15.探偵はオカマバ-にいる
はい、アコーリスのマスターよ。
ネロが新宿からいなくなってひと月経った。
半グレ共はまだいるんだけど、まるでいなくなったみたいに大人しくなった。やっぱりネロがほぼ一人で仕切ってたみたいね。仕切り役がいなくなればこんなもんなのかしら。花も持ってこなくなったわ。
襲撃事件で離れていたお客さんも戻って来た。ダンタリオンちゃんもまた飲みに来るようになった。でも今日はひとりよ。
カイラちゃんはどうしたのかって?
◇
カイラちゃんは今日はカウンターの中よ。
あれから週に二日、バーテンダーとしてアコーリスで働いてもらってるの。それもただのバーテンダーじゃないわ。彼女、放浪中にフレアを覚えてきたから、それを披露してもらってる。そう、フレアバーテンダーなのよ。
◇
「フレアバーテンダーって何?」
ダンタリオンちゃんが私に質問する。
「音楽に合わせて、酒の瓶をお手玉みたいに投げたりしながらカクテルを作るバーテンダーのことよ。」
「まだ見たことないわ。」
「じゃあ、見てみる?何か注文してくれたらカイラちゃんがそれをフレアで作るわよ。」
「じゃあね、マルガリータを。」
「わかったわ。」
カイラちゃんに注文を伝えると、私は音楽をかける。パコ・デ・ルシアの古いアルバムから、この曲を選んだ。
「あなたのそばに」
◇
短い前奏の後、激しいパルマが始まる。
パン・パン・パン・パン………
それを追いかけるようにして、2台のギターが歯切れのいいリズムと共に、馴染みやすいメロディを奏でる。
曲に合わせて、カイラちゃんがボトルを投げる。初めは1本。やがて2本になり、3本になる。そして次々にシェイカーへと注がれた材料は、カイラちゃんの手の中で激しく振られて、ひとつになる。
カイラちゃんが、出来上がったマルガリータをダンタリオンちゃんの目の前のグラスに静かに注ぐ。
「お待たせしました。マルガリータです。」
ダンタリオンちゃん、それを一口飲む。
「美味しい。」
「ありがと。」
◇
カイラちゃんの探偵事務所も、毎日仕事が入るわけじゃないから、これで稼ぎが補える。私は私で、バーに新しい目玉ができた。実際、お客様も増えたわ。
win-winってやつね。
あ、そうそう。これだけは言っとかないといけないんだった。
カイラちゃんがバーに入る日でも、一ノ瀬探偵事務所に急ぎの相談がある時は、遠慮なく店に電話してちょうだい。取り次ぐわよ。
週に二日、探偵はオカマバーにいるから。
(終)
これにて完結です。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。




