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あなたの結婚式、私が最高に幸せにしてあげる  作者: 雨宮 弦


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16/30

第16話 お母様はご存じですか

 支払う予定だと書かれた人の名前を、私たちはまだ本人の返事として受け取っていなかった。

 十月十一日、事務室で、水野主任が費用の確認記録を開いた。

 悠真から届いているのは、家族へ相談しているという返事だった。美緒の希望する追加の案は増えたが、会社からは、未確認の援助を前提に正式な手配をしないと伝えていた。

 私は各担当から出た案を並べ、決まった物と、候補の物を分けた。


「最終の見積を確認する前に、支払予定者を含めた場を作ります」


 主任が言った。


「ご家族にも、お二人から出席を相談していただくんですね」


「はい。まず、会社から方針を説明します。朝倉さんが話をしたつもりでも、お母様がどこまで了承されているか、同じ席で確かめたいです」


 私は記録へ目を戻した。



 午後の打合せで、主任は二人へ会社の方針を伝えた。

 私たちは相談室の廊下側へ座り、新郎新婦は向かいだった。机には、確認中の追加案と、実施までの予定があった。


「ご家族が費用をご負担される予定と伺っていますので、その方も含めて、ご確認の場を設けたいと思います」


 主任が話すと、悠真は紙の端を押さえた。


「俺が話せば、済むと思うんですが」


「これまで、確認中と伺っています。どなたが、どの金額をご負担になるか、会社として、同じ内容を確認する必要があります」


「決まってないから、待ってくださいって、言ってますよね」


 私は彼の声が少し大きくなるのを聞いた。

 主任は遮らず、最後まで待った。


「はい。ですから、決まっていない範囲は、今も正式な手配へ進めていません。ただ、この先も、いつまでも候補のまま残せるものばかりではありません」


 彼女は予定を示した。

 新郎新婦の選択を聞いてから、制作側へ頼むまでに必要な時間がある。最終の判断を先へ送れば、同じ内容で準備できるとは限らない。

 私は見積を受けた日と、まだ正式に頼んでいない項目を、それぞれ指した。



「お母さんにも、来てもらえばいいんじゃない」


 美緒が言った。

 悠真は隣を見た。


「仕事も、あるし」


「候補日を、聞いてみたら。私も、いつまでも、どこまでできるか分からないのは困る」


 彼女は自分の資料をそろえた。

 私はこの返事を待っていた自分に気づいた。彼がもう、先へ送れなくなるところを見たかった。

 手元の記録へ戻った。



「ご参加が可能か、朝倉様からご相談ください。ご連絡に使う先も、そのうえで、会社へお知らせください」


 主任が言った。

 悠真は少し黙り、それから、分かりました、と答えた。

 私は候補日を二つ渡した。


「どちらも難しい場合は、その旨を、こちらへお願いします」


 伝えると、彼は頷いた。

 美緒が、当日は私も来ます、と言った。

 主任はお二人と、負担されるご予定の方で確認します、と答えた。



 帰り際、悠真が、少しだけ紗季と話しても、と言った。

 私は主任を見た。


「業務のお話でしたら、こちらで伺います」


 主任が答えた。

 彼は笑い、そこまでのことじゃないと首を振った。


「昔から知ってるから、説明しやすいと思っただけで」


 私は鞄を持つ手を、自分の横へ戻した。

 親族への説明を頼まれた日のことを、覚えていた。


「お仕事の用件は、会社の窓口へお願いします」


 私が言うと、彼は分かったって、と短く答えた。

 美緒は少し先のロビーで待っていた。悠真が近づくと、携帯を鞄へ入れ、二人で出口へ向かった。

 私は追いかけなかった。

 主任と相談室へ戻り、今日の確認を記録した。



 事務室には、ほかの式の資料も届いていた。

 私は自分が受け持つ別の確認を一つ済ませた。こちらの二人は夕食の時間をゆっくり取りたいので、友人の出番を一つ減らしたいと伝えてきていた。

 何かを減らせば、それで残念な式になるわけではない。

 そういう返事を、私は仕事の中で何度も見てきた。

 悠真と美緒にも、減らす物を自分たちで選んでもらうことになるかもしれない。

 その時、私がうれしそうな顔をしないように、ということだけを目標にはしたくなかった。

 何を残したいか、聞けるかどうかを考えた。


 高瀬さんからは、予定どおり、素材の確認事項が来た。

 私は仕事の範囲を返し、主任へ共有した。

 前の週、言い合いになったことは、その文にはなかった。彼が私をどう思っているかも、そこからは読めなかった。

 丁寧な返事が来ると、以前より遠くなった気がした。

 丁寧でなくなれば、きっと、それも気にしただろう。

 私は画面を閉じた。

 今は、仕事の返事を、私的な気持ちを測る道具にしない方がよかった。



 会社を出る前に、悠真から個人の連絡先へメッセージが来た。

 見慣れた名前が、自分の携帯の上にあった。

 私はその場で開かず、まず、手元の資料を片付けた。読む前から仕事の続きとして扱ってしまえば、また、自分だけで返す理由を探してしまう。


 外へ出てから、本文を開いた。

 そんなに、難しくしなくてもいいと思う。母も、紗季なら分かると思ってるから。

 私は一度、携帯を伏せた。

 誰が何を思っているかを、また、彼が代わりに伝えてきた。


 返事は、会社の窓口へ用件を送ってほしいという内容にした。

 私的な話なら、何についてか先に知らせてほしい、とも書いた。

 送ってから、仕事に関わる依頼が個人宛に届いた旨を、主任へ必要な範囲で報告した。



 電車を待っている間に、また届いた。

 仕事の話じゃない。紗季とは、ちゃんと話した方がいいと思ってる。

 私はその文字を見た。

 五月、私が、ちゃんと話したいと伝えた時、彼はもう話すことはないだろうと言った。

 あの時の返事を、そのまま返したくなった。

 でも、指を動かさなかった。


 用件を先に、と、もう一度だけ送った。

 次の返事は、少し時間を置いて届いた。

 昔みたいに、落ち着いて話せたらと思っただけ。


 駅へ電車が入ってきた。

 私は携帯をしまい、列の前の人に続いた。

 昔みたいに、と言われても、どの頃かを、私はもう選べなかった。

 彼が望んでいるのは、私が何を言っても、最後には分かったと答えた時間かもしれない。

 そこへ、戻る約束だけはしなかった。


 家へ着いてから、明日、短い時間なら話を聞けると返した。

 式の条件を個人的に調整する話は受けない。先に、その一文を置いた。

 会えば、前よりつらくなるかもしれなかった。会わなければ、自分の中に、彼が何を言うのかを待つ場所が残りそうだった。

 私は話すための時刻と、切り上げる時刻を決めた。

 場所は、人の通る会場近くにした。昔、一緒に行った店を、待ち合わせの候補から外した。

 今度は、彼が終わったと言うまで、座り続けるつもりはなかった。

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