14.カイラの900年(2)
はむ。
カイラ、今度は草餅。
◇
あー、なんか話するだけでもお腹空くわ。
何だったっけ、そう、今度は帰りの話ね。
じつはね、お金は持ってたの。
といっても、クロアチアの古いお金をもってたわけじゃないわ。これやる事を決めてから準備をしていたの。メイプルリーフ銀貨を買って持っていったわ。しばらくはこれをお金に換えて凌いでその間に仕事を探した。銀貨は本物だって証明がしやすいからね。
どうやるのかって?
こうやってね、コインを爪の先でつまんで息を強く吹きかけて、素早く耳に持っていくの。すると、本物の銀貨なら「チリーン」っていう音がするから。
まあでも、転移した日の晩は間に合わないから野宿だったけどね。
◇
私は港町の酒場で働きながら、お金を貯めては移動して次の街へ行った。それの繰り返しね。酒場で働くのはなんか性に合ってたわね。結構楽しかったわ。
でも、魔女狩りが流行するようになってからは用心しながら暮らしたわ。年取らないのがばれないように、10年ごとに住むところを変えたりね。
それさえ気をつけていれば、私達は不老不死だから、時間だけはたっぷりある。もちろん900年後には日本の新宿まで辿り着かなきゃいけないんだけど、それでも時間はたっぷりある。だから、ちょっとずつでもお金を貯めていれば、百年、二百年で結構な額のお金が貯まるの。
それで、西へ西へと移動しながら、ついにポルトガルまで来た時、私は自分の店を開いたの。
うん、ご想像の通り、酒場よ(笑)。
その頃には、長くて暗い中世は終わっていて、魔女狩りの心配は無くなったから、私も少し腰を据えて店をやることにした。まあ、それでも一つの町で商売するのば30年くらいが限度だったけど。
でも、歳を取らない酒場の女主人がいる、って言う噂は、やっぱり立っちゃうの。店を移すたびに、探してやってくるお客さんがいたくらいよ。
ずっと港町を渡り歩いてたから「港町のカイラ」って呼ばれてたわ。今で言う「都市伝説」みたいな感じね.。「きさらぎ駅」とか「8番出口」かしら(笑)。
そのうちヨーロッパで戦争が始まったのをきっかけに、私はアメリカに渡った。といっても南米だけどね。アルゼンチンにいたわ。
で、やっぱり酒場を開くの(笑)。
それから第二次大戦があって、戦後、世の中が落ち着いたころを見計らって日本に渡った。
日本に渡ってからは、いろんな仕事をやった。探偵事務所でも働いたのよ(笑)。勿論酒場でも働いた。フレアバーでも働いて、フレアもできるようになったのよ。どうよマスター雇わない?
そして、900年経って、あの日がやって来た。
私が「アコーリス」から転移した日時はちゃんと記録して忘れないようにしていたから、私が転移した時刻の直後に店に入ったの。タイミングを間違えると、私が二人いることになっちゃうからね。
そして、店に入って「ただいま」って言ってみたの。内心、「どちら様?」っていわれるんじゃないかってビクビクしながらね。
はい、私の物語は以上よ。
◇
みんな、泣いちゃった。
カイラは淡々と話したけれど、その900年の旅がどれ程大変だったか、どれ程心細かったか。それを想像すると、涙が出て来て止まらなくなった。カイラも、「寂しかった」って言ってたしね。
でも、カイラは私たちのことを忘れなかった。ちゃんと帰って来てくれた。それがとても嬉しかった。
「おかえり、カイラ。」
「お帰り。」
「おかえり。」
「大変だったね。」
みんな、それぞれの想いを込めてカイラに声を掛けた。
カイラ、栗饅頭を食べながら、また泣いちゃった。
次回で完結です。




