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コスパ最悪な大剣バカ、「効率こそ正義」な現代ダンジョンでロマンを貫く  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第二章 ロマンと効率の衝突

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11/18

11:奪われる狩場

 海斗たちの本拠地であるボロアパートの一室。そこにはタブレット端末、紙の地図、装備品のパーツなどが散乱していた。


「……よし、これでいけるわ」


 徹夜明けで目の下に隈を作った玲が、タブレットの画面を指差した。画面には、ギルドの公式アプリには載っていない、新宿ダンジョン第四階層の詳細な3Dマップが表示されている。


「私の『絶対演算 (システム・アナライズ) 』と、裏ルートから買い取った情報、それに過去の探索者の遭難データを照らし合わせて導き出したわ。ロジカルズが独占しているメインルート以外にも、第五階層『竜の巣』へ通じる隠し階段が存在する確率……99.8%よ」

「おおっ! さすが我が名軍師! これで忌々しいロジカルズの連中の顔を見ずに、真っ直ぐ未知のロマンへ直行できるな!」


 海斗は満足げに大きくうなずきながら、玲の前に淹れたばかりのお茶と豆饅頭を置く。心身共に疲れ果てていた玲は、ごく自然に湯のみを手にしてお茶を飲み干した。熱さを抑えたお茶が喉を温め、身体に染み渡るような感覚に精神までゆるんでいく。玲は続けてエネルギー補充とばかりに豆饅頭に手を伸ばした。


 今回の探索に向けて、二人は徹底的な準備を行った。海斗の大剣は、ありったけの資金 (もちろん借金) を注ぎ込んで最高級の研磨と魔力コーティングを施した。玲のドローンも、深層の電波障害に耐えられるよう改造されている。


 情報と装備のアップデートにより、玲の計算上でも「海斗の基本スペックなら第五階層の入り口までは到達可能。もし『ロマン・プロトコル』が発動すれば、中ボス級とも互角以上にやり合える」という結論が出ていた。


「海斗、いい? 今回は未知のエリアの『踏破 (マッピング) 』が第一目標よ。無駄な戦闘は避けて、とにかく奥へ進むこと。ロマンのためとはいえ、わざわざ強い敵を呼び覚ましたり、名乗りを上げたりするのは極力控えてよね」

「任せておけ! 冒険者は時に隠密行動もこなすものだ!」


 どこまで本気か分からない海斗の返事に、玲は深く溜め息を吐いた。

 これもいつものことだ。まぁ、どうにかなるだろう。

 彼女はかじった豆饅頭の残りを口に入れ、お茶で流し込んだ。




  ◇   ◇   ◇




 仮眠を取って、数時間後。

 新宿ダンジョン第四階層『結晶の洞窟』。意気揚々と足を踏み入れた海斗と、緊張で少し表情を硬くしている玲は、階層内のメイン通路を外れた洞窟の暗がりを縫うようにして進んでいた。


「……おい玲。なんで俺たちは、こんなコソ泥みたいに身を屈めて歩かなきゃならないんだ? 冒険者たるもの、堂々と胸を張って――」

「バカッ、声が大きい! ロジカルズの連中に見つかったら面倒なのよ。それに、時には隠密行動も必要って言ってたのはアンタでしょ」

「んむぅ……」


 不満げな海斗を、玲が小声で叱責する。


 周囲の状況は、数日前よりもさらに悪化していた。第四階層のほとんどがロジカルズの『工場化』の波に飲み込まれており、至るところに監視カメラ付きの自動迎撃タレットが設置されている。ロジカルズに益のない行動をする者がいれば容赦はしない、という意思が見て取れた。


 フリーの探索者が皆無というわけではない。だが彼らは皆、ロジカルズの作業員たちの目を気にしながら、指定された狭い安全エリアでコソコソとゴミ拾いのような採取をしているだけだ。


「おい、そこ! 立ち入り禁止区域だぞ!」

「ふざけんな! ここは昔から俺たちの狩場だったんだよ!」


 少し離れた場所で、怒号が響いた。

 ロジカルズの警備員たちと、それに抗議するフリーの探索者グループが小競り合いを起こしている。しかし、警備員たちが手にした最新式のスタンガンや武器、威圧的な態度を前に、フリーの探索者たちはすぐに萎縮する。そして逆らいきれずに、力ずくで追い払われてしまっていた。


「……見なさい。あれが『効率』に逆らった者の末路よ。私たちもあんな風に排除されたくなかったら、おとなしく隠しルートを進むしかないの」

「……あぁ」


 海斗は悔しそうに大剣の柄を握りしめながらも、玲の指示に従って暗がりを進んだ。

 彼にとって、ダンジョンは夢とロマンが詰まった場所だった。それが今や、大企業の私有地のように管理され、弱者が排除される息苦しい空間になり果てている。

 その不快感を振り払うように、海斗は前を見据えた。


(待っていろ、第五階層。俺が必ず、ダンジョン本来の『冒険』を取り戻してやる……!)




  ◇   ◇   ◇




 玲のナビゲートにより、二人はロジカルズの監視網をすり抜けながら先を急ぐ。普段よりもはるかに時間を掛けて、第四階層の最果て、ひときわ巨大な水晶の群生地へと到達した。


「……あったわ」


 玲が指差した先。巨大な水晶の裏側に隠れるようにして、地下へと続く古びた石階段が存在していた。ギルドの公式マップには記載されていない、第五階層への隠しルートだ。


 だが、二人の顔は喜びに満ちてはいなかった。階段の周囲には、すでに真新しいバリケードの資材が積み上げられ、立入禁止を示す黄色と黒のテープが張り巡らされようとしていたからだ。封鎖作業が行われる寸前だったと思われる。 辛うじてまだ人が通れる隙間はあるが、さほど時間を置くことなく塞がれてしまうだろう。


「くそっ、こんな場所まで奴らの手が回っているのか……!」

「急ぎましょう。封鎖作業員が戻ってくる前に、ここを抜けるわよ」


 海斗が悪態をつき、そんな彼を、玲が小声で促す。

 二人は階段へ向かって足を踏み出そうとした。

 その時だった。


「――おやおや。ネズミが紛れ込んでいると思ったら、先日ゲートで騒いでいた『時代遅れの大剣使い』じゃないか」


 ダンジョンの暗がりから、ひんやりとした冷たい声が響いた。

 積み上げられた資材の影から、ゆっくりと、何者かが姿を現す


 仕立ての良いグレーのスーツに、銀縁眼鏡をかけた男。

 先日、メインゲートで海斗たちを見下したロジカルズのエリート小隊長・霧島だった。


「お前は……霧島!」


 海斗が即座に大剣の柄に手をかける。

 玲もタブレットを引き寄せ、警戒態勢を取った。

 そんな彼らを警戒する様子もなく、霧島は階段の前へと歩み寄る。二人をこれ以上先には進ませまいとするように。


「こんな未踏破エリアの封鎖作業に、小隊長自ら出張るとはね。よっぽど暇な企業なの?」


 玲が半笑いで、皮肉を口にした。

 だが霧島は眼鏡を押し上げながら、薄く笑うばかり。


「不確定要素の排除も私の仕事だからね。君たちが裏ルートから非公開情報を買い取ったことも、この隠し階段を目指していることも。すべて私たちのネットワークには筒抜けだったのさ」


 霧島の言葉に、玲は小さく舌打ちしてしまう。 ロジカルズの情報収集能力は、個人の『絶対演算』すらも凌駕する規模だということだ。


「さて、天城海斗くん。君は先日、『計算だけで世界が回ると思うな』と言っていたね」


 霧島は革靴の踵で、地下へ続く階段の縁をコツンと叩いた。


「だが、現実はこれだ。君たちが懸命に作ったであろう『夢の冒険への計画』も、我々ロジカルズの徹底した情報管理と資本力の前には、こうして簡単に封鎖されてしまう。君たちの目指す『ロマン』など、我々のマニュアルの前では、ほんの小さなバグにも満たないのさ」


 積み上げられている資材の奥から、重武装のロジカルズ警備員たちが音もなく姿を現した。規律正しく動き、装備が擦れて鳴る音も最小限。油断も隙も皆無な警備員たちが、霧島の前に立ち、階段への道を完全に塞ぐ。


 数的有利。

 圧倒的な戦力差。

 そして、逃げ場のない現実。


 霧島は一歩前に歩み出て、それらを背にして海斗たちと相対する。


「さぁ、お帰り願おうか。ここは我々ロジカルズが『管理』する区域だ。君たちのような非効率なピエロが、立ち入る隙間はない」


 冷酷な宣告が、水晶の洞窟に響き渡った。

 玲の『絶対演算』は、ここで強行突破を図った場合の勝率を『1%未満』と弾き出している。

 絶望的な数字。

 どう考えても、ここは引くしかない。


 しかし、天城海斗の判断は違った。その瞳の奥にある『ロマンの炎』を一切消すことなく、むしろ不敵な笑みを浮かべた。


「――管理する区域だと? 笑わせるな」


 海斗の声が、強い想いの乗った瞳が、真っ直ぐに霧島を射抜く。


「ダンジョンは、誰かのマニュアルで縛れるような安い舞台じゃない。俺たちの『最高の冒険』は、お前らのバリケードごときで止められるものか!」


 一触即発の空気。ロマンと効率、決して交わらない二つのイデオロギーが、ダンジョンの深淵の入り口で激しく衝突しようとしていた。



 -つづく-

次回、第12話。「対極にある信念」。

理解と納得は必ずしもイコールで結ばれるわけではない。


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また、この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。

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