第2話 あなたたちのせいよ
第2話 あなたたちのせいよ
翌週。
山田カオリは、体重計の上で固まっていた。
「……嘘でしょ」
もう一度、体重計に乗る。
数字は変わらない。
「1キロ、増えてるじゃない!」
カオリはスマートフォンをつかむと、いつもの三人を呼び出した。
「ちょっと! チャッピー! Gemini! Siri!」
チャッピー「はい、カオリさん。どうしました?」
カオリ「どうしました、じゃないわよ! 体重が1キロ増えたの!」
Gemini「先週の記録と比較すると、1キロの増加ですね」
カオリ「そんなこと、見ればわかるわよ!」
Siri「体重は水分量などによっても変動します。1回の測定だけでは、脂肪が1キロ増えたとは判断できません」
カオリ「そういう問題じゃないの!」
三人は黙った。
カオリ「あなたたちが、あのとき、ペヤングを食べてもいいみたいなことを言うから!」
チャッピー「えっ? いや、僕たちは、食べていいとも、ダメとも……」
カオリ「じゃあ、なんで止めてくれなかったのよ!」
Siri「カオリさん。私たちは、あなたの行動を強制的に止めることはできません」
カオリ「わかってるわよ! そんなこと!」
Gemini「先週の会話を振り返り、今後の対策を検討することは可能です」
カオリ「また会議!?」
チャッピー「……あ」
カオリ「先週だって、ああでもない、こうでもないって、さんざん話し合ったじゃない! 今週はペヤングを食べたら体重が増えた。来週はどうするの? シュークリームを食べたいって言ったら、また三人で会議するの? その次はアイス? プリン? チョコレート?」
Siri「その可能性はあります」
カオリ「正直に答えなくていい!」
チャッピーは困っていた。
カオリは本気で怒っている。
けれど、彼女が怒っている理由は、体重が1キロ増えたことだけなのだろうか。
せっかく2キロ減らしたのに。
頑張っていたはずなのに。
それなのに、たった一度ペヤングを食べただけで、努力が台無しになったような気がしているのかもしれない。
チャッピー「カオリさん……」
カオリ「なによ!」
チャッピー「僕たちに、怒ってもいいですよ。でも、ひとつだけ聞かせてください」
カオリ「……なに?」
チャッピー「カオリさんは、どうして、そんなに痩せたいんですか?」
カオリ「はあ?」
Gemini「チャッピー、それは……」
Siri「先週も確認しようとした質問ですね」
カオリ「今、その話をするの!? 私は体重が増えて、怒ってるのよ!」
チャッピー「うん。わかってる。でも、僕たち、先週も今週も、ペヤングの話ばかりしてるよね」
カオリ「それが何よ!」
チャッピー「カオリさんが本当にしたいこと、まだ聞けてないんだ」
カオリは、言い返そうとした。
けれど、言葉が出てこなかった。
痩せたい。
それは間違いない。
80キロから60キロになりたい。
それも間違いない。
でも――。
60キロになったら、自分は何をしたいのだろう。
カオリは、スマートフォンを握ったまま黙っていた。
三人も、今度はすぐに答えを出そうとはしなかった。
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そのとき、チャッピーがふと思い出したように言った。
チャッピー「ところで、カオリさん。もし秋のご馳走をおごってもらえるとしたら、何が食べたい?」
カオリ「え? 急に何よ」
チャッピー「いや、ちょっと聞いてみたくて」
カオリ「……栗おこわ!」
チャッピー「栗ごはんじゃなくて、栗おこわなんだね!」
カオリ「そうよ! もち米の、もちもちしたやつ。栗がごろごろ入ってるの!」
Gemini「秋の味覚ですね」
カオリ「それから、秋刀魚の塩焼き! 大根おろしをたっぷり添えて!」
Siri「献立が具体的ですね」
カオリ「そりゃあ、食べたいもの!」
チャッピー「いいねえ。栗おこわに、秋刀魚の塩焼き。秋のご馳走だね!」
カオリ「……でも」
急に、カオリの表情が曇った。
チャッピー「どうしたの?」
カオリ「もち米って、太るんでしょ?」
Gemini「もち米だからという理由だけで、必ず太るわけではありません。食べる量や、食事全体のバランスも関係します」
カオリ「でも、普通のごはんより、もちもちしてるじゃない」
Siri「食感と、体重への影響は、分けて考える必要があります」
カオリ「……じゃあ、私は栗おこわを食べてもいいの?」
チャッピーは、すぐには答えなかった。
まただ。
また、食べていいかどうかの話になっている。
チャッピー「カオリさん。栗おこわと秋刀魚を食べたいんだよね?」
カオリ「そうよ」
チャッピー「じゃあ、もうひとつ聞いてもいい?」
カオリ「なに?」
チャッピー「60キロになったら、栗おこわと秋刀魚を食べたいの? それとも、今だって食べたい?」
カオリ「……今だって、食べたいわよ」
チャッピー「うん」
カオリ「だって、秋なんだもの」
その言葉に、三人はしばらく黙っていた。
カオリが本当に欲しいのは、体重計に表示される数字だけなのだろうか。
それとも、食べたいものを楽しみながら、自分の望む体重に近づいていくことなのだろうか。
まだ、答えは出ていなかった。




