↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの結婚式、私が最高に幸せにしてあげる  作者: 雨宮 弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/30

第20話 本当の見積書

 最終の希望を入れた見積は、二百九十万円だった。

 十月二十一日、私は水野主任と、事務室で内訳を照合していた。出欠の返答を反映し、出席者は四十五名になっていた。

 最初の想定は六十名だったが、遠方の親族や、予定の合わない友人から欠席の連絡があった。

 料理や人数に関わる分を改めると、基本の案は二百十万円になった。

 そこへ、二人の希望する追加を入れる。

 八十万円分あった。


「ここは、全部、まだ候補ですね」


 私は追加の欄を示した。

 主任が頷いた。


「正式に頼むかどうかを、最終の場で決めてもらいます。今ある契約の範囲と、重ねて二度計上していないかも、見てください」


 私は項目を上から読み直した。



 花の背景を大きく変える案は、十八万円の追加だった。

 映像と写真の追加の制作は、合わせて二十万円。別に希望する演出が十二万円。衣装に合わせた追加の手配が二十万円。席札や贈り物の包装を変える案が、十万円だった。

 私はそれぞれの見積元と、確認した日を照合した。

 どれも、美緒が一人で望んだ物としては並べなかった。悠真が希望した演出も、写真を増やしたいと言った部分もあった。

 二人が、これがあればうれしいと答えた物だった。


 基本の案に入っている花の写真を、横へ置いた。

 小野さんが、背景を増やさなくても、明るさの印象を残せるよう考えた物だった。大きな案をやめたら、花が何もなくなるわけではない。

 高瀬さんからは、追加の制作を入れない場合に、どこまで残せるかの説明が来ていた。

 私はその範囲を、短い一文で示した。


「削ると、全部なくなるように見せたくないです」


 私が言うと、主任は紙をこちらへ寄せた。


「そのために、元の範囲を書きましょう。ただ、残せない物まで、できるように見せないこと」


「はい」


 私は説明を直した。

 会社や協力店が、費用の違いを、自分たちの無理で埋める案にはしなかった。



 次の紙は、支払いの確認だった。

 総額には、既に支払われた申込金二十万円を含む。希望を全部入れた場合、残りは二百七十万円になる。

 いくら支払われ、いくらがまだなのかを、分けて表示した。



「お二人から、資金について、新しい返事は来ていますか」


 私が尋ねると、主任は確認の記録を開いた。

 悠真からは、家族にも相談するという返事。美緒からは、親が出す分を含めて考えているという返事だった。

 その親本人が了承した額は、まだ確認できていなかった。


「合同の場で、同じ数字を見ながら確かめます」


 主任が言った。

 私は頷いた。

 三百万円で見てほしい、と悠真は送ってきた。その上限に収まる見積を作れたからといって、払う人まで、決まったことにはならなかった。


 私は二人が今、どれくらいのお金を持っているかを、想像するのをやめた。

 以前の悠真の給料も、貯金の話も、一部は知っていた。今の用意を、それで分かったことにする必要はなかった。

 本人が確認する数字を、待つことにした。



 午後、主任が二人と短く連絡を取った。

 私は隣で、見積の説明に必要な箇所だけを示した。会社の窓口を通じた通話だった。

 二人はそれぞれの場所から、同じ資料を開いた。


「人数が減っても、そのくらいになるんですね」


 美緒が言った。

 主任は基本の案の変更と、追加候補を分けて説明した。


「人数に関わる部分は、反映しています。追加されたい内容を全て入れた場合が、二百九十万円です」


「最初、二百四十万円って」


「六十名を想定した基本の案です。今回は、四十五名で基本の範囲を組み直すと、二百十万円になります。追加候補が八十万円です」


 私は聞きながら、同じ数字を紙へ指した。

 読めば分かるはずだと、思わないようにしたかった。二人が、どの金額を自分たちの式の値段として覚えていたかは、違うかもしれない。


「全部、追加だったの?」


 美緒の声が少し小さくなった。


「これまで、候補としてご説明した物です。元の範囲でもできる案を、一緒に載せています」


 私が答えると、彼女は見ます、と言った。

 悠真は三百万円より下なら、と話し始めた。

 主任が、その金額をご負担される方を、次回、確かめたいと伝えた。


「母も来ます。それでいいですよね」


 彼は答えた。

 私は出席することと、費用を引き受けたことを、また混ぜないよう、記録の欄を分けた。



 通話を終えたあと、主任が、母親への確認を進めた。

 悠真から、本人が参加を了承したと連絡があり、会社で用件を伝える連絡先も受け取っていた。

 私が以前知っていた番号を、使うことにはならなかった。

 主任は参加する時刻を確かめ、当日は、新郎新婦と、支払いの予定について同じ資料を確認すると伝えた。

 私は自分の作業へ戻った。

 通話の途中で、主任が一度、こちらを見た。


「はい。そのご認識も、当日、同じ席で確認させてください」


 彼女はそう答えた。

 私は手を止めたが、会話へ割って入らなかった。


 終わると、主任は必要な内容を記録した。

 朝倉恵子さん。夫と一緒に出席可能。費用は、息子たちが自分で用意すると聞いている。

 私は最後の一行を読んだ。

 親が出す分もあると、美緒は言った。

 息子たちが出すと、母親は聞いていた。

 同じ式に、また違う説明があった。


「まだ、どちらが何を了承したかは、ここで決めません」


 主任が言った。


「はい。同じ席で、確認します」


 私は答えた。

 これで、彼は困るだろう。そう思う気持ちはあった。

 でも、彼の母親が、知らない費用をその場で引き受けさせられないようにすることも、必要だった。



 私は合同打合せで使う資料を、もう一度整えた。

 希望を全て入れた総額。追加を選び直す場合の基本の範囲。申込金を含む支払済みの分と、残額。

 どなたがいくらご負担されますか、という問いを、一枚目へ置いた。

 各項目の横には、二人へ案を渡した日も記した。何を含んだ金額か、前の紙とどこが変わったかを、その場で一緒に戻って確認できるようにした。



 主任へ見てもらう前に、私は手帳を開いた。

 二人が困るところを見たい、と書いたページは、少し後ろにあった。

 今日は開かず、打合せの時刻と、会社側の担当を書いた。

 私が進行を握って、二人の言葉を追い詰める席にはしない。主任が話を進め、私は確認と記録を受け持つ。

 その役割を、もう一度確かめた。


 夕方、悠真から個人宛の連絡は、来なかった。

 来たらどう返すかを、ずっと用意していなくてもよかった。

 私は仕事の画面を閉じ、帰る支度をした。

 二百九十万円という数字だけなら、資料へきれいに収まる。

 そのうち誰が何を引き受けたのかを、次の席で確かめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。