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コスパ最悪な大剣バカ、「効率こそ正義」な現代ダンジョンでロマンを貫く  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第一章 冷めた世界と熱いバカ

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05:見捨てられたSOS

 新宿ダンジョン第四階層『結晶の洞窟』。

 この階層から、出現するモンスターの凶悪さはグンと跳ね上がる。

 薄暗い洞窟内に群生する発光性の水晶が幻想的かつ不気味な青い光を放つダンジョンフロアに、天城海斗の芝居がかった声が響き渡った。


「――さあ来い、岩の巨兵 (ストーンゴーレム)! この天城海斗が、お前たちのその堅牢なる誇りを真っ向から砕いてみせよう!」

『バカ海斗! 岩石相手に真正面からぶつかってどうするの! 関節の駆動系が削れるから、私が指示した通りにコアだけを狙いなさい!』


 大見得を切りながら大剣を構える海斗に、インカム越しに相棒・東雲玲の鋭いツッコミが飛んでくる。しかし海斗はまったく意に介さない、


 前方から地響きを立てて迫ってくるのは、身長三メートルを超えるストーンゴーレムが二体。強固な装甲を持ち、通常のアサルトライフルでは傷一つつけられない中層の難敵だ。


「コアだけを狙うなど暗殺者のやることだ! 英雄たるもの、敵の最大防御を力でねじ伏せてこそ至高ッ!」


 海斗が地を蹴る。重武装でありながら、その踏み込みは常人の目には捉えきれないほど速い。


『あーもう、本当に頭が痛い……! ドローン一号機、二号機、展開! 対象の視界をジャミングしなさい!』


 後方でタブレットを操作する玲の指示により、二機の小型ドローンがゴーレムの頭部周辺に展開する。彼女の指示を受け、強烈なストロボ光と特殊な魔力波を放った。


 ゴーレムたちの動きが一瞬鈍る。

 その僅かな隙を、海斗は見逃さない。


「必殺! 隕石砕き (メテオ・スマッシュ)!!」


 海斗が跳躍し、重力と遠心力をすべて乗せた大剣を一閃。

 一体目のゴーレムの脳天に真っ向から叩き落とした。


 ズガァァァァンッ!!!!


 爆発のような轟音。

 それと共に、とんでもない硬度を誇るはずのゴーレムの巨体が、頭部から股下まで文字通り真っ二つに叩き割られる。


 破片が飛び散る中、海斗は着地の勢いのまま、二体目のゴーレムへ向けて剣を薙ぎ払おうとする。


『ストップ! そのまま横薙ぎにしたら背中のマントが邪魔で0.2秒遅れる! 左にステップを踏んでから下段を狙いなさい!』

「むっ、了解だ名軍師!」


 玲の『絶対演算 (システム・アナライズ) 』に裏打ちされた完璧な指示。

 それを受けて海斗は即座に左へステップを踏み、ゴーレムの丸太のような腕の薙ぎ払いを紙一重で躱す。

 そして、無防備になったゴーレムの膝下へ下段からの斬り上げを放った。


「大地割 (アース・ディバイド) ッ!」


 海斗の大剣が振り抜かれると同時に、岩の巨体の両足が切断される。

 バランスを保てなくなってゴーレムの巨体が前のめりに倒れ込む。


『首の付け根! 装甲の薄い部分に魔力が集中してる! そこがコアよ!』

「承知!」


 海斗は重装備を感じさせない身軽さでゴーレムの背中に飛び乗り。


「これで終わりだッ!」


 大剣の切っ先を、ゴーレムの首の付け根に突き立てた。


 ガァァァン!!!!


 鈍い音と共に、ゴーレムは光の粒子となって消滅する。

 後には、青白く光る『土の魔石』が二つ、ゴロンと転がった。


「ふぅ……。どうだ玲、今日も完璧な立ち回りだっただろう?」

『……どこがよ』


 海斗は剣を肩に担ぎ直し、架空の風にマントをなびかせるように胸を張った。彼のイメージの中では、洞窟内には存在しない夕陽を背負って決めポーズを取っている。


 もちろん、相棒である玲にはそんなものは見えない。

 彼女に見えているのは、数字という、逃れきれない現実だ。


『ゴーレムを真っ向から叩き割ったせいで、大剣の刃こぼれ率が15%上昇。修理費に見積もり三万円。無駄なジャンプと着地の衝撃で、膝のサスペンションの耐久値も削れたわ。今日のドロップ品の相場を合わせても、また赤字よ』


 玲はタブレットを見つめながら、胃のあたりをさすった。

 いつものことと言えばその通り。だが日常茶飯事だからといって、彼女の胃への負担が和らぐというわけではなかった。


『アンタのその無駄に派手なアクションのせいで、私の胃薬代も経費に乗せたい気分よ』

「ははは! 英雄には多少の出費はつきものだ。それに、あの見栄えなら、もし配信していればスパチャで大儲けだったぞ!」

『誰もアンタの時代遅れのチャンバラなんて見ないわよ。今の主流は、ノーダメージでいかに効率よく狩るかのRTA (リアルタイムアタック) なんだから』


 玲の言う通り、世のトレンドは『効率』である。いかに実力があったとしても、『無駄』の多いものは好まれない傾向にある。


 海斗の戦闘能力自体は、中層レベルなら一切引けを取らない。

 ――いや、むしろ規格外に高い。

 だが、モンスターとの一戦一戦に『ロマン』と『美学』を求めるため、消費するコストが他の探索者の比ではないのだ。


 玲が何度となく、口を酸っぱくして言っていること。だが彼女がどれだけ言おうが、海斗は馬耳東風とばかりに受け流すばかり。

 玲は溜め息を吐きながら、魔石を回収した。


 その時。

 前方の通路から、五人組の探索者パーティが歩いてくるのが見えた。彼らは最新式の魔導アサルトライフルと、軽量で強固な合成繊維の防護服を身につけている。いかにも『現代の効率的な探索者』という出で立ちだった。


「おや、有名な大剣バカじゃないか。こんな下層で何やってんだ?」


 あちらの方も海斗たちに気がついた。パーティのリーダー格の男が、海斗を見てニヤニヤと笑いかける。

 玲は、自分たちに向けられたその態度にムッとする。

 一方で海斗の方は、まったく気に留めることもなく返事を返す。


「奇遇だな、同士よ。俺たちは今から第五階層の『竜の巣』へ向かうところだ」

「竜の巣? やめとけやめとけ。お前みたいな前時代的な装備じゃ一瞬で溶かされるぜ。俺たちでさえ、今日はもう『損切り』して帰るところなんだからよ」

「損切り?」


 装備や探索者としてのスタンスをからかわれるのは、言ってしまえばいつものこと。しかし、この時は引っ掛かる言葉があった。

 海斗が首を傾げると、男は親指で背後の通路を指さした。


「ああ。この先のエリアでさ、どっかのバカな初心者パーティが、ホブゴブリンの群れに囲まれてやがんの。たぶん道に迷って、上の階層から落っこちてきたんだろうな」

「なんだと!? それは一大事じゃないか! なぜ助けなかったんだ!」

「助ける?」


 海斗が思った以上のアクシデントだった。彼は思わず声を荒げる。

 だが男は、まるで可哀想なものを見るような目で海斗を見た。


「ハッ。なんで俺たちがそんな『割に合わない』ことしなきゃなんねえんだよ」

「なんだと……?」

「考えても見ろよ。あんな群れの中に突っ込んだら、こっちの弾薬代がいくら飛ぶと思ってんだ? 助けたところで、あんな初心者連中から礼金なんて取れるわけねえ。完全に赤字確定のボランティアじゃねえか」


 男は肩をすくめ、吐き捨てるように言った。

 さも当然のことのように。

 なにも間違っていないとばかりに。


「それに、自分の力量も見極められずにこんな階層まで落ちてくる方が悪いんだよ。この世界は『自己責任』だろ? リスク管理もできないバカは、ここで間引きされるのが自然の摂理ってやつさ」


 その言葉に、玲は内心で同意してしまう。彼女の『絶対演算』もまた、男たちの判断が「社会的に100%正しい」と肯定していた。

 他人のために命と経費を捨てるのは、現代社会において最も忌避される愚行とされているのだから。


だが、しかし。


「――貴様らには、血も涙もないのか」


 海斗の声が、水晶の洞窟に低く、そして冷たく響いた。普段の芝居がかった陽気さは消え失せ、その瞳には明確な怒りが宿っていた。

 だが男は、その視線を受けても身じろぎさえしない。


「血も涙もない? おい、いつからダンジョンはおとぎ話の世界になったんだよ。実力を見誤ったバカは死ぬ。前準備を怠った奴は死ぬ。装備をケチったバカも死ぬ。義侠心に駆られた無鉄砲な奴も、もちろん死ぬ。損得勘定の出来ない奴は、ダンジョンでは死ぬことになる。痛い中二病は家でやってろっての」


 男は、突っ掛かってくる海斗を鼻で笑った。


 次の瞬間。

 海斗は彼らを突き飛ばすようにして、通路の奥へと駆け出した。


「海斗! 待ちなさい!」


 玲が慌てて後を追う。


「バカじゃねえの。あいつ、マジで死ぬ気かよ」

「放っとけ放っとけ。どうせあの大剣ごとミンチにされるのが関の山だ。俺たちはさっさと安全圏に帰ろうぜ」


 背後から聞こえる、探索者たちの舌打ちと嘲笑。

 玲は、彼らの言葉は正しいと理解できる。


 だが。

 理解しながらも、足を止めることはできなかった。


 前を走る海斗の背中のマントが、青い水晶の光を受けて、まるで本物の英雄のそれのように翻っている。


「……本当に、救いようのないバカなんだから!」


 玲は悪態をつきながら、タブレットの電源を最大出力に切り替えて、不慮の事態に備える。

 そして、感情のまま走る海斗の背中を追って、水晶の洞窟の奥へと飛び込んでいった。



 -つづく-

次回、第6話。「非効率な美学」。

ヒーローになる時、それは今。


ブックマークや評価、感想などいただけると嬉しいです。

また、この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。

よろしければそちらもご覧ください。

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