」


 主任はそこまでを確かめた。



 私的な窓口へは、帰宅してから連絡した。

 式の業務の席で、精算にも関わる話を持ち出されたが、別に返答を求めたことを伝える。

 会社の資料を添えて、相手の懐具合を説明することはしなかった。自分が相談している内容に必要な範囲を、確かめて送った。

 そこで使う書類と、式の見積は、別の場所へ置いた。

 私の携帯の中では、どちらの連絡も同じ画面に出る。

 だからこそ、自分が返事をする時に、混ぜない必要があった。


 送ったあと、私は夕食の支度をした。

 米を炊く間に、野菜を切った。包丁を持っていると、さっき言われた文が、短く戻ってきた。

 普通に、前みたいに。

 あの頃、私が思っていた普通と、彼が求めていた普通は、同じではなかったのだろう。

 今、それを全て確かめ直すために、また二人で暮らしたいとは思わなかった。



 食事を終える頃、会社の窓口に、高瀬さんから確認が来たという共有が入った。

 私はすぐに返信を作るのではなく、明朝、会社で返す用件かを確かめた。

 変更後の範囲の正式な連絡を、待っているという内容だった。未承認の物を、先に作り始めているわけではない。

 朝に返す予定へ入れ、画面を閉じた。


 高瀬さんと話すなら、今日は何を言いたいだろう。

 私は自分へ聞いた。

 悠真に何と言い返したかを、順に聞いてもらいたいのか。もっとはっきり言ってよかったと、味方をしてもらいたいのか。

 少しは、あった。

 でも、それだけではなかった。

 仕事で見た彼の手元や、今日、何を食べたのかも知りたかった。本人が話したいことを、私も聞きたかった。

 高瀬さんを、自分の悔しさを置くためだけの席にしたくはなかった。


 次に話せる日に、こちらから、何が食べたいですかと聞いてみようと思った。

 いつも聞かれる方だった。その返事を、私が先に待つこともできる。

 私は携帯を机へ置き、食器を洗った。



 乾いた皿を棚へ戻し、自分の予定を開いた。

 十一月十六日までは、まだ仕事がある。その後にも、片付けと報告がある。

 全部がなくなる日を待ってから、誰かと話す予定を考えるのは、やめたい。

 私はその月の休日に、一つ、短い印を付けた。

 誰かへ渡す返事とは別に、今の私が空けたい時間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。