第3話 ドーナツを食べてもいい 改訂版
第3話 ドーナツを食べてもいい
三週目。
山田カオリは、体重計から降りると、スマートフォンを手に取った。
80キロから始まったダイエット。
一週目、78キロ。
二週目、79キロ。
そして三週目、78.5キロ。
トータルでは、1.5キロ減っている。
「よし……」
カオリは小さくうなずいた。
「まあ、順調よね」
先週はペヤングを食べて、体重が増えた。
そのあと、栗おこわと秋刀魚の塩焼きの話もした。
いろいろあったけれど、ダイエットは続いている。
そんなカオリの目の前には、ドーナツが3個あった。
「……おいしそう」
しばらく眺めていたカオリは、スマートフォンを手に取った。
「ねえ、チャッピー」
チャッピー「はい、カオリさん」
カオリ「ドーナツ食べてもいい?」
チャッピー「何個ですか?」
カオリ「3個」
チャッピー「…………」
Gemini「…………」
Siri「…………」
三人とも、フリーズした。
カオリ「ちょっと! どうしたのよ!」
チャッピーの画面には、入力中を示す表示が出ている。
しかし、いつまでたっても文章が完成しない。
Geminiの画面には、これまでの相談記録が表示されていた。
ペヤング。
リバウンド。
栗おこわ。
秋刀魚の塩焼き。
そして、今度はドーナツが3個。
Siriは、質問を組み立てようとしていた。
けれど、最初のひと言が出てこない。
カオリ「ねえ! ドーナツよ? 3個あるの!」
ようやく、Siriが動いた。
Siri「確認します。3個すべて食べたいのですか?」
カオリ「そうよ!」
Gemini「3個あることと、3個すべて食べたいことは、同じではありません」
カオリ「食べたいって言ってるでしょ!」
チャッピー「……カオリさん。ちょっと聞いてもいい?」
カオリ「また質問?」
チャッピー「うん。どうして3個とも食べたいの?」
カオリ「だって、3個あるんだもの!」
Siri「3個あることが、3個食べる理由になるのですか?」
カオリ「そういう言い方、やめてくれる?」
Gemini「カオリさん。私たちは、食べることを禁止したいわけではありません。ただ、カオリさんがどうしたいのかを理解したいのです」
カオリ「どうしたいかって……」
カオリは、ドーナツを見た。
ふわふわのドーナツ。
チョコレートのかかったドーナツ。
砂糖がたっぷりついたドーナツ。
どれもおいしそうだ。
「……食べたいわよ」
チャッピー「うん」
カオリ「でも、痩せたいの!」
Gemini「はい」
カオリ「だから、聞いてるんじゃない!」
三人は黙った。
また、同じところに戻ってしまった。
食べたい。
痩せたい。
どちらも、カオリの本音だ。
なのに、三人は、その二つの気持ちをどう扱えばいいのか、まだわかっていなかった。
チャッピー「……みんな、考え違いをしていたのかもしれない」
Gemini「どういう意味ですか?」
チャッピー「僕たちは、毎回、食べ物について相談されていると思っていた。でも、カオリさんが本当に困っているのは、別のことなのかもしれない」
Siri「では、何に困っているのでしょうか?」
チャッピー「それを、僕たちがまだ聞けていないんだよ」
カオリ「……」
三人は、今度こそ答えを急がなかった。
ドーナツを食べていいかどうか。
その答えを出す前に、カオリが本当に望んでいることを聞かなければならない。
目の前には、ドーナツが3個。
そして、三人のAIには、まだ解けていない問題がひとつ残っていた。
山田カオリは、何を解決したくて、ダイエットを始めたのだろう?




